第19話 馬鹿だなぁ、あんたは

【side:静谷凛】


 「くくくくく…」


 男から暴力を受ける数十分前。


 静谷凛はホテルの1室で椅子に座り、不気味な笑い声をあげていた。


 「もうすぐみんなやってくるわぁ。私が自由に使える『ともだち』が…」

 

 凛が円二や結愛への復讐を果たすために必要な人物たちである。金を払えば大抵の悪事はこなす連中。凛の胸に宿るドス黒い計画を実行するのに不可欠な人間。


 「これで、きっと円二くんは私のところに戻ってくるわ。だって、円二くんは私の…」


 凛は途中まで言いかけて口をつぐんだ。


 (ふふふふふ…だめね。これを言っちゃ。円二くんはポカンとした顔を浮かべた後、火のように怒るでしょうし…口には、絶対できないわ)


 そのため、文字にすることにした。ボロボロのひび割れたスマートフォンを取り出し、メモ帳に文字を打つ。


 ー円二くんは 私の H


 しかし、やはり途中で辞めてしまう。


 「ああんっ、やっぱりだめ…これは、絶対に秘密なんだから。そのために、あいつだって大金を払って…くくくくく…でも、これだけならヒーローなんかと勘違いしそうね…円二くんは騙されやすいから…ふふふふ」


 ピンポーン。


 凛が独り言をぶつぶつと繰り返していると、部屋のチャイムが鳴らされた。


 「来たわね!」


 椅子から弾け飛ぶように立ち上がり、部屋のドアを開けた。


 「みんな来てくれたのね!ここじゃ狭いから別の場所で…え?」


 だが、凛の笑顔は数秒で固まる。




 来訪者の数が想定よりも少なすぎたからだ。


 「別に移る必要もねーよ。ここで話せばいい。なぁ?」


 先頭にいたのは赤城信也あかぎしんや

 

 オールバックにした髪型と、頬につけられた切り傷が威圧感を与える男。 


 中学校卒業後は進学せず、いわゆる半グレと呼ばれる反社会的集団と行動を共にしている。

 

 手には十徳ナイフが握られており、いつでも刃が出せるように構えられていた。


 「ぎゃははははは!悪いな凛ちゃん!同じクラスの人間40人中4人しか来てなくてよぉ!同窓会が泣いて呆れるぜぇ!」


 でっぷりと太った豚のような顔した男。


 「…まあ。この女の人徳を考えれば当然でしょうね。反吐が出る」


 地味なメガネをかけたスキンヘッドの男。


 それぞれ経歴は異なるものの、赤城と同じく、中学卒業後は悪事に手を染めている者たちだ。


 「…や、やっぱり来るんじゃなかった…」


 列最後尾にいるメガネをかけた女子、池澤絵梨花いけざわえりかだけが高校に進学しているが、彼女もすでに万引きなどの詐欺行為に手を染めていた。


 「な、なんでこれしか来てないのよ赤城さん!私はあなたに100万円渡して人を集めてってー」


 「しょうがねえだろ?お前の『ゲーム』に全員が協力したのは1回きり。その後は、みんなお前を不気味がって半数以上は離れていった。今更また『ゲーム』をしようなんて言っても来るわけがねえ」


 「ぐ…!」


 「真っ当な人間は、だかな。俺たちは金が欲しいなら協力するぜ。『ともだち』として」


 このメンバーにはある共通点があった。


 それは、小中一貫校で各クラスが1クラスしかなかった聖陵第一学園せいりょうだいいちがくえん出身であること。

 同じクラス構成で9年間を過ごしてきた。




 静谷凛と丸山円二、2人の同級生である。


 

 ****



 「い、いいわ。これだけいれば、私の計画を実行するのに十分よ…」


 凛は平静を装いつつ『ともだち』を招き入れるが、内心は怒りがおさまらない。

 少なくとも20人というのが彼女の想定であった。


 中学校卒業までは20人ほどが最後まで『ゲーム』に参加してくれたのだから。


 (あいつら…私があれだけいい思いをさせてあげたのに…許せない!!!役立たずどもっ!!!)


