世界最強の剣聖~追放された俺は、幼馴染みと共に英雄になる~
ユズキ
第1話 追放される
「はっきり言おう。シスン、お前にはこのパーティーを抜けてもらう」
俺の目の前に座っているリーダーの言ったことが、突然すぎて理解できなかった。
「ここ最近のシスンの行動を観察させてもらったが、他のメンバーと比べるまでもなく貢献度不足。これではパーティーに寄生していると言わざるをえない」
「……寄生? 俺が……?」
確かにリーダーの言うように、誰にでもわかるような派手な活躍はしていない。
あくまでパーティーが上手く回るように、裏方に徹してきたつもりだったが、わかってもらえてなかったようだ。
***
半年前。
十七歳になった俺は、故郷の村から腕試しのつもりで、冒険者の街として名高いこのエイルにやってきた。
右も左もわからない田舎者の俺は、故郷の村とは比較にならないほど栄えたエイルの街に目を白黒させていた。
そんな折、俺の肩を叩いて振り向かせたのは、
「身なりからして冒険者みたいだが、もし仕事を探しているなら一緒にパーティーを組まないか?」
装飾の凝った鎧を身につけた金髪で中肉中背の男、Bランクパーティー【光輝ある剣】のリーダーで、俺と同い年のベルナルドだった。
俺は故郷から出てきたばかりで、冒険者ギルドの登録すら初めてだったので、渡りに船とばかりにベルナルドに連れられて冒険者ギルドの門を叩いた。
冒険者登録を済ませた俺は、ベルナルドのパーティーに入ることとなり、彼からパーティーメンバーを紹介される。
【聖騎士】ベルナルド。
【重戦士】オイゲン。
【賢者】エマ。
【高位神官】ソフィア。
パーティーを組んだことがない俺にもわかるぐらい、バランスの取れた職業編成だった。
俺は村を旅立つ際、一緒に暮らしていた爺ちゃんから、決して自分のレベルを口外するなと厳しく言い含められた。
世の中にはレベルでしか人を判断しない輩がいるからだそうだ。
だからベルナルドには、彼らより30ほど低いレベルで申告していた。
「シスンはまだ職業に就いたことがないのに、私達と30レベルしか差がないって、結構凄い……です」
俺が職業に就いていないことを告げると、ソフィアが少し驚いていた。
ソフィアは【光輝ある剣】では最年少の十六歳。
「それなら、【戦士】はどうだ? レベルが上がったら俺と同じ【重戦士】に転職できるぞ」
「それより、魔法職の方がいいわよ。あ、これなんかどうかしら?」
大柄なオイゲンが戦士職を勧めてくる。
鋼のように鍛えられた肉体を持った、二十代の男だ。背中には大きな円形の盾を背負っている。
一方、魔法職を勧めてきたのは、俺より二つ上の十九歳であるエマだ。
小柄なエマはオイゲンと比べると、子どもと大人ぐらい背丈の差がある。
この二人は何かと言い争う。仲が良いようだ。
「シスンは【神官】にしろ」
「おい、でもこいつ腰に木剣を差しているぞ? 【剣士】か【戦士】の方がいいんじゃないのか?」
「回復役が多いに越したことはない。さっさと手続きをして、クエストを受注するぞ」
結局、決断したのはベルナルドだった。
【神官】か……。
俺もオイゲンが言ってくれたように、剣で戦える前衛職が良かったのだが、パーティーに入ったからにはリーダーの判断を信じて頑張るしかない。
流石にパーティーのリーダーだけあって、ベルナルドが言うとみんな納得した。
そんなわけで俺の職業は【神官】になった。
俺は村から持参した木剣と革鎧という装備だったので、見かねたソフィアが予備のメイスを貸してくれる。
「私の予備の武器、良かったら使う……です」
「ありがとう。助かるよ」
「木剣って。ガキがごっご遊びをするんじゃねぇんだからよ。ったく、大丈夫か?」
オイゲンは俺の装備に呆れていた。
爺ちゃんが「木剣で修行しろ」と、剣を持たせてくれなかったのだ。
だが故郷の村からエイルまでの道程で、木剣で苦戦した覚えはない。
街道に出没するモンスターが雑魚ばかりだったからだろう。
その後、討伐クエストを受注し、エイルから少し離れた地下ダンジョンに潜った。
Bランクパーティーだけあって、ベルナルドたちはそれほど苦戦することもなく、最下層へと辿り着いた。
ここまでで、俺の出番はほとんどない。
