7_予想の遥か斜め上を行く発想こそが成功への道 ④
♪
「ホイ、着キマシタゾ」
「……ここ、ほぼ俺の地元なんですけど」
降車した場所はすぐそこに海岸がある、俺にとっては非常に馴染みのある駅だった。
「見当ガツイタダロウガ、コレカラ海ニ向カウ。ソコデヲ前ノストレスヲ吐キ出シテ、明日以降ヘノ活力ニスルノダ」
「吐き出さなきゃいけないストレスは誰が生み出したんだよ」
「コンナ機会滅多ニナイ。俺ノ粋ナ計ライニ感謝セヨ」
「親切の押し売り……」
これぞ自作自演かつ自画自賛。
げんなりしながら歩くこと数分で海に到着。
まだ春ということもあり、人はまばらで行動が制限されることはなさそうだ。
「ジャ、早速アレヤレヤ」
「アレと言われましても」
アレとか如何なる意味にもなれるワイルドカードを持ち出されても困る。
「察シガ悪ィヤッチャナァ! 海ニ来タラヤルコトハ一ツ、アノ地平線ニ向カッテ心ノ叫ビヲブッ放スノヨ!」
「たまにドラマとかでやる、バカヤローってやつ?」
「ソレヨ」
リアルでそんなことしてる奴、少なくとも俺は見たことないけどな。
でもまぁ人も少ないしいくら世知辛い世の中でも、さすがに海で叫んだだけで警察を呼ばれる事態にはならないよな。
「なら、叫ぶか」
「ソウコナクッチャ。コノ俺様ガ見届ケテヤルゼ。光栄ニ思エ」
いても全く嬉しくない見届け人がいるオプション付きらしい。
波が寄せては返る水際まで近づいて、大きく息を吸い込む。
そして、腹から声を水道の蛇口のように捻り出した。
「平原圭の人でなしーーーーーー!! 地獄へ落ちろーーーーーーーーーーッ!!」
ありったけの思いの丈を叫びに乗せて吐き出した。
正直こんなもんじゃ全然鬱憤は晴れないしスッキリともしないけど、もう面倒臭いので満足したと自己暗示するわ。
「センスノナイ雄叫ビダナ」
「せっかく来たんだ。平原も叫んではどう?」
「ソウダナ。人々ノハートヲ鷲掴ンデ潰ス一流ノ叫ビヲ見セテヤルゼ」
「心臓を潰したら破裂するから、叫んだ瞬間にお前殺人者じゃね?」
迷惑防止条例違反レベルの罪状じゃ済まないぞ。
平原は大きく息を吸い込んで、
「コノ世ハ俺様ノモノナリーーーーーーィ!! 平原圭サイコーーーーーーッ!! ソシテ、クタバレ永田大地ーーーーーーーーーーーーーーッ!! キエェェウェーーーーーーイ!!」
奇声に近い雄叫びを地平線に向かって飛ばした。平原が叫んだと同時に、一際強い波が押し寄せてきた。
台詞も意味不明だけど、そもそも永田大地って誰??
