激突! 悪役令嬢vs仮面令嬢!

 しばらく睨み合った後、最初に動いたのはルナだった。正面から突進して裁きの杖を横凪に振るう。


 とっさにサリーは滅びの杖の両端を左右の手握って裁きの杖の一撃を受けた。杖同士がぶつかった瞬間に反対側へと体が宙に浮く。しかし、体を流されたサリーはこけることなく何とか踏ん張った。


 その様子を見たルナが感心するように驚く。


「へぇ、あれを受けたんだ。意外にも体を鍛えてたとか?」


「どうですかね。体調に気を遣っていたのは確かですけど」


 腕が痺れるのを我慢してサリーが答えた。先程の三男坊よりも早く力強いことに内心で焦る。とても滅びの杖の使い方に熟練しているだけでは対応できそうにない。


 そのとき、リトルキッドがサリーの真横に近寄ってくる。


「さすがに非常用の武器だけだと苦しいみたいだね。こうなったら、ボクの力で一時的にサリーを強化しよう」


「そんなことができるのですか!?」


 ゲームにはなかった新展開にサリーは驚いた。その間にリトルキッドが光り輝く玉になったかと思うとサリーと重なり、変身する。


 輝きが収まるとそこには、仮面なしで紫色という以外はルナと同じフリルの付いたかわいらしい衣装を着たサリーが立っていた。


 いきなり変身したことにサリーは動揺する。


「えぇ? どうして私まで魔法少女の衣装に変わるのですか」


 前世の人格のせいで精神年齢が高いので、小学生くらいが喜ぶ魔法少女の衣装を着たサリーは平静ではいられなかった。


 そこへ間髪入れずにルナが襲いかかってくる。


「あたしのマネをするなんて生意気な!」


「好きでしたんじゃありません!」


 頭をかち割るべく振り下ろされたルナの裁きの杖を、サリーは軽やかに横へ飛んで避けた。更に追撃でルナが杖を横凪に振るってくるが、これも滅びの杖で受け流す。


 先程とは違い、明らかに力負けせず動きもついていけていることに両者が驚いた。


 衣装はできるだけ見ずに滅びの杖へと目を向けたサリーがつぶやく。


「これがリトルキッドの力?」


『あくまでも一時的だよ。長くは保たないから、早く勝負をつけて』


 頭の中に響いた妖精の声を受けてサリーが正面に意識を向けた。そこには、憎しみに満ちた表情のルナが裁きの杖を構えている。


「ふん、そんな即席の魔法少女なんかに負けるもんですか! なんてったって年季が違うんだから!」


「場数って言った方が良くありません? 年季だとお年寄りみたいに聞こえますよ?」


「うっさい! 死ねぇ!」


 激高したルナが突っ込んで来た。同時に裁きの杖を縦に振るう。


 バックステップでそれを躱したサリーは反撃するべく、ルナが杖を引ききる前に前へ出た。そして、間合いに入ると滅びの杖を振るう。


「はっ、当たんないわよ、そんなの!」


 余裕の表情でルナが横へ飛んでサリーの攻撃を避けた。


 一度仕切り直しとばかりに二人は間を空ける。


 今の攻防で変身後は互角に戦えそうなことはサリーにもわかった。しかし、戦いの経験に関しては埋めようがないことも自覚している。真剣に対応されると近いうちに地力の差が現れるのは間違いない。


 余裕の態度のルナが嫌らしい笑みを浮かべて話しかけてくる。


「その様子じゃまだ魔法少女の力に慣れてないようだし、勝負の結果は明らかよね。そんなダサイ武器であたしと戦おうなんて無謀だって教えてあげるわ!」


 楽しそうにしゃべったルナは猛然と突っ込んで来て裁きの杖を打ち込んできた。


 受けるのは得策ではないと判断したサリーは背後へと避ける。


「意外と当たらないものですね」


「うっさい! 反撃もできないくせに!」


 グラウンドの端へと追い詰められながらもサリーは反撃の機会を窺った。そして、次第に雑になる攻撃を避け続け、ついに滅びの杖を思い切り振る。


「そこ!」


「そんなの!」


 絶妙な位置とタイミングで振り下ろされたサリーの杖に合わせて、ルナは自分の杖を動かした。滅びの杖の鎖をつなぎ止める部分を裁きの杖で受け止める。ルナはこれで攻撃を防いだと確信した。


 ところが、滅びの杖はモーニングスター型の武器である。杖の部分の動きを止めても、鎖から先の動きは止まらない。鎖の根本を軸に先端部にあるハート型の塊が急角度でルナの左側頭部へ斜め上から直撃する。


「がっ!?」


 呻きとも悲鳴とも受け取れる声を発したルナが、よろめいて地面へとへたり込む。


 肩で息をしていたサリーはその様子を眺めていた。すると、リトルキッドが声をかけてくる。


『やったね! けど、まだ生きてるよ。ちゃんととどめを刺して!』


「えぇ、これで終わりではないんですか?」


『きちんと殺さないと悪霊を滅ぼせないんだ! お願い!』


 急かされたサリーはぼんやりと座り込んでいるルナに近づいた。


 正直なところ今すぐにでも逃げ出したかったが、毒を食らわば皿までと再び滅びの杖を思い切り振るう。


 さすがに無防備の相手に攻撃を外すことはなく、鈍い音を立てて頭から血を流したルナが倒れた。すると、ルナから黒い煙が現れて絶叫と共に消え去る。その直後、ルナはナイアへと戻った。頭部に受けた傷はきれいに治っている。


「こ、これで終わったんですか?」


「うん、終わったよ! ありがとう!」


 サリーの変身も解けた後に現れたリトルキッドが、その頭上を元気良く飛び回った。しかし、手に残る打撃の感触もあってサリーはまったく嬉しくない。


 ともかく、これで人生最大の危機は去ったとサリーは安堵した。これでもう撲殺される悪夢を見ないで済む。


 ただ最後に、グラウンドに倒れているナイアやアラン王子たちをどうするべきかで、サリーは途方に暮れた。

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