第8話 冒険者

冒険者は冒険しない。


彼らは魔物の討伐などを行うが、所詮は小物狙いだ。

害獣退治以上の魔物と戦うなどあり得ない。


何故なら、彼らは弱いから。


だから強い相手とは戦わない。

相手するのはあからさまな格下のみ。


冒険者は冒険しない。


世界を旅してまわる冒険者など極一部だった。

何故なら、自分の知らない未知を彼らは恐れるからだ。

だから、自らのテリトリーの外で起こる危険に対応する力がない彼らが外の世界へと旅立つ事はなかった。


そして極一部の例外も、その大半が脛に傷を持ち、一所に留まれないから各地を巡っているだけにすぎないのが現実だ。


では冒険者とは何か?


一言で言えば何でも屋だ。


掃除洗濯から、メッセンジャーのようなちょっとしたお使い。

近所のどぶ晒いから害獣退治。

鉱山作業のヘルプや近場への護衛。

山師の様に薬の材料になる植物を採集したりと、その仕事内容は多種多様に富む。


こう言うと色々頑張っていると勘違いされてしまうが、実際はまったくその逆だった。


彼らは一つの道を究める事を放棄し、簡単で楽な仕事を選択した落伍者だ。

だから彼らの技術はプロフェッショナルに程遠い。

本職に付けない、もしくは続ける根性の無いはみ出し者のプー太郎共。

それが冒険者だ。


私達は今、その社会の底辺の総本山とも呼ぶべき冒険者ギルドの前に立っていた。


「本気ですかお嬢様!冒険者なんてクズですよ!クズ!」


お嬢様の在り得ない提案に、私は興奮して声を荒げる。

何をとち狂ったのか、あろう事かお嬢様は突然冒険者になると言いだしたのだ。


在り得ない!

だって私達は超エリートである(特にお嬢様は超超超超超超絶エリート)。

そんな私達が社会のド底辺である冒険者になるなど、本当にあり得ない


言っちゃなんだが、お嬢様に拾われる前の丁稚時代だって私は冒険者の事を見下していたんだ。

それが大賢者の称号を得て、ミャウハーゼン家に仕える今の超エリートへと成り上がった私にとって、冒険者など最早ゴキブリに等しい。

いや、必死に生きている分まだゴキブリの方が遥かに見所があるぐらいだ。


それ位私は冒険者を見下している。

そんなG以下の存在と、カモフラージュとはいえ肩を並べるなど怖気が走る。

マジ勘弁して下さい。


「クズかどうかはともかく。いくらお忍びで身分を偽装する必要があるとはいえ、流石に冒険者と言うのは私も如何かと思いますが?」


珍しく、ペイルが私の言葉を援護する。

彼も偽装のためとはいえ、社会の底辺に身分を落とすのは嫌なのだろう。

まあ私から見たらペイルもゴキブリ以下なのだが、今はその気持ちをそっと仕舞って置くとしよう。


私は心の中でペイルを応援する。

お嬢様は私の言葉など絶対に聞き入れてはくれないが、ペイルの言葉になら耳を傾ける可能性があったからだ。


「何故かしら?」


「冒険者などと呼ばれていますが、その殆どの者は拠点とする範囲から動く事はありません。只の地域密着型の何でも屋です」


その通り!

よく分かってる!

頑張れペイル!


まさかペイルを応援する日が来るとは夢にも思わなかった。

正に昨日の敵は今日の友という奴だ。

もちろん握手した後は、綺麗に手を洗わせてもらうが。


「中には様々な場所を放浪する物もいますが、そういう者達は一所に留まれない、脛に傷を持つ者だけです。冒険者に登録して各地を巡ったのでは、周りからの偏見の目が大きくなって色々と弊害が――」


「それが面白くていいんじゃないの。順風満帆な旅なんて詰まらないでしょ?そのために魔法を縛ってるんだし」


お嬢様が柔らかな、まるで春の麗らかな日差しの様な笑顔を此方へと向ける。

何故この人はこんなふざけた台詞を放ちながら、そんな眩しい笑顔が出来るのか?

正直謎でしょうがない。


「これは決定事項よ。二人とも」


お嬢様の理不尽な鶴の一声には、ペイルも黙るしかない。

所詮ちびっ子に期待した私が馬鹿だった様だ。


ファッキン役立たずめ!


「こんな所で無意味に立っていても、出入りの邪魔になるだけだわ。さあ、入りましょう」


こうして始まる。

私たちの冒険者ていへん生活が。

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