第3話 宝石は地下の形を思い出す

 今イアリアを含めた教会から依頼を受けた冒険者達が探索している隠し通路、というか立体迷路は、かなり高い山の上の方に入口があった。そしてそこから上方向へ向かう道は発見されていないので、山の内部を下っていく形になると予想されている。

 そしてその予想通りに、山の中を蟻の巣のように、いやそれよりもさらに複雑に繋ぐように、それこそ山の形に沿って下っていくほど道の数を増やしていく形で立体迷路は展開されていた。合流する通路も多く、どちらかというと網目のような形かも知れない。網だとするならこんがらがって使い物にならないだろうが。

 そんなある意味広大な立体迷路であっても、情報を共有して探索を進めて行けば、少しずつ全体図が明らかになっていく。イアリアを含めた探索班が文字通り足で稼いだ結果、どうにか山の麓と思われる高さまで辿り着いた結果。


「……さらに地下まで続いている上に、海のある北側以外の全ての方向に伸びているとか、ちょっと待ちなさい……!!」


 それを聞いたイアリアは、思わずそう呻いていたが、それは同じく話を聞いた他の冒険者も同じだったらしい。連絡役をしてくれている教会の神官は苦笑いをしていた。

 それでも探索しないという訳にはいかないし、もしこれが複数の国の地下にまたがって広がっているなら一大事だ。何しろ、地下を通ればどの国のどの場所にも邪教の関係者が行き放題、だとするなら、教皇マルテが予知した未来、狂魔草による世界の滅びがどこを発端としているのかが分からなかった事に、最悪の形で理屈が通ってしまう。

 すなわち、世界のどこであっても滅びの始まりは可能。世界のどこでも好きな場所で狂魔草の大繁殖が、周辺の命と土地の力を奪い尽くして行われるそれが、発生しうる、という事だ。


「しかしまぁ本当に、良くここまで長大で複雑で、それでも大体少人数で動くなら動きやすいし地面もほぼ平らになってる通路を、こんなほとんど果てがないって言える程に掘る事が出来たもの……」

「どうされました?」


 大変ややこしくなっていて、絡まり切って切るしかなくなった網のようだ。情報が整理されて見やすくなった分だけ、脳内で組み上げられるその形は複雑極まりない。

 しかしその上で、イアリアはその、実際に図に起こしたら頭が痛くなりそうな内部図に、奇妙な既視感を覚えていた。とはいえ、こんな滅茶苦茶な、およそ人が作り上げたとは思えないし思いたくない、ややこしくて面倒なばかりの構造を持つ建物の、それも内部図など、見たとすればかなり限られる筈。

 そう思って言葉を途中で切って考える事しばらく。


「……。これだけ冒険者がいると言う事は、冒険者ギルドとはそれなりに太いつながりがあると判断していいのかしら?」

「は、えっと、えー、まぁ、良識の範囲で形式を守ってのお願いは普通に聞いていただける程度ですが……」

「冒険者ギルドの百年遺跡支部に連絡を取って、あの遺跡を作り続けていたと思われる装置の事を照会して見て。冒険者ギルドにも狂魔草の事か邪教の事を共有しているなら動いてくれる筈よ」

「装置……あぁあの、昨年発見されたという」


 思い出したのは、二度目の魔力暴走に見せかけた強制転移。どうにか妨害を挟む事が出来て比較的安全な場所へ転移先を書き換えた結果放り出された、百年遺跡の通路と同じ高さ、同じ幅で広がり続けていた複雑極まる地下通路だ。

 そう。確かイアリアが提出した地図を元に大勢の冒険者が通路の端に向かい、野生動物や魔獣と戦いながら探索した先で、通路を作っている原因が確保されていた筈だ。一応そこまでは聞いていたイアリアである。

 まぁイアリア自身はその後ノーンズに強襲、もとい電撃訪問をかけられたり、そこへ良すぎるタイミングでサルタマレンダ伯爵からの実質呼び出し状が届いたり、どうせならそのままイエンスを攫って逃げてしまおうという計画を立てたりしていたのでそこから先は聞いていないが、数年で仕組みが明らかになるようなものではない筈だ。


「えぇ。この通路の複雑さと大きさ、たぶんそれでやったのと近いか同じだわ」

「はいっ!?」


 もちろん、一定の大きさで地質に関係なく通路を作る装置はいくらでも応用が利く。だから冒険者ギルドも本体は当然確保しているだろうし、情報的な意味でも厳重に封鎖している筈だ。

 ただし。それが、邪教に関係しているなら話は別だろう。冒険者ギルドが「魔王」についての話をどれだけ正確に把握しているかは分からないが、少なくとも、狂魔草がどれほど危険な物なのかは、しっかりと分かっている筈なのだから。

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