3_病は気さえあれば数%は快復に向かう可能性有 ⑥
「ッシャッ!」
俺の剛速球がうなりを上げる。
「おぉ、かなり速いな。球威もありそうだ」
「だが球は荒れまくり。制球は悪いな」
町内会チームのオッサンどもが
「……平原さん」
「ンダヨ里見ィ」
いちいちマウンドまで来るなよ。キャッチャーが軽い気持ちで足を踏み入れていい領域じゃないんだぞ。
「平原さんが全力投球したらもう投球じゃなくてただのミサイル弾です」
「イカニモ、俺様ハ人間
俺は
「……まぁ、今はそういうことにしておきましょう」
里見は不服な表情を作りつつも、突っ込むのも面倒だとばかりにおざなりに頷いた。おい、真面目に相手するのは馬鹿馬鹿しいみたいな反応やめろや。
「なので、平原さんは球速よりも僕の顔に当てるつもりで正確に投げましょう」
「ヲ前ノ顔ニ?」
「ムカつく僕の顔に当ててやる
里見の顔面めがけて投げる……か。面白い。上手く行けばこいつの顔面を破壊できる絶好の機会だ。しかも本人公認。
「平原さんの球は球威と重みがあります。球速よりも制球を重視しても簡単には打たれません。全球ど真ん中狙いで投げても平原さんのアバウトなコントロールなら全部が全部ど真ん中には行かず、ボールは程よくコースに散らばります」
ほう、こいつにしては俺を分析できてるじゃないか。少しだけ見直したわ。最後の俺がノーコンみたいな言い回しだけは
「それと――」
里見はショートの守備についている新山をちらりと
「新山さんの魔送球は酷いです。外野かファーストにするべきかと」
格下から指図されてムッとしたものの、
「……仕方ネーナ。勝率ガ上ガルナラソウスッカ」
たまにはコイツを立ててやるのも
すると里見は首を傾げた。
「勝ち負けはこの際どうでもよくないですか? 目的はあくまでも誰かがホームランを打つことで――」
「勝負スルカラニハ勝チニ行クノガ男ッテモンダ!」
勝利にこだわらずして
「ソレトモナニカ? ヲ前ハ自分ノ責任デ負ケルノガ怖インカ?」
「……む」
「カッコツケテソレッポイ
お前が優秀に見えるのは強敵には挑まずに背を向けてるからにすぎないんだよな。
「……分かりましたよ。勝ちましょう」
俺が
「その代わり勝ちに繋がるピッチングをお願いしますよ」
「言ワレナクトモソウシタルワ」
その後は制球を意識しつつ簡単に投球練習をした。
― 守備位置変更 ―
平原 ショート → ピッチャー
田村 ピッチャー → ライト
永田 ライト → ショート
江田 ファースト → セカンド
新山 セカンド → ファースト
さて、肩が温まってきたところで試合再開だぜ。
「ウオオオオオオォォォォ!! ユウキーーーーーーーーッ!!」
俺は持て余したパワーをいかんなく解放した。でも全力投球よりも制球への意識は忘れずに。
「うおっ、はっえぇ!」
俺の球を間近で見た打者が仰天の声を発した。
「ストライク! バッターアウトッ!」
審判の三振コールがグラウンドにとどろく。
俺は今日この瞬間のために生まれてきたと言っても過言ではない!
一球一球がただの投球にあらず。ユウキに捧げる俺からのエールだ!
「140キロ以上は出てるな」
「けどアイツ――ストレートしか投げられないみたいだぞ」
相手投手は俺が直球の男だと気づきやがった。がめつい野郎だこと。
「フン、変化球ナンザイラン。打タレナイ真ッ直グヲ放レバノープロブレムダカラナ!」
打たれなければどんな球だろうが関係ないだろ?
「ユァーーーーーーーークィーーーーーーーーイィッ!!」
「くっ」
次の打者も軽く三振に抑えた。
「コレガ守護神平原GOD圭ナリッ!!」
俺はガッツポーズを決めて雄叫びを上げた。
「変化球は来ないって分かってるのに三振してんじゃねーよ」
「多分――アイツのストレートは球がドリル回転してる」
「ジャイロボールか」
「だから手元で伸びるし、近くから見るとより速く感じる。自分の感覚と違うからタイミングが合わず空振りする」
連中はなにやらコソコソ話しているが、はっ。今更慌てて対策を考えたって無駄無駄ムダァ! 黙って俺に三振を
「ウゥッフェォハアアァッ!! ユゥウウウギイィィェーーーーーーーーーーーーイィッ!!」
この打者を押さえてチェンジ、反撃ののろしを上げるのだ!
「で、アイツなんで毎回ユウキって絶叫しながら投げてるわけ? 誰だよ」
「こえーよな」
相手は俺が放つ闘志と威圧感に尻込みしているな。俺の雄叫びがユウキに勇気と生きる活力を与えるのだ!
「――だが、全球同じ球筋って分かってりゃ簡単にゃあ打ち取れねぇわな!」
「アアッ!?」
打者が振ったバットがボールを叩く金属音が響いた直後、ライナー性の打球が外野まで飛んだ。
「チィッ」
二塁打を浴びてしまった。腐っても野球経験者だな。
――――ならば、必殺技を行使するまでよ。
「――フォッ!」
俺は鼻を
「……な、なんだ今の球!?」
ボールは打者の手元で
「今のは――ナックルボールか!?」
「魔球だったぞ」
「隠し玉にしてもビックリだわ……」
俺が魔球をお披露目すると、両チームの選手たちがどよめいた。ふっほほ、もっと驚け! もっともぉーっとおののけ!
「……平原さん、今の球は一体――!?」
里見ですら驚いている。お前のそういう顔が見たかったんじゃい。
「聞クマデモナク、魔球ヨ。名付ケテ――【平原パーフェクトショット】!」
「は、はぁ……」
俺のネーミングセンスに圧倒される里見。お前はどうあがいても俺には勝てないんだよ。
「――タイム」
内心で勝ち誇っていると、審判が試合を中断させた。おいおい、俺のペースを乱す気か? 余計な時間を消費しないでくれよ。
「君、ボールを見せてくれ」
「あ、はい」
「オイ里見!! 早クボールヲ寄越セ!! 大至急
「……平原君。これはなんだい?」
審判は俺のもとまでやってきてボールに付着した――直径一センチ弱の鼻クソを見せてきた。
「さっき鼻を
ジト目で俺を見据えてくる。絶対的な裏付けがあるからこその自信、断言。
「捕手にボールの返球を
図星を突かれ、ビクンと身体が上下に動いてしまう。いやぁ俺って嘘
「…………鼻クソ魔球ガバレタダトォ!?」
もはや言い逃れはできない。素直に認めてやるよ。
「鼻クソのせいでボールに変な抵抗がかかってあんな変化が起こったのか」
「せっこい真似しやがるなぁ」
「あんなバカデカイ鼻クソよく放置してたよな。少しは鼻掃除しとけよ」
俺の魔球のタネを知ったチームメイトどもは呆れ顔だ。
「投球フォームすらガタガタの
ギロリと俺を睨む審判。
「待ッタ待ッタタンマ! チョ待テヤ!」
俺は審判からボールをひったくって鼻クソを食べた。しょっぱい。
「ホイ、コレデ問題ナイダロ?」
これで証拠はなくなった! 俺がインチキした
「ボークと見なしてランナー進塁で試合を再開します」
「ソンナルールネェヨ!?」
なにを勝手にオリジナルルールを行使してやがるんだ。
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