俺たち二人の魂の雄叫びに、まばらな海水浴客は戸惑いの表情を隠せずにいた。ま、目立つし第三者からしたら恐怖を感じざるを得ないよね。
「ヨシ、フラストレーションモ無事開放シタコトダシ、帰ンゾ」
「ようやくコイツの魔の手から解放される……この瞬間をどれほどまでに待ち侘びたか」
こうして、今日の就職活動はものの見事に粉砕されたのだった。
――――※ ここからは圭視点でお楽しみください ※――――
翌日の昼休み。
いつも通り葵と校舎裏で過ごしていると、新山からチャットの通知が来た。
新山鷹章 :『昨日面接した会社から学校にクレームが来て草枯れた。
非常識にも程がある、そんなんじゃお仲間ともども就職先は
ないだろうって』
ゴッドスター:『草は枯れないように水をやらないとダメだろ』
新山鷹章 :『ネットスラングにマジレスいらないから。全てお前のせいだわ』
ゴッドスター:『自分の失策を人のせいにするなど言語道断! 禁固刑に処す!』
新山鷹章 :『独裁がすぎるとクーデターを起こされるぞ』
ゴッドスター:『そんな輩は
新山鷹章 :『社会主義のお手本のような恐怖政治体制……!』
新山の返信を煌びやかに既読無視して校舎に視線を移す。ったく、貴重な時間を無償でお前に費やせるほど俺様は暇じゃねーんだよ。
「また、新山って人?」
スマホとの格闘を終えた俺の様子を見て、葵は顔をしかめた。
「ヤツニ葵ノ人生ハ壊サセヤシナイカラ安心シロ」
葵があのバカの闇に覆われないよう守るのも彼氏の務め――――
ピーンポーンパーンポーン――
『2年A組平原圭、2年A組平原圭、今すぐ職員室まで来なさい』
気合を入れ直していた矢先、校内アナウンスで何度聞いても惚れ惚れする氏名が読み上げられた。
っと思ったら俺じゃねーか。
「今の、怒られるパターンの呼ばれ方だったけど何かしたの?」
「昨日、迷エル子羊ヲ救ッテヤッチマッタダケノシガナイ伝説ヨ」
「ふぅん……とりあえず、ガンバレ!」
葵は両手に握り拳を作って俺にエールを送ってくれるが、悪い話で呼ばれたわけではないと思っている。
もしかしたら表彰されるのかもしれない。慈善事業も俺の得意分野だからな。教師どもにも俺の素晴らしさが理解できたならば少しは見直してやる。
そんな気持ちで意気揚々と職員室に乗り込んだが、昨日の企業無断乱入の件について滅茶苦茶説教されて終わった。
あのクソ会社め、高校にまでチクり入れてんじゃねーよ。
俺の貢献度が全く分からないとは、やはり時代錯誤の教師ども! そんな
♪
「なぜ、昨日は部活をバックレた? 平原圭」
放課後になったと同時に颯爽と教室から出た瞬間、悪魔の使徒に捕まってしまった。
先日も俺にウザ絡んできた、陸上部の部長だ。
「イヤァ、昨日ハ心臓発作ヲ起コシテナ。ダルカッタゼ」
俺はその場でゆっくりと床に仰向けになり、か弱き民衆を演じる。
「それ、下手したら死ぬ重病じゃん。なんで発症翌日に平然と学校に来て放課後まで無事にお勤めできるの? お前、発作舐めてんの?」
「昨日ノハマダ軽イヤツダ。一昨日ハモットエグカッタゼ」
「そんな頻繁に発作起こる身体とは? そしてそれでも翌日には必ず自力で歩いて登校できる不思議。お前、学校の七不思議の一枠でも狙ってるのか? 貪欲なやつだな」
「理想ハ常ニ高クアレ! ソノ気持チガ人類進歩ノ源ダゼ!」
「はいはい。じゃ、部活行くぞ。頻繁にサボってるとますますお前の居場所がなくなっちまうぞ。それはお前も本望じゃないだろ?」
「ハ? 世界中ガ俺ノ庭ダワ。舐メテモラッチャ――アツッ! 摩擦デ身体ガ熱イヨ!!」
陸上部の部長に 足首を掴まれ、廊下を引きずられて校庭に向かって連行される。
「火傷デ部活デキソウモネェ! 本日ハ不要不急ノ活動ヲ停止イタシマス!」
「なんだ? 聞こえないな。お前にはグラウンドを百週するミッションを用意した。たっぷりと堪能してくれ」
悪魔みたいに口の端を歪ませた部長に身柄を拘束されて拉致られている俺に発言権はないようだ。
こんな無理矢理なやり方で民衆がついてくると思うなよ! 近い将来に反乱が起きる! 断言してやる! 絶対だからな!
その後、俺は元気にグラウンドを百週した。
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