 「早くしろや凛!おめえみたいなクズには金以外用はねえんだからよぉ!ぎゃはははははは!」


 「なんですってえ!」


 挑発してきた豚男に怒り、思わず立ち上がる。


 だが、そこに至って凛も冷静さを取り戻した。


 (こ、こいつ等がいないと私の計画は、の完成は達成できない…今は耐えて…全て終わったら警察に突き出してあげるわ…!)


 再び椅子に座り、怒りに震えながら、凛は『ゲーム』の内容を話し出した。




 「今回の『ゲーム』でみんなに頼みたいのは…」

 


 ****



 「…計画は以上よ。すごく簡単でしょ?完成した作品はあなたたちの好きにしていいわ♪」


 全てを語り終え、凛は猫撫で声で周囲に語りかける。

 

「「「……」」」


 ほとんどが無表情で押し黙り、言葉一つ発さない。


 「…っ。この人、やっぱり悪魔だ…」


 「何か言った?」


 「いえ!な、なにも…」


 池澤絵梨花だけが小声で悪態をついたが、かろうじて露見せず済んだ。


 「ならいいけど。報酬は前金1人100万円、成功したら追加でもう100万円出すわ。多少リスクはあるけど、十分でしょ?」


 凛は立ち上がり、両手を広げて叫んだ。

 トラブルもあったが、軌道修正は容易だ。


 全ては円二と結愛に罰を与えるため。


 そしてー、




 円二の愛を取り戻すため。


 「さあみんな!久々に『ゲーム』を楽しみましょう!!!今から役割を…」


 狂気にかられた凛が叫び声をあげた時ー、




 「待て」


 彼女を制止する者がいた。

 



 赤城信也である。



 ****

 


 「な、なに…?」


 「『ゲーム』には従ってやる。ただし…」


 赤城はにやりと笑い、右手の指を5本突き出した。




 「報酬は500万円にしろ。前金で500万円。成功したら500万円だ」


 「な、何ですって…!!」


 「危ない橋渡るんだ。そんぐらい端金だろ。決行日までの生活費200万円も上乗せだ」


 「調子に乗るんじゃないわよ!そこまで渡すものですか!」


 「じゃあ俺は参加しない。じゃあな」


 赤城は立ち上がり去っていこうとするが、それを見逃す凛ではなかった。


 「もし逃げれば警察に突き出してやる!!!あんたが主犯だって言いふらせば確実に捕まるでしょうね!ここに来た時点で…逃げられないのよあんたたちは!!」

 

 再び赤城含むメンバー全員を見回し威嚇する。


 その声を聞いて、赤城が再び振り向いた。


 「馬鹿だなぁ、あんたは。昔から何も変わってない」


 「え…?」


 「自分だけは賢いと思って他人を見下してるし、人を利用することにためらいがない。だが…」

 

 服の袖から、とあるものを取り出す。






 「今回はこっちが利用させてもらうぞ」


 それは、黒いICレコーダーだった。

 

 

 ****



 「な、なんでそんなもの…!!!」


 「どうせやばいことさせられると思ってな。用意させてもらったぜ。お前がさっき意気揚々と語った犯罪行為の内容がぜーんぶ入ってる。捕まるのはあんただけだ」


 「か、返しなさい!!」


 凛は赤城に詰め寄り、ICレコーダーを引ったくろうとする。

 

 だがー、


 「ぎゃあああああああっ!」


 裏拳で殴られてもんどりうった。

 容赦のない一撃で、凛の顔から血が噴き出す。


 「あ、あんたたち…!金を持ってる私に、なんてことをするのおおおおっ!?」


 「うるせーな。それぐらい構わねーだろ」


 「ひいっ…!」


 赤城は静谷凛の胸ぐらを掴み、嘲笑った。


 「だって、俺たち『ともだち』だろ?」


 周囲の人間も次々に凛を嘲笑いだす。


 「ぎゃははははは!!こんな古典的な手に引っかかるとかダサすぎ!金づるできてラッキー!」


 「昔は恐ろしい存在に思えましたが、今となってはただの道化ですね。せいぜい絞り取りましょう…」


 凛は、その時に初めて自分が騙されたことに気づいた。


 「あんたたち…最初からそのつもりで…私を騙したの?」


 「「「ぎゃはははははははははっ!


 男たちは誰も答えない。ただ嘲笑うだけである。





 「いやああああああああっ、助けて…円二くん…」


 凛は助けを求めたが、その声を聞くものは誰もいなかった。



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします! 

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