生まれ変わったら私なんてGになればいい(笑)って冗談だったんですが

きらめき潤

プロローグ

 私の妹はすごい―――。姉の目から見ても素直に賞賛を送るしかないくらいの完璧さだ。実は本当の正体は天使で、間違えて我が家の一員になってしまったのではないかというくらい。


「お姉ちゃん、学校遅れちゃうよー?」


 困ったように眉尻を下げながら、毎朝のように優しく私を起こしてくれるのが我が家の天使様。

 可愛い声、可愛い容姿、素晴らしい性格、勉強もできるしスポーツもできる。他人の悪口なんて言ってるところを聞いたことがないし、誰にでも分け隔てなく接している彼女は、もちろん皆の人気者だ。学校の皆が彼女のことを好きだと思う、本気で。かく言う私もその1人だ。


「ごめんね、花恋(かれん)ちゃん、毎朝ありがとう。ちょっと待って。今用意するから」


 妹の花恋とは違い、私には良いところが全くと言っていいほどない。決して謙遜なんかではない、本当に決して。声は濁ってて、喋りかけると99%の確率で相手に不愉快な顔をさせるし、容姿もよく馬鹿にされたり、酷い時は化物だなんて言われたりする。勉強もスポーツも万年最下位で、クラスの平均点を1人で大きく下げる自信があるし、体育祭なんて私にとっては皆の足を引っ張る行事でしかない。

 そんな私は友達と呼べる人も1人もいないのだが、強いて長所を上げるなら性格が前向きというか、卑屈でないというか……。とにかく、周りからの評価は気にならないので、妹といくら比べられてもへっちゃらだし、むしろそんな出来の良い妹がいることこそが誇りである。自分で言うのもなんだが、性格は悪くないんじゃないかと思う。でもたまにふと、こんな私なんて生まれ変わってGにでもなった方がいいんじゃないかって思う。もちろん本気ではないけれど。


「今日はね!お姉ちゃんの好きなふわふわパンケーキにしたよ!」

「ほんと?!さすが花恋ちゃん!お姉ちゃんのことわかってるー!!」


 ついでに花恋は料理も得意なので、引く手数多、嫁ぎ先には困らない。噂では石油王から求婚されたとか。花恋と恋バナをすることはないので、真偽は確かめていないが。


「でね、お姉ちゃんに実は大切な話があって。学校から帰ってきたら話したいんだけど……」

「もちろん。じゃあ、今日は寄り道しないで帰ってくるね」


 言いにくそうに少し目を逸らしながらそう言う花恋。何の話だろう……ペットを飼いたいとかかな?

 そうそう、現在我が家には花恋と私以外の家族はいない。両親は海外が好きなので海外でよく仕事をしている。何の仕事かは知らないけれど。いつ帰ってくるのかは分からないが、時々思い出したように手紙が届くので多分元気にしているのだろう。


「じゃ、そろそろいこっか」

「うん、そうだね!」

「「いってきまーす」」


 誰もいない家に姉妹2人の声が溶け込む。いつもと変わらない日常。いつも通りの1日。もうこの家に帰ってくることはないのだと少し後に私は知る。


「……!あぶない!!」

「きゃあっ!!お姉ちゃん!!!」


 横断歩道を赤信号で突っ込んでくる大型トラックが見えた。杖をついた老人、盲導犬とともに歩いている近所の人、小学生の男の子2人、運動神経も動体視力も全然ない私が、その日だけは、はっきりと見えた。そして動いた。いつもなら到底間に合うはずもないのに、トラックの前に飛び出す。

