魅了の魔眼、愛の行方 ~一目惚れした相手に出会って1秒で魔眼で魅了しちゃった。やばい、彼女の下着の中身も知りたいけれど、本当の性格はもっと知りたい~
西東友一
第1話 一目惚れ
5月中旬。
高校に進学した生徒たちの人間関係も気温とともに温まり、ゴールデンウィークというちょっとした長い休みがあっても、同じクラスメイトを仲間だと互いに認め合えるようになる、そんな季節。
「転校生を紹介します」
眼鏡をかけた20代後半くらいの女性の新田先生がそう告げると、一気に騒ぎ出すクラス。
―――男か、女か
―――勉強ができる奴か、運動神経がいい奴か、面白い奴か
―――敵か味方か
・・・それは大げさにしても、新たなウイルスに反応する免疫細胞のように激しく反応するのが、ドア越しでもはっきりわかる。
教室の中のざわつきはどんどん大きくなっていく。
そう、みんなを待たせて、みんなに期待されているこの僕が、この物語の主人公、
高校1年生だ。
新田先生から、呼ばれたら教室内に入るように言われているが、高校1年生に進学したといっても、まだ1か月しか経っておらず、中学生気分が抜けていない奴もちらほらいるみたいで叫ぶ奴までいて、まるで動物園のようだ。
猛獣までいそうなクラスに、心に闇を抱えたこの僕が単身乗り込まなければならないのは本当に気持ちが乗らない。
「こらっ、ダメでしょ。席に着きなさい!!」
「はぁ~い」
新田先生が生徒たちを注意したみたいだが、教室の中では僕を覗きに廊下まで来ようとする男子までいるようだった。
「気を付けないと・・・」
僕は目のあたりまで伸びた髪を整え、メガネの位置を調整する。
「センセー、センセー、男子?女子?」
やんちゃそうな声をした男子生徒が新田先生に尋ねる。
「男の子よ」
「ちぇっ、男子かよ・・・つまんねっ」
質問していた男子が急にテンションが下がった。そいつを筆頭に男子たちの声のトーンが下がった。そんな風にがっかりされると、こちらもテンションが下がる。
「きゃーーーっ、男子だってっ!!」
盛り下がる男子と対称的にテンションが上がる女子の声が聞こえる。それはそれで、こまるのだけれど、それより・・・
「おいおい、勘弁してくれよ・・・。前の学校みたいに僕はなりたくないんだ・・・」
みんなの気持ちがわからないわけじゃない。
だけど、ここでこんなリアクションばかり聞かされていたら、心が張り裂けそうだから、新田先生には早く僕を呼んでほしい。
「じゃあ、西園寺君入ってください」
そんな僕の気持ちが先生に以心伝心したのか、新田先生がようやく僕を呼んでくれる。
僕はしっかりとメガネを掛け直す。
この相棒が外れてしまえば、状況によって僕はまた転校しなくてはならない。
「はい」
今度はミスしない。
ここから、僕の魔眼を隠して本当の恋を探す学生生活が始まる―――
◇◇
ドアを閉めて振り返ると、先ほどまで騒がしかったクラスが、ピタッと鎮まっていた。
しかし、目は口ほどに物を言うということわざがあるけれど、僕を見定めようとする複数の目は『お前は何者なんだ?』と語りかけてくる。
僕は再度メガネをしっかり掛け直す。
ここで、落としてしまえば何人の少女たち、いや、同窓生の人生を狂わせてしまうかわからないのだから。
「じゃあ、西園寺君自己紹介を」
「はい」
僕はみんなを見渡す。
「はじめまして、西園寺瑛斗です。長野県から来ました。よろしくお願いします」
「えっ、ちょっとカッコよくない」
「うん、制服もオシャレ」
女の子達がひそひそ話をしている。
「てか、制服おれらとちげーじゃん」
女の子たちのリアクションが気に食わなかったのか、それとも元からの性格なのかはわからないが、窓際の後ろから3番目にいたぶっきらぼうな男の子が声を張る。
「こらっ、田畠君。そういう人を不快にするような言い方をしないの。みなさんもいいですか。西園寺君の制服はまだ届いていません。しばらくの間、西園寺君はスラックスが別の色ですが、理解ある行動や発言をよろしくお願いします」
神奈川県でも田舎の方の高校のおかげだろうか。
都会の人たちはすれていると聞いていたけれど、新田先生の言葉にみんな素直に返事をした。
小中学校一貫校だった過疎地域の僕にすれば、神奈川県なんて全部都会だと思っていて身構えて来たけれど、案外うまくやれそうでほっとする。
僕は目線を服に落とす。
目立ちたくないけれどこればっかりは仕方がない。
黒い制服の中で、僕だけ白のブレザーとブラウン色のスラックス。
