6_想いは言葉にしないと伝わらないことが多々ある ②
「抱かれたのは、君だ」
「アータドチラ様ッスカァ?」
問うが、男は俺の質問をガン無視してニヤニヤしている。
「これから君は、ホテルで僕に抱かれることとなる」
「
「君の深い愛がこもったアピールに、僕の下半身がつい反応してしまったんだ」
「ダウジングマシーンカ何カ? ソノ下半身ヲ二度ト使エネェ代物ニ変エテヤロウカ?」
金のボールを磨り潰しておけば、二度と愚行に及べなくなるか?
「キュンキュンしちゃうからこれ以上興奮させないでっ☆」
気持ち悪い生物に絡まれてしまったもんだ。油断してたわ。
よくよく男の手を見ると、左手薬指に結婚指輪がはまっている。
「オッサン既婚者カヨ。妻ガイルノニ平然トナンパタァ外道ナクソ猿ダナ。碌ナ死ニ方シネーゾ」
このオッサンに関しては、妻の性別が女である保証すらないが。
俺が呆れた視線で物申すと、オッサンは開き直った態度で溜息を吐いた。
「如何にも、僕には奥さんがいるよ。でもさ、夜のお遊びでボーイを嗜むのも、それはそれで違う味があるっていうか。妻と愛人は別枠、別腹なんだよね」
「今スグ貴様ノ妻ニチクッテヤッテモイインダゾ」
「果たして僕のテクを堪能した後でも同じことが言えるかな?」
「俺ハ女ノ子ニシカ反応シネーカラ。オトトイキヤガレ、加齢臭オヤジガ」
掴まれてない方の手でオッサンの顔面をシッシッと払う。
「あぁっ、いっけぇずなヴェイヴェエだぜ……」
俺の拒絶に
「ハードバイヲ釣リ上ゲルトハ、俺ノ魅力ニ性別ハ関係ナインダナ」
ま、生憎俺様は女の子にしか欲情しないんだがな。全世界の男性ファンの諸君、ご期待に沿えず誠に申し訳ない!
自分のモテモテ具合を再実感してしばし余韻に浸っていたが、そろそろ帰宅しないとお母さんが作ってくれた晩御飯が冷めてしまう。
踵を返して駅のホームに向かおうとすると――
「すみません、警察ですが」
「マァーッタコノパーティンカヨ!」
どこかで見た覚えのある顔の警察官に肩を掴まれた。
最近ネタがワンパターンじゃね? 