たまに、ベルナルドの指示に従って《ヒール》で仲間を癒やす程度だ。
剣でしか戦ったことがないから、戦闘時の立ち位置に苦労する。
最下層を奥へと進んだ俺達を待っていたのは、この地下ダンジョンの守護者ゴーレムだった。
今までの戦況から、俺は即座に彼我の実力差を計算していた。
これは苦戦するだろう。
「くっ! 一撃が重いっ!」
ゴーレムが振るう拳を、盾で受け止めたオイゲンが思わず洩らす。
「お前たち、何とか隙を作ってくれ! そしたら俺のスキルを叩き込む!」
「任せておけ!」
「わかった……です」
ベルナルドが指示を出し、オイゲンとエマが応える。
互いに攻防を繰り返し、膠着状態のまま時間だけが過ぎていく。
みんなの疲労が蓄積されていき、焦りからかオイゲンが攻撃を受け損ねる。
直ぐさまベルナルドがフォローに入り、ソフィアの《ヒール》が飛んだ。
「シスン! ぼーっとしてるんじゃない! 俺にも《ヒール》を寄越せ!」
「ああ……わかった。え、と《ヒール》」
このままだと、マズいな。
初めてなので、【神官】の立ち回りがよくわからない。
みんなを助けたいんだが……。
今は剣は持ってないが、このメイスでも同じ要領で振り抜けば、俺ならゴーレムを確実に倒せる。
よし、ベルナルドに進言しよう。
「ベルナルド! 俺も前に出て戦う! 攻撃を任せてくれないか」
「はぁ!? こんな状況で、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
ベルナルドが苛立った表情で、吐き捨てる。
他のメンバーも同意のようで、俺を睨みつけた。
「いや、このメイスで俺がゴーレムをブン殴って……」
「寝言はベッドの中で言いなさいよね。ベルナルド、この子何とかしてよ」
俺の話を遮って、エマが悪態をついた。
「お前は、後方で俺達の回復に専念しろっ! 前に出てこられても足手まといだ!」
「私の《ヒール》だけじゃ、追いつかない……です。援護を要求する……です」
「わ、わかった!」
返事をしたものの、俺に何かできることはないのか。
このまま《ヒール》だけしていてもジリ貧だ。
いずれ隊列が崩壊して、死人が出るぞ……。
そう思った俺は、足下に転がっている手頃な石を手に取った。
【神官】なら、こんな戦い方はしないんだろうけど、仕方がない。
仲間に当たらないように注意して、俺はゴーレムに向かって石を投げた。
ズガンッ!
俺の投げた石は狙いどおり、ゴーレムの左大腿部を貫通した。
ゴーレムは体勢を崩して、その巨体を傾けていく。
「な、何が起こったの!?」
「おそらく、俺の攻撃が効いていて、ついに限界にきたんだろう! 今だ! 一斉に畳みかけるぞ!」
「おう! 流石リーダー、頼りになる!」
「いく……です!」
俺の投石で、一縷の望みが繋がったようだ。
誰も俺の仕業だと気づいていないが、そんなのは関係ない。
俺はパーティーのために頑張るだけだ。
【光輝ある剣】の総攻撃で、ゴーレムは瓦礫と化した。
冒険者ギルドに行くと、ギルド職員は信じられないという風に驚いていた。
それほどまでに、地下ダンジョンの守護者ゴーレムは強敵だと認識されていたようだ。
確かにそうだろうな。
Bランクといえば、そこそこ名の知れた冒険者だ。
そのBランクである【光輝ある剣】でも負けていた相手なのだ。
「なに、たいしたことはない。俺達の敵ではなかった。それよりも、シスン! 初めてパーティーを組んだとはいえ、あまりにも仕事をしていないじゃないか」
「えっ……?」
そうか、俺がちゃんとモンスターのヘイトを集めつつ、適切なタイミングで《ヒール》を使ってみんなをサポートするべきだったんだ。
田舎者の俺をパーティーに入れてくれたんだ。
その恩を返す為に、次はもっと貢献できるように頑張ろう。
俺は素直に反省した。
「ベルナルド、許してやれって。こいつも初めての冒険だったんだし。だが、次からはもっと率先して動けよ」
オイゲンが顔を顰めながら、俺の背中をバシンと叩いた。
「ごめん。次は頑張るよ」
「ったく……。頼むわよー」
それから、毎日クエストに出かけた。
俺は必死に【神官】らしく立ち回ろうとするが、傷ついた仲間に《ヒール》するぐらいしかできなかった。
