第7話 お姉さんは謝りたい
二度寝から目覚めるとお母さんはすでに仕事に出た後だった。
数年前に離婚して以来、お母さんは俺のために土日も返上で働いてくれている。どれだけ、助けられてきたか。お母さんには頭が上がらない。
だから、せめて家の中のことくらいは俺がやろうと思っていた。
掃除、洗濯、ご飯、家事全般は俺の役目だ。
「とりあえず、顔を洗うか」
そう思って、ソファーから立ち上がるとスマホが鳴った。
誰だろう?
現在は午前十一時。
『おはよ! 早朝のやりとり見てビックリしちゃった。迷惑かけたみたいだね。ごめんね』
ごめんね、の後に泣いてる絵文字が入ったメッセージを送ってきたのは椎名さんだった。
早朝、早朝、ああ、あのことか・・・・・・。
俺は、早朝の出来事を思い出して、なんとも言えない気持ちになった。幸せなような、恥ずかしいような、なんてことをしてしまったんだというような。そんな感情がごちゃ混ぜになった気持ち。
と、とりあえず返事を返そう。
『おはようございます。大丈夫ですよ』
そっけない返事を送って送っておいた。
すると、すぐに既読がついてメッセージが返ってきた。
『もしかして、私、正輝君を怒られせるようなことした? それなら、謝る。ごめんなさい。実は、今朝のこと全然覚えてないんだよね』
語尾にさっきと同じ泣いてる絵文字がついていた。
覚えてない・・・・・・。そっか、覚えてないのか。俺はホッとした。
『怒ってませんよ。ちょっと、ビックリはしましたけど』
『え! 私何したの!?』
『寝ただけなので安心してください』
『寝た!? 寝たって、もしかして・・・・・・エッチしたってこと・・・・・・?』
椎名さんから帰ってきたその返事に俺は思わず二度見してしまった。
たしかに、俺の言い方も悪いけど、そこまで飛躍する!?
それに、手なんて出せるわけない。椎名さんに手なんか出してしまったら、今朝怒鳴りつけてきた、あの男に何かされそうだし。
そもそも、そんな度胸、俺にはない。
『飛躍しすぎです。ドレス乱れてないですよね?』
『そ、そうだよね・・・・・・(汗)
でも、きっと迷惑かけたよね。ごめん。そのお詫びといってはなんだけど、今日ケーキバイキング行かない?』
ケーキバイキング。なんて甘美な響きだろうか。
何を隠そう俺は甘党なのだ。ケーキは大好物だ。
早朝のことを俺は迷惑だなんて思ってはいなかったけど、連れて行ってくれるというのなら、その好意をありがたく受け取っておくことにしよう。
『何時ですか?』
『行ってくれるの!? じゃあね、十五時に私の家に来て~』
『分かりました』
椎名さんから最後に「楽しみ」と言葉付きのうさぎの可愛らしいスタンプが送られてきた。
俺はそれに既読を付けると今度こそ顔を洗いに行った。
頭をシャキッとさせると、自分の部屋に戻った。
「さて、残り四時間。何をやろうか……」
というか、その前にご飯を食べるか。早朝はあんなことがあったし、二度寝をしたからご飯を食べそびれていた。
俺は遅めの朝食ならぬ早め昼食を食べることにした。
キッチンに向かい昼食を作る。この後のケーキバイキングのことも考えて軽食にしておいた。おにぎりを二つだけ作って自分の部屋に戻る。そして、それを食べながら、ケーキバイキングの時間まで受験勉強をすることにした。
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