 間に合った!!でも……。小学生の男の子1人ならともかく、この人数を救うなんて無理だ。頭が真っ白になり、くる衝撃に備えて目をきつくきつく閉じた。

 キーン、耳元で音が聞こえた。いつまで経ってもこない衝撃に目を開けると―――。


「ぱんぱかぱ~ん!おめでとうございます!!あなたは勇気ある行動をし、とくとくポイントが貯まりました!よって、違う世界に生まれ変われます!いやぁ、よかったね!」


 真っ白な人がいた。いや、人なのか?人型のシルエットがそこにあった。

 これはあれなのか、最近流行りで最早飽和状態じゃないかと思っている例のジャンル……。いわゆる、異世界転生のお話なのかしら。


「ぴんぽんぴんぽん大正解~!あなたに優しくないこの世界で、目の前でトラックに轢かれそうだった通行人たちをあなたは見事救うことができました!それがこの世界でのあなたの修行であり、役目であり、運命です。言わば、あなたはあなたの人生のゴールに辿り着いた。だから、次の世界へとボクが案内しに来たんだよ」

「ちょ、ちょっと待って。私がこの人達を助けた??この人達は助かるの??」


 意気揚々と喋る目の前の真っ白な人以外、時が止まってしまったかのような光景が広がっている。さっきまですごい勢いで走ってきていたトラックも、轢かれそうだった老人も近所の人も男の子達も。皆、私が飛び込んだ時のまま止まっている。

 この後、時が動き出して、轢かれそうだった人達はやっぱりそのまま轢かれてしまうんじゃないか。そうにしか見えない。


「あぁ、この人達ね。今、あなたがこの人たちの体を動かせば助かるじゃないか。ね?」

「でもそれなら、私が助けたことにならなくて、あなたのおかげで助かるんじゃ」


 真っ白な人が来てくれたおかげで時が止まっているようだし。それなのに、私のおかげだと言う。


「……あなたは勘違いをしているね。今、彼らの時が止まっているのは間違いなくあなたがしたことだよ。ボクのおかげなんかじゃあない」

「え……。私が??」

「そう。あなたが時間を止めた。だからあなたが彼らを助けたんだよ」


 私にそんな特殊能力があったなんて……。これは夢なのかしら?いちいち聞いてたらキリがない気がしたので、受け入れて全てを委ねてみようかという気持ちになってきた。そう、私は順応力が高いのだ(と自分で思っている)。


「それで、私は何をすればいいの?」

「あなたは次行く世界で、魂に従って行動してほしい、ただそれだけかな。とくとくポイントが貯まればまた転生できるからね!」

「そのとくとくポイントっていうのは……」

「ほら、徳を積めば魂が磨かれて高次元に昇れるとかそういう話は聞いたことないかな?」

「……つまり、徳を積んだから高次元である異世界にいけるということ?」

「うーん、世界線自体は平行線だったり捻れてたり交差してたり……。この世界とは別の次元だけれど、ここで言う高次元とは違うかな。例えばこの地球でも、徳を積みまくっている人もいれば、むしろマイナスのような人もいる。皆が同じレベルで徳を積んでいるってわけではないんだ。とくとくポイントを貯めると、個人の魂が磨かれて、高次元の存在になれるってところかな」

「……高次元の存在を目指して何が起こるの?」

「それはなっていけばわかるさ。さて、お喋りはこれくらいにしよう。あなたは次の世界であなたに課せられた試練を果たす。そうすることで自然と徳が積まれ、魂が磨かれていくよ。異世界に行く時には、試練に適した姿形に変わるから、驚かないでね」

「……姿形が変わる、ね。OK、わかった。……私の妹は、花恋は一人ぼっちになっちゃうの?」


 この世界に未練という未練はないけれど、強いて言うならやっぱり唯一の妹の存在は気がかりである。人気者の花恋。誰からも愛される子。それと反対に私はたくさんの人から疎まれている。でも姉妹仲はとっても良かったし、心優しいあの子は私の事できっと心を痛める。


「あなたの妹の為にも、あなたは世界を渡らなければいけないんだよ」

「……え?それってどういう」


 真っ白な人は、これ以上は言えないと首を横に振る。全く意味は分からなかったが、ここでうだうだしていても時間ばかり過ぎるだけ。どうやら選択肢は一つのようだ。決心して真っ直ぐに見つめる。意思を汲み取った真っ白な人は言う。


「それではあちらへ」


 指し示された方を向けば、いつの間にか白く光った扉がそこにあった。もちろん、私には進むという選択肢しかない。新しい人生か……少しドキドキしながら扉を開けた―――。

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