第18話 旅立ちの日
あれから三日が過ぎた。
そして、今日。
「いよいよ
国王の前には、完全武装した光と真琴の姿があった。
「はい。敬太達のおかげで、とりあえずこの世界での『力』の使い方もわかりましたし」
「後はお約束したとおり、黄金龍『ティラントー』……でしたっけ?
「約束では無く、『権利』では無かったかな?」
からかう様な国王の言葉に、真琴があわわと慌てる。
「それにしても、黄金龍が何故
「うーん……『声』ですかね? 声がまるで女の人に聞こえたものですから」
「ほう、龍の声を聴いたか。なるほどな」
「まぁ、女の子のカン、ですけどね」
そしてあはは、と照れくさそうに笑う。
「そう言えば神の化身の姿に変身するのに、大層難儀していると聞いたが?」
「あー……まぁ、道中でも人気の無いところで練習はしてみますよ。幸い相手にするモンスターには事欠かないようですし、この国」
それを聴いて、国王が呵々と大笑した。
「我々が五百年かけて勝ち取り、守り抜いて来たこの国の化け物どもの脅威も、貴様らにかかっては、ただの練習台と申すか! その意気やよし!!」
愉快で堪らないと言う国王とはうらはらに、光達を快く思っていない重鎮達からは、露骨に舌打ちする音が聞こえてきたが、別に構うことではない。自分達がこの世界に来てやりたいことが見つかった。それだけのことだ。
「さて、貴様達の決意の程は分かった。それに対して余から貴様らに僅かばかりながら支援をさせて貰おうか」
そう言って国王が手を鳴らすと、礼服に身を包んだ二名の男性が二人の前にうやうやしく出てきた。
その手には、三掴みはありそうな大判の金貨と、一本の豪奢な作りの
「王様、こいつは?」
「余からの旅の餞別よ」
光達は目を白黒させてそれを見つめていたが、その様が面白かったのか、国王はとんでもない事を言い出した。
「金ははまぁ旅の路銀の足しにでもなればと用意した物。そしてその短剣、抜いてみよ」
言われるがまま、恐る恐る
するとどういう代物なのか、淡く光り輝き、柄の部分に精巧な紋様が現れる。
「それは王家の名代をあらわす物。それを見せれば、貴様の言葉は余の言葉として意味を持つものとなるのだ」
水戸黄門の印籠とか、そんな効果があるものだろうか。
「身分証明書代わりになるって事ですか?」
「まぁ、そう考えて貰って構わぬ」
それなら、まぁ便利な代物には違いない。有り難く受け取ることにした。
周囲がなにやら騒がしかったが、光は無意識に無視していた。どうやらろくでもない事を言われている気がしたからだ。
「それとは別に、貴様達に紹介しておく者がおる。ザクールはおるか?」
「……はっ、ここに」
光達が慌てて背後を振り向くと、いつの間に居たのか、長身痩躯の剣士が立っていた。
光達だけでは無い。周囲の貴族諸侯からも「いつの間に?」という声が聞こえて来る。
「……ザクール・ジオクロス。お呼びにより推参いたしました」
「相も変わらず見事な隠形だな」
「……恐れ入ります」
そう褒められても、剣士は益々頭を下げるだけで視線を合わせようとはしなかった。
年齢は意外と若い。光達より少し上といったところか。ただ、気配というものが希薄で、顔立ちも、光の異常な記憶力を持ってしても、まるで印象に残らない、どこか陰鬱で不気味な感じのする青年であった。
「王様、この人は一体?」
「そうさな。貴様らの道案内役と監視役といったところか」
「お目付役ってことです?」
「そう思ってもらっても構わぬ」
なるほど、監視役か。
でもまぁ仕方ないか、と光は思う。
正直どんな馬鹿をやらかすか分かったものでは無いのだ。その保険くらいかけられて当然だろう。
「じゃ、ザクールさんだっけ」
「……は」
「これからよろしく」
そう言って右手を差し出し握手を求めるが、青年は顔を伏せたまま視線を合わせようとすらしなかった。
から手に終わった右手をわきわきさせていると、国王が苦笑して理由を述べる。
「無礼に感じたら許せ。そやつは
ってことは、今は間者とか忍者とかスパイとか、そういう職のものだろうか。
まぁ、いい。旅は道連れというし、旅の途中で親交を深める機会もあるだろうと、気楽に考えることにする。
「これで準備は整ったな」
そして、国王は高らかに祝辞を述べる。
「大神もご照覧あれ! ここに試練に挑むものが居る! この者達に祝福を!!」
それに倣って王侯貴族も「祝福を!」と唱和する。
こうして旅の準備は整った。
今に見ていろ、黄金龍。
殺してなどやるものか。
絶対に、助けてみせる!
光と真琴は見つめ合い、頷き合ってそう決意するのだった。
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