第27話 宝石は個室にいる
明け方近く、とはいえ、爆発への対処に「聖人」の双子の大喧嘩。やや早いとはいえ本来起きる予定だった時間も近かった為、少なくともイアリアはすっかり目を覚ましていた。
だから「元鐘楼の離れ」の扉を爆発する魔薬の小瓶で文字通り吹き飛ばし、扉の撤去をしてもらった後は、時間と湿気と埃で随分な有様になっていた、その内部を掃除していた。
師匠であるナディネの研究室や、大事な提出書類や課題レポートの一部をどこかに紛れ込ませてしまった兄弟子達の部屋を掃除し、必要な物を探すという事を割と頻繁にしていたイアリア。結果としてその掃除スキルは、魔法抜きでも相応に高くなっている。
「ま、感謝はしないけれどね。自分で掃除しなさいって言うのよ、まったく」
そんな感じで掃除した後、湿気などの対策を魔道具で行ったイアリア。ついでに、ただガランとした空間に階段があっただけの小さな塔を、主に魔薬作りの拠点と言う意味で自分の好きに物を配置した。
もちろんイアリアが遠隔操作で魔石を作り出せるのは(一応)秘密なので、日に何度も木箱を持った神官がやってくる。見回りの神官が身に着ける魔道具に、今もせっせと作られ続けている護符と、光属性の魔石はいくらあっても足りないのだ。
とはいえ、実際に魔石を補充している訳ではない。それに、魔石だけを運ぶのは非効率だ。だからついでに魔薬も教会へと運び込まれていて、今度はあちこちに分散して保管されている筈だった。
「まぁこの、元鐘楼にも祝福をかけてもらったし。湿気も対策したし、こうなると割と快適ね」
なんて事をイアリアが1人の時に呟くほどだ。もちろんその間もせっせと外に出て集めてきた材料を使って魔薬を作っているし、魔石を渡すふりをして魔薬を渡している。魔石を入れる筈の箱にも魔薬を入れているので、王都の教会にある魔薬の量は、外から見ている分よりずっと多い。
とはいえ、見回りの神官が切りつけられるという事件。神官に対する襲撃は、年末が近づくにつれてその頻度を上げているようだった。イアリアの助言により、光属性の防御の魔道具は神官1人につき2つ持ち、片方が切れたらもう片方を起動し、その間に魔石を嵌め直す、という事を徹底した結果、防げてはいるようだが。
「イアリアー、調子はどんな感じ?」
「なんでわざわざこんな、明らかに隔離された場所に……」
「イエンスはいい加減に機嫌直せ。拗ねてる場合じゃないだろ」
「拗ねてねぇし!」
ちなみに、夜になったら屋台で販売するスープの具材を受け取りにイエンスと守護騎士のうち2人がやってくる。守護騎士は交代しているが、ノーンズが来る様子はない。まぁ、流石に気まずいのだろう、と守護騎士になった4人は言っていたが。
なおイアリアは魔道具の場所を移しただけで、教会の敷地内に(自分と兄弟子と師匠以外の)転移を封じる結界を張ったままだ。とはいえこちらは「転移と言う魔法を防ぐ」という一点に特化しているので、邪神の影響を封じる役にはあまりたたないが。
ただし。以前は倉庫だけが対象になるように設置していた、光属性の清掃魔法を発動する魔道具。あれももちろん爆発で吹き飛んでしまったので、今度は教会の敷地全体を対象とした魔道具を新しく作り、荷物の箱に紛れさせる形で設置していた。
――――ドガァン!!!
だから。
「……私が居た部屋を吹き飛ばしたところで、何の意味もないのだけどね。だって私はここにいるもの」
それにしても、余りにも演技と動き方が下手くそ過ぎないかしら。
「元鐘楼の離れ」に移動した数日後に教会で発生した、今度は真夜中の爆発で飛び起きた直後。その大凡の場所を推測して、そんな事を呟いたりしていた。
今回で3度目となる爆発。……こうも続けば、いい加減にその方法だって分かりそうなものだしね、とも。
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