第5話 涼葉VS朱夏 ラウンド1
「ふふんっ」
満足そうに両手を腰に当ててふんぞり返る朱夏。
笑顔から尖った八重歯がちらりと見える。
重力に逆らっていた朱夏の赤いポニーテールが満足そう徐々に下がっていく。
「また、あいつかよ・・・」
「なんなんだよ、あいつ」
「僕・・・タイプかも・・・彼女にふっ、踏まれたい」
「えー、やっぱり西園寺くんってモテるんだなー」
クラスメイトがざわついている。
男の子の文句は全て僕だろう。
朱夏の性格は横暴だが、モテる。とても愛くるしい小動物のようだからだ。
「ねぇ、エイトきゅんが困っているじゃないっ」
「ああんっ?」
僕の胃痛な顔を見て、涼葉さんが立ち上がり、両手を広げてこれ以上僕に朱夏を近づけないようにすると再び怒り出しそうになる朱夏。
涼葉さんの身体を掻い潜りながら、「誰だ、こいつは?」という顔で見てくる朱夏だったが、その目線を再び涼葉さんがガードしようとする。
また、ポニーテールが徐々に上を向いていく。
「ははーん、えいと。使ったな~?」
「・・・」
僕の顔を見て朱夏は、「やっぱり」という顔で推理が当たったことを満足そうに喜ぶと、次第にポニーテールが収まっていく。
「なんで、朱夏はここにいるんだよ・・・」
「ふふんっ、びっくりしただろう。私に指図できる奴なんていないのだっ」
朱夏が横を向くと、黒い大きなリボンで結ばれたポニーテールが暴れ馬のように上下にピョンピョン跳ねている。
ピョン、ピョン・・・
そう、毛先が乱れているという意味ではなく、動く方の「跳ねる」である。
僕の魔眼と同じように彼女の髪にも不思議な力がある。
通称「威圧の怒髪天」
僕の「魅了の魔眼」が女性を強制的に恋に落とすように、彼女の「威圧の怒髪天」は命令すれば命令を従わせる力があるのだ。
僕の能力と比べて、僕の能力が異性限定であるが、彼女の能力は男女問わず、命令で服従させることができ、汎用性があり、強制力が強い。
例えば、朱夏が「死ね」と命じれば、言われた相手はあらゆる手段で自殺を試みようとする。
「朱夏こそ・・・使ったでしょ?」
「ふふん、なんのことか、わからないのだ」
そんな強力な能力を防ぐには黙るか、マスクを着ければ効果を発揮しないはずなのだが、朱夏はマスク嫌いだ。
いつも、僕にちょっかい出してきて、今みたいに、にやりと八重歯を出しながら笑う。
しかしながら、彼女の能力は一時的なので時間的制限があり、効果を失うところが僕の能力との違いだ。とはいえ、その場で書類にサインなんかさせてしまえば、法律的に半継続的で融通が利くところがずるい。
「どけっ、メス犬。きゃんきゃんうっさい。私はえいとと話しているんだぞっ」
「いやっ」
涼葉さんが「威圧の怒髪天」の朱夏の言葉を拒絶する。
これには理由がある。
勘のいい人のなら気づくかもしれない。
僕らの能力が効かない人間は2種類いる。
僕らの地元の血筋の人々、そして、他の能力の効果を受けてしまった人々。
涼葉さんは後者だ。
僕の「魅了」の力を浴びているので、朱夏の「威圧」が通じない。
それがわかったから、朱夏も僕の能力に涼葉さんがかかっていないのを気づいたのだろう。
「がるるるるるっ」
「むむむむむっ」
(まずいなぁ・・・まずいよ・・・)
一触即発のムード。
朱夏は別に「威圧」の力を用いなくても、地元でガキ大将というか横暴な少女だった。
「神宮寺さん、前に戻りなさい」
新田先生が教壇を指さす。
「私に・・・」
「やめなよ、朱夏。それをするなら僕は君と口を利かないからね」
上を向き始めた朱夏の赤いポニーテールが元通りになる。
「なっ!!?」
朱夏が能力を使おうとしていたので、僕は注意する。
「なっ、おい、えいと」
ぷいっ
「なっ、おいおい、えいと、えいとっ!!」
ぷいっ、ぷいっ
「くっ、これで勝ったと思うなよっ!?」
朱夏はビシッと人差し指を僕と涼葉さんに向けてくるけれど、さすがに学校の秩序を乱すような容認できない。
「エイトきゅん、大丈夫?」
「うん、まぁ・・・いつものことだから。あはは・・・」
涼葉さんに小声で話しかけられる。涼葉さんもよく朱夏に負けなかったと感心する。
これは「魅了」した僕を守る気持ちなのか、それとも彼女自身の元々の性格なのか。
「んぅ?エイトきゅん、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
僕は涼葉さんの質問を笑顔で返事をした。
「おい、えいと。それ以上イチャイチャすると、許さないぞっ!!」
教壇のところで朱夏が騒ぐので、みんなの目線が一番後ろの僕らに集まる。
僕は大人しく下を向いてやり過ごそうとした。
悪い奴じゃないんだけど、ちょっと残念な女の子なのだ。
「じゃあ・・・龍宮寺さん。自己紹介をお願いします」
「龍宮寺朱夏だぞ。えいとのがーるふれんどだ。よろしく」
バッ
また、みんなの視線が僕に集まる。
今日は大人しくしているつもりだったのに。
男の子の目は殺意が籠っている。
好意を向けてくれる隣の席の涼葉さんですらショックな顔で真実を確かめたいといった顔をしながら僕を見つめる。
朱夏は両手を前で組み、頬を赤らめながら満足そうにニヤニヤしている。
やっぱり、訂正しよう。
僕の幼馴染は・・・・・・意地悪な女の子だ。
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