ベルナルドからは絶対に前に出てくるなと言われたからだ。
俺も剣を使えば貢献できると願い出たが、ベルナルドに一蹴されて、他のメンバーの失笑を買った。
それでも、苦戦したり撤退もやむを得ない場面に遭遇すると、隙を見て最後尾から投石したり、モンスターのヘイトが俺に集中するように動いた。
剣で戦うことが許されなくても、みんなの役に立ちたいと思ったからだ。
一ヶ月ほど過ぎたある日、クエストを達成した俺達は、いつもの酒場で食事をしていた。
俺達もいつかAランクに昇格したいなぁなどと語り合った。
腹を満たし、明日のクエストはどうするか話し合っていると、ベルナルドが険しい顔でテーブルを叩いた。
何事かと、周りにいた客も注目する。
「シスン。お前な、《ヒール》だけ投げてりゃいいってもんじゃないぞ? お前以外はみんな体を張って戦ってるんだ。一番後ろでぼけっと突っ立ってるだけじゃ駄目なんだ」
「いや、俺だって剣を使って前に出れば……」
「言い訳するんじゃないっ! お前はリーダーである俺に言われた役割をこなすのが仕事だろうが!」
他のメンバーもうんうんと頷いている。
結構動いた気でいた俺は、若干戸惑った。
「もっと精進しろ。それから、明日からは荷物持ちも兼任だ」
「……わかった。任せてくれ」
翌日から、俺はパーティーの荷物持ちもすることになった。
この日から、みんなに邪険に扱われるようになった気がする。
少し胃が痛くなった……。
***
今日で【光輝ある剣】に入って半年。
【神官】兼荷物持ちも必死にこなしてきた。
それだけに、リーダーのベルナルドにクビを宣告されたのには驚いた。
「これは決定事項だ。みんなの意見を聞いて、俺が判断した」
「そんな……!?」
みんなが俺を尋問するように囲んで座っている。
「シスン。俺は半年間、お前に猶予を与えた」
「…………猶予?」
「そうだ。俺が率いるBランクパーティー【光輝ある剣】の正式メンバーになれる機会を与えたんだ。にも関わらず、お前は戦闘でも活躍しない。後ろのほうで意味もなく動いたりする。まさか、俺たちだけ戦わせておいて、自分は応援でもしていたつもりか?」
ベルナルドが拳を握って、俺を睨みつける。
「だから、俺にも前に出て戦わせてくれって頼ん……」
「何だ、また言い訳か? レベルも少しも上がっていないし、ちなみに【光輝ある剣】に入ってからの半年でレベルはいくつ上がったんだ?」
みんなの視線が突き刺さる。
「ん……。この半年間で1しか上がってない……」
「チッ!」
「嘘でしょう!?」
「サボり……すぎ」
「本気かよ!? この野郎……」
ベルナルドは舌打ちし、他の三人は本気で困惑していた。
「レベルが上がってないのが、何よりの証拠だ。シスン以外はみんなレベル70に届きそうなほどだ。この半年で20も上がっている。当然だ。毎日、討伐クエストを受注しているんだから」
【神官】の職業は、俺には合っていないと思う。
いや、これは言い訳……か。
本当の強者は、どんな職業でも言い訳なんてしないだろう。
俺は真摯に反省すべく、仲間の話に耳を傾けた。
「おい、何黙ってんだ。ベルナルドがわざわざ貴重な時間を割いてくれてるってのによ!」
「そうよ! 私達が強敵と戦ってたのに、シスンはレベルが上がってないってことは何もしてなかったんでしょう!」
オイゲンとエマが、俺を激しく責め立てる。
極めつきはベルナルドの一言だった。
「有り金は全て置いていけよ。半年もの時間を無駄にした、俺たちへの迷惑料だ」
「え、そんな!?」
***
こうして、俺は半年間世話になったパーティーをクビになった。
初めて加入したパーティーでクビ。
俺は村から出て、初めて挫折を味わった。
翌日、日の出と共に、俺は荷物をまとめてエイルの街を出た。
無一文なので、歩いて帰るしかない。
道中で倒したモンスターから得た素材を売って、路銀の足しにするしかないだろう。
それで食事ぐらいは賄えるはずだ。
俺は故郷の爺ちゃんの顔を思い浮かべて、大きなため息をついた。
「まだレベル267か。この半年で1しか上がってないな。村に帰ったら爺ちゃんに怒られそう……」
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