第2話 宝石は地下を歩き回る

 隠し通路の先に広がる迷路のような場所の探索を進めているイアリア。非常に大容量というか上限が見えない内部容量となっている、内部容量拡張能力付きの鞄……マジックバッグには教会が用意してくれた保存食や野営道具の類が詰め込まれている。

 なおイアリアの注文であるマナの木……魔力を栄養の1つと認識する変異したらしい、魔力の通りが良い上に魔力を与えれば無茶な再生もする樹木……の角材や枝の束といった木材も用意されたが、マナの木を知らないらしい受け渡し担当の人物に、薪ですか? と聞かれたりしていた。

 まぁそのやりとりはともかく、現在黙々と歩いているイアリア。しかし。


「……これはたぶん罠よね」


 残念ながらと言うべきか、イアリアは冒険者をしていたが、その活動はほぼ魔薬師としてのものだった。翻って冒険者ならたびたび経験する野盗退治をしたのは、護衛依頼中に襲い掛かって来たのを迎撃したり、砦の外から特大の一撃で奇襲をかけると言ったもので、相手の拠点に踏み込んだ事は無い。

 つまり、人が仕掛ける罠の解除が出来ない。一応見分け方についてはある程度心得があったし、追加でざっくり元冒険者組に教えてもらった為、怪しい場所を避ける程度は出来るのだが……自分が罠を仕掛ける事と、罠を発見する事と、他人が仕掛けた罠を解除するのは別技能のようだ。

 しかし、イアリアは単独行動しているが、この迷路をたった1人で踏破しろとは言われていない。教会に協力的で事情を説明できる冒険者は他にもいて、罠がある場所を報告すれば、解除に来てくれるのだ。


「連絡用の魔道具を貸してもらって良かったわ。便利ね、これ」


 これも教会が集めて保管していた魔道具であり、この魔道具に使う魔石はイアリアが供給している。つまり使い放題という事だった。なので道順はメモを取りつつ、何かを発見した報告のついでに共有する形になっている。

 もちろん場所は分かってもそこまでの移動には時間がかかる為、その間イアリアは別の場所を探索に行くのだが。


「それにしても、本当に複雑な地下通路ね……」


 まぁ事情を説明できると言っても、この場所が邪教の拠点にあった隠し通路である事と、この先に邪教の大きな拠点か大事な場所がある可能性が高い事、そして狂魔草という危険物が邪教、というか邪神のもたらしたものというところまでで、狂魔草によって世界が滅びる未来を予知した、というのは秘密なのだが。

 そしてイアリアも「永久とわの魔女」の弟子の元魔法使いで現魔石生み、ではなく、狂魔草に詳しい「冒険者アリア」として紹介されたから、この地下の、岩と土をまとめて雑に掘り抜いた通路でもフード付きマントで姿を隠したままだし、魔石の出所は教会となっている。

 魔石を手渡ししていればバレそうなものだが、イアリアは最近「遠距離から目視出来ない座標を指定して魔法を発動する」技術を習得した。魔石が入っている箱と言う名目で空箱を運んでもらい、その内部の座標を指定して魔法を発動させれば、箱の中に魔石が出現する。


「ところどころ道が合流していて、通った道を必ず戻らなければならない訳ではない、というのはまだ幸いかしら」


 ……これを魔法に置き換えた場合、イアリアは相手の居場所さえ分かっていれば、その体内に直接魔法を叩き込めるという割と恐ろしい技術なのだが、そういう物騒極まる使用法はまだ思いついていないようだ。


「それでも、内部で寝泊まりしないといけないぐらいの大きさはあるけれど。……最短ルートを通ったとしてもこんなに時間がかかるのなら、何かの移動経路と言う訳ではなさそうかしら。最悪、隠し通路を見つけた相手を全滅させる為か、時間を稼ぐための罠って可能性もありそうね」


 まぁそれ以上に、今探索を進めているこの地下通路の正体が気になっているだけかもしれないが。

 いちいち戻って報告し共有しなくてもいい、という事で、探索自体は大変順調に進んでいる。それでもなお全容が全く見えない地下通路に、イアリアは早くもげんなりしているのは確かだった。

 その感想は、この階段や坂道などで上下移動もかなり行わなければならない迷路を、同じく探索している全員に共通のものだったりしたのだが。

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