今日は転校初日ということで正装しなければならなかったので、白のブレザーを着てきたが、授業が始まればみんなと同じように上はワイシャツで授業を受けるつもりだ。
まぁ、それでもみんな黒いスラックスを履いている中で僕だけブラウンのスラックスだと目立つと思うので、なるべく席を立たないでスラックスが見えないように心がけようと決めた。
このクラスは新田先生が説明がしてくれたけれど、他のクラスや学年ではしっかりとした説明もないのだろうから、怖い上級生、いや・・・誰であっても変に目を付けられても困ってしまう。
だって、僕は普通じゃないのだから。
僕はメガネをかけ直す。
前の学校の時みたいに同級生の男子にいたずらされて、メガネを外してしまったら、大変なことになる。大人しく目立たないように過ごしたい。
「じゃあ、西園寺君の席は一番後ろのあそこね」
新田先生が指差したのは窓際の一番後ろの席だった。
(よしっ、計画通り)
僕が新田先生の顔を覗くと、にっこりと僕に笑顔を返してくれる。
先生も僕の秘密は知っている一人だ。
本当は机の配置上、教室入り口付近の一番後ろにという話だったけれど、出入りの多いその場所付近はぶつかったりする危険はもちろん、パーソナルスペースなど皆無の無神経な男子がいれば、僕のメガネをちょっとしたスキンシップのような感覚で取ってしまいかねない。そういったリスクを考えて、新田先生と話し合った末、一番接触が少ない窓際の一番後ろの席にするように配慮してもらったのだ。
僕は誰とも目を合わさずに真っすぐ前を向いて自分の席に向かう。
下手に横を向いてメガネの範囲外のところで女の子と目が合ったら大変だからだ。
しかし、前を向いていたら、先ほど騒いでいた田畠が足を出していたのに気づかずに体勢を崩してしまう。
「あっ」
僕はそのまま床に倒れ込み、絶対に離してはならない相棒の伊達メガネが外れてしまった。
「んっ」
僕はあまりの焦りに声を出しそうになるが、それで注目を浴びて女の子の視線を集めてしまえばもっと大変なことになるので、急いで前の方に飛んで行っていたメガネを拾おうとする。
しかし、遅かった。
キレイに整えられた爪に、キメの細かい絹のようなキレイな肌の手がメガネを拾い上げる。
僕はそのままメガネだけを見ていれば良かったのだが、本能的にそのキレイな手の持ち主の顔の方に目線が行ってしまった。
「あっ」
「あっ」
黒髪ロングにツンとした瞳に涼しげな顔。
凛としたその少女に僕の心は一瞬で奪われた。
僕はその名前も知らない彼女のことをもっと知りたい。
彼女と仲良くなりたい。
恋人になりたいと切に願った。
しかし、僕の願望はこの両目によって簡単に奪われる。
(やめてくれっ!!!)
僕の意に反して魔眼が無慈悲に発動してしまう。
彼女は強制的に僕の瞳に心を奪われ、目がハートになってしまう。
僕は急いで立ち上がりながらメガネを彼女から奪い、メガネをかけた。
周りを見るが、どうやら彼女意外とは目線を合わさずに済んだようだ。
「大丈夫ですかっ!?西園寺君」
新田先生が必死な声で声をかけてくる。
「はっ、はい」
「くくくっ」
僕の様子を見て、田畠が嬉しそうに笑っている。
僕は田畠を殴ってやろうかと思ったけれど、新田先生が田畠を注意する。
「田畠君、後で職員室に来なさい。みっちり指導してあげますから覚悟しなさい」
「げげげっ」
その青ざめた顔を見て、少しは気がまぎれたので震える拳を田畠に使うのを僕は抑えた。
「エイトきゅん、エイトきゅん」
キレイで透き通るような声が僕の名前を慣れ慣れしく呼ぶ。
僕は諦めながら、その声の主を見る。
「エイトきゅん。初めまして。私、如月涼葉」
「うん、あぁよろしくね。如月さん・・・んっ」
如月さんは僕の唇を奪った。
「えええええええっ」
田畠がショックで変な顔をしているがそんなことはどうでもいい。
「えへへっ。私のファーストキス・・・だよっ?」
「僕もだけど・・・」
「やった・・・えへへっ」
もじもじしていた如月さんが僕の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる。
「じゃあね、じゃあね・・・私、エイトきゅんのことを愛してるの。だから・・・私と付きあおっ。エイトきゅん」
僕は諦めて静かに目を閉じる。
目がハートの彼女に何をやっても、何を言っても無駄だ。
僕は田畠とこの両目の魔眼のせいで、初恋相手の本当の姿を見ることは叶わなくなった。
そしてこの恋は始まると同時に終わりを告げてしまった―――
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