6_想いは言葉にしないと伝わらないことが多々ある ③
♪
やってきました待ちに待ってた放課後。
今日も部活だったんだが、部長に「自分の才能に胸が痛くなった」と伝えて休みをもらった。まぁ嘘ではないからな!
部長からは「お前の痛さに俺の胸が痛くて走れなくなるわ」と言われた。部員想いの優しい部長だよな。
今日はターミナル駅前に赴こうと思う。民衆が多いほど、一発の効果もドデカイからな。
「グ……グヒヒヒヒ……」
電車での移動中もワクワクから武者震いしてしまう。
『あの人、一人でニヤけてるよ』
『貧乏揺すりもしてるし、怖いねー』
俺のオーラに圧倒されたか、俺の両隣に座っていた人たちは別の座席に移動し、正面に座っている女子高生二人組は小声で何やら話していた。
さて、到着っと。
ターミナル駅前となると人混み度が段違いだ。これはいい感じにバズれそうだぜ。
叫ぶステージとしては、やはり大広場が最適か。
「――ン? アレハ……」
輝きを放つ舞台を探して歩き回っていると、マイクを持った女性とカメラを持った男性が、スーツを着たサラリーマン風の男性にインタビューをしていた。
「妻が作ってくれるので、僕は自炊してないですね」
「そうなんですね! 休日はどうですか?」
「休日はレシピを見ながら妻と一緒に作ってます」
「仲がよろしいんですねー! では――――」
「コレハ試食ノ取材デスカ!?」
「え、えっと……?」
唐突な俺の乱入に、その場の全員が困惑している。
「コレハマイクノ形ヲシタオ菓子デスヨネ?」
「ごくごく平凡な本物のマイクですよー」
リポーターの女性がとても困っている。
「で、では僕はこれで」
取材を受けていた男性は気まずそうにそそくさと立ち去っていった。なんだ、デュエット叫喚してもよかったのに。
「ココカラハ変ワリマシテ、俺様ガ取材ヲ受ケテ立チマショウ」
「は、はぁ……では、最近は自炊する男性も増えてきています。自炊はされますか?」
「俺様ハ! 性別関係ナク、常ニ世界ヘノ愛ヲ自炊シテマーーーーーーーース!! 全世界ノ諸君ヘノ愛情人情ド根性ーーーーーーーーーーーーッ!!」
魂からの叫びをマイクにぶつける。想いが人を、強くする!
「は、はあ……?」
リポーターは俺の回答が予想外に感動を巻き起こす出来だったためか、あからさまに動揺していた。
また一人、女性のハートを鷲掴みにしてしまったか。俺って本当、罪なナイスガイ。
「愛ノ証明ニ、コノオ菓子ヲ食ベテゴ覧ニ入レマショウゾ!」
宣言後、俺はリポーターからマイクをぶんどり、マイクのヘッド部分を口にぶち込んで、この美しい顔がドアップで映り込むようにカメラの真ん前に立った。
「ホヘハ、ホヘハハホハヒホホフヘイヘフ(これが、俺様の愛の証明です)」
あれ? これどちゃくそかってえぞ? 全く噛み切れる気がしない。
「こ、これは放送し続けちゃまずい絵面よ! 今すぐカメラの向きをずらして!」
「イ、イエッサー!」
カメラマンが素早い動きでカメラを方向転換させる。
「ホヒホッホハホフヒヘフホー(鬼ごっこは得意ですよー)」
が、俺も負けずにカメラのフレームを追い続ける。
「一旦スタジオにお返ししまーす! ――――!」
本気でまずい状況だと判断したのか、リポーターがカメラマンに目配せする。
すると、カメラマンはまたもや手慣れた動きでカメラをいじった。
「カメラを止めました」
「カメラヲ止メンナ!」
「ありがとう。――君、目立ちたいのかもしれないけど、小学生じゃないんだからイタズラはやめようね」
「ハァーイ、ボキュハチョオットドスケベナ小学生デース」
ハンカチでマイクを拭き拭きするリポーターから苦言を呈されるがもう遅い。既に全国ネットの生放送で俺の勇姿が多くの国民に焼き付けられただろう。
その裏でちゃっかり自分のスマホでも今のファインプレーを動画撮影したので、テレビ+ネットの二刀流で効果も二倍だぜ。
ネタも取れたことだし、あとは家に帰ってアップロードするだけだな。
『えー、先ほど著しくお見苦しい映像が流れたことをお詫びいたします。誠に申し訳ございませんでした』
『…………全国ネットの生放送で完全なる放送事故だ』
俺の背後ではリポーターとカメラマンがげっそりとした表情で生中継を再開していた。
カメラマンが小さな声で嘆いていたが、俺の耳はその言葉を拾えなかった。
だが、マスコミなど所詮「フハハ、視聴率が上がるなら捏造もヤラセも
捏造でもヤラセでもない、ガチな俺の機転に感謝してくれよな。
♪
俺がまた一つ、世界史に残る武勇伝を生み出した翌日。
教室に入ると、昨日以上に教室内にざわめきが巻き起こる。
「クックッ……ヤハリ効果ハアッタヨウダナ」
全国生放送の番組に映り込み、更に帰宅後に動画サイトにもアップ済。
「全国デ俺ノファンクラブガデキルノモ時間ノ問題ダナ」
