第16話 宝石は崩落を眺める
イアリアが設置した魔道具は、効果範囲内の魔力を吸い集めて中和する、という形で、範囲内の魔力を相殺する。つまり、魔法どころか魔道具も使えなくなる訳だ。その元となる魔力及び魔石が消えるのだから。
しかしその魔道具は、先ほどの揺れで破壊までには至らずとも、固定が外れて横倒しになっている。そして魔道具とは固形化した魔力である魔石を動力源とするものであり、魔道具の指定の場所に入った魔石が無くなれば動かなくなる。
だから通常の魔道具は、魔石が落ちたり外れたりしないようにどこかへ魔石を嵌め込む形になっているし、何なら他の魔道具の影響を受けないように対策されているのだが、今回イアリアが間に合わせで作った魔道具は、大きな箱に魔石を入れる形となっていた。だから横倒しになれば、魔石が転がり出て稼働時間が大幅に短くなる、という事だ。
「維持時間が長くなったわね。……そろそろ肩も痛くなってきたし、そう持つとも思ってなかったからいいのだけど」
そしてイアリアは現在、光属性の魔石に直接加工を施して、灯りとして崩れつつある平地だった場所の上へと投げ続けていた。それは光属性の魔力が魔道具の効果範囲内に追加されるという事であり、効果時間切れが早まるという事だ。
その効果切れを、簡易的な照明弾の効果時間の変化という形で知ったイアリアは、自分の手の中に、スープ皿ほどもある魔石を作り出した。そしてその魔石に、ここまでとは段違いに複雑な模様……魔法式という、魔法学園で教えてイアリアが習得した、魔法を制御する為の後付け理論による計算式兼命令文を刻み込んでいく。
そしてそれとは別に風属性の魔石を作って、こちらには触れた物をまっすぐ前に吹き飛ばすだけの魔法式を刻み込み、
「せぇ、の!」
そこそこ重量がある光属性の魔石にぶつけて、今も崩壊が続いている平地の上空へと、吹っ飛ばした。
刻み込まれた魔法式に従って魔石は光の塊へと変化し、綿毛のようにゆっくりと落下しながら、周囲を照らし出した。新月かつ曇りの夜、という、限りなく純粋な闇に覆われていた周囲が、昼間のように照らし出される。
その状態で周囲を見回したイアリアは、まず平地の崩壊が全体の3分の1ほどまで進んでいる事。ついでアクレーが、小屋から出てきて地面に縫い付ける形で行動不能にした8人の内、5人を元々の山の斜面まで運べている事を確認した。
「……流石にちょっと陰になっているけれど、そろそろ内部構造が見えてきたようね」
そして、原因不明だが大きな揺れが起きた結果として、平地が崩れて谷に戻っていく。と言う事はつまり、その谷だった場所に作られていたものは崩れ、その内部が見える。
小屋を地上部分としたその地下にはやはり巨大な空間があったらしく、イアリアの見ている間に部屋が現れ、通路が現れ、それが端から崩れて行った。中には生活していた人間のものらしい棚やベッドが含まれていたが、大量の土砂に巻き込まれればただでは済まない。
「……もしかして、この後この崩れた土砂から何かしら証拠になる物が無いか、探さないといけないのかしら」
間違いなく過酷な作業が発生したような気もするイアリアだが、それは気付かなかった事にして。
地下の空間、人間が生活していただろう痕跡を多数含むそれが崩れていくのを見ながらイアリアが気付いたのは、その中に人間そのものが全く含まれていない事だった。
見えているだけでも随分と深さがあり、縦に並んだ部屋の数からして、5階分以上はあるだろう。そして人間が生活していた痕跡は山ほど出てきて崩壊に巻き込まれているのに、その主体となっただろう人間が全く見当たらない。
「まぁ、普通は逃げるでしょうし……そもそも、私達の仕事は「可能な限りの生け捕り」だものね。端から無力化しながら進めば後ろからの不意打ちの危険も下がるでしょうし」
そう呟きながらイアリアは腰のベルトのあたりを触る。ほぼ肌身離さず、いつもそこに下がっていた
何故なら、突入前の確認でノーンズが言ったからだ。イアリアが所持しているマジックバッグは、世界最高の魔法使いという呼び名をほしいままにしている「
まぁだから。
「……鞄の中身、大丈夫かしら……」
たぶん、片っ端から無力化して拘束して、マジックバッグに放り込みながら地下へと進んでいったのだろう。と、イアリアは予測していたし。
今も、そろそろ部屋の1つぐらいは丸ごと崩れて谷底へと消えていく中に動くものが何も無いという現状、恐らくそれは間違っていないのだろう。
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