初恋
花宮優
紙袋
わたしの初恋は小学校6年生だった。
父親の仕事の都合で「海外からの転校生」になったわたしは学校のあらゆる子の注目を集めていた。
そんな環境の中、彼を好きになったきっかけは些細なことだった。
苗字の漢字が読めずに名前を聞いたとき、目があったとき、友達とふざけているとき、体育の授業でわたしの横を通ったとき、かっこいいなと思った、そんな簡単なことからわたしの長い長い片思いは始まった。
6年生の頃は席替えのたびに毎回、席が近くになりますように、と願っていた。意外と願いは叶うもので、通路を挟んだ隣、斜め前後ろ、と彼の近くの席を当てていた。神様はいるんだ、わたしを応援してくれているんだ、そう自分に言い聞かせたけれど、生まれて初めての感情に戸惑ったせいか、なかなか好きだと言い出せなかった。
中学生になるとわたしは私立の女子校に通うようになり、彼とは会うことがすっかりなくなってしまった。一目彼を見るためになにかを貸してほしいだの何だの、思いつく限りの口実で彼を縛った。しかしその1年後、彼は少し遠くの学校に引っ越してしまい、手元には彼が最後にわたしに渡したチョコレートを入れていたオレンジ色の紙袋だけが残った。
何年もの歳月が経ち、彼と共通の友人を見つけた。彼の世界はわたしの想いなど関係ないかのように回り続けていた。人伝いで聞いた彼の恋愛事情はわたしの心を何年も抉り続けていくかのように思ったが、時が経てばその痛みも薄らいでいき、捨てようにも捨てられなかったオレンジ色の紙袋だけがわたしのクローゼットの中で眠り続けていた。
大学に進学し、就職し、わたしは小学校6年生から慣れ親しんだ地元を出ることになった。部屋の大掃除をしたときに見つけたオレンジ色の紙袋。
その甘酸っぱい、鮮やかな色はわたしの青春だった。
やっぱり捨てられずにそれをスーツケースのなかに入れようとしたとき、
「紙袋なんて捨てて行きなさいよ」
と母は言った。
変な言い訳をするのも、小学生の頃の感情から出られていない自分を知られるのも恥ずかしくて、ずっと捨てられなかったそれを母の監視という強制力の中、45リットルのゴミ袋に押し込んだ。
わたしの初恋はここで終わりにしよう。
その想いを込めて。
わたしの初恋だったあなたへ
今どこでなにをしているか分からないけれど、わたしがあなたへ捧げた心の分だけでもあなたが幸せであればいいな。
あなたにとっては何ともないことだったと思うけれど、わたしは今でもあの日々を思い出すたびに幸せになれます。
あなたを好きにならせてくれてありがとう。
あなたがくれた初恋は、わたしの心の最初の宝物です。
花宮優
初恋 花宮優 @hana_yuu
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