抱かれたい男全国一位となる日が待ち遠しい。
『邦改の評判は地に落ちたな……』
『アイツ一人で落ちればいいのに、俺たちまで風評被害に遭いそうだよ』
『マジで圭は邦改のガンだよな』
凡人には真似できない俺の所業にクラスメイトどもは恐れ
分かったか、雑魚ども。これが、お前らになくて俺は持ってるモノだぞ。
「ヲイ永田大地! 貴様、俺様ガ昨日残シタ伝説ヲ目ニシタカ!?」
廊下を徘徊していると、偶然にもトイレから戻ってきたところと思われる永田大地と遭遇。
せっかくなので昨日の俺の勇姿について尋ねてみた。
「見た。晩飯食べてる最中になんちゅーモン見せてくれてんの? お茶の間が凍りついたんだけど。土下座して謝ってくれない?」
「コレデ俺ノ愛ハヲ前ニ分カッテモラエタダロ?」
『えっ……あいつらってそういう関係?』
『圭は性別に縛られないスタンスなのか?』
廊下を歩くギャラリーたちが色めき立っているが、永田大地は無反応を決め込んだ。
「愛の証明だったの? あれが?? ド派手な事故を引き起こしてたようにしか見えなかったんだけど」
「アレガ分カラントハオ子チャマダナ」
「常人の
「ソシテ動画サイトニモアップシタゾ! ホレ、見テミロヤ!」
昨晩俺がアップした動画を再生して、永田大地に無理やり見せつける。
「この映像でどれだけの人々の心にトラウマが植えつけられたんだろうな」
「トラウマドコロカ、生キル希望ヲ見出シタニ違イナイダロ」
「この動画、低評価の数がすごいな。コメント欄もすげえ荒れてるぞ」
永田大地がおかしなことをほざくので、スマホを奪い取ってディスプレイを確認する。
確かに高評価はほぼゼロで、低評価は数百件ほどついていた。
コメント欄を見ると――――
『キショイもん見せんな』
『これテレビでも生中継されてたよね。新手のテロ? 通報しました』
『顔がゴリラっぽい』
『コイツ一生童貞だろうな』
『こんな奴でも入学できちゃう邦改高校。おつむが知れるね』
『この角刈り眼鏡狩り上げてぇ』
誹謗中傷の嵐じゃねーか! こいつらマジいい加減にしろよ!
「コイツラ全員ニ制裁ヲ加エネバナランヨウダナ!」
「最も制裁を受けるべき人物はお前なんだけどな」
永田大地が意味不明な持論を展開しているが、構うもんか。
「コノアホドモニ説教スル動画ヲアップシテヤル!」
早速教室に戻り、スマホのカメラを録画状態にして自身の顔が映るようにする。
あぁ、何度拝んでもふつくしいフェイスや……。
「貴様等ハ全員愚カ者ダ。俺様ハ将来世界ヲ担ウ男」
俺は世界を変えられる千年に一度の逸材だぞ。その俺様に対して、あのような屈辱的なコメントは到底許されるものではない!
「コノ俺様ニネット上ッテイウ安全地帯ノ日陰カラ吠エルコトシカデキナイ愚カ者ドモヨ。ヲ前等全員、生キル価値ガナイ。今スグ自害セヨ」
その後もコメント欄を荒らした
若干差別用語や過激な発言もしたが、まぁ奴らにとってはいい薬になるだろう。
「クックッ……奴等ガ慌テフタメイテ俺ヘノ謝罪ノ言葉ヲ羅列スル様ガ目ニ浮カブワ」
なお俺が演説をしている間、クラスメイトどもは危ない物を見るかのような瞳で俺をチラチラと見ていた。
そして放課後。
「結果発表ト参リマショーーウ!」
例のサイトにアクセスする。
――――アクセスするが、ログインできない。
「オッカシイナァ? 不具合カ?」
と、アカウント新規作成時に登録したメールアドレス宛てにメールが届いていることに気づく。
メールを開封する。なになに――――
『あなたが配信した動画にて、第三者への著しい誹謗中傷および利用規約違反が多数のユーザーから報告されたため、アカウントを削除しました』
「ハアアアアアアアアアアンンン!?」
俺のアカウントが運営に削除された、だとぉ!?
なぜ俺への罵倒は許されて、反撃した俺だけが見せしめにされないといけないんだよ!
「クソユーザーガホイホイ集マルサイトノ運営モクソシカイネェッテカ……」
こうして俺はまた一つ、社会の理不尽さを痛感することとなった。
♪
「私は観れなかったんだけど、昨日の生放送番組で近年最大級レベルの放送事故があったらしいよ」
「ナヌ!? ソコマデインパクト溢レル事故ガアッタノカ!?」
動画のネタを取りに街を歩いてた俺も知らなかったわ。是非とも観たかった。
昨日は俺の苛烈テレビデビューに葵が話す放送事故と、さぞかし歴史に残る放送回だったんだろうな。マスコミ関係者も大喜びしていることだろう。
「その番組の動画探してみようっと」
俺の横では葵がスマホで放送事故の情報を探しはじめている。
俺が上げた動画は削除されてしまったが、人々の記憶には残ったことだろう。
「今日ノ空モ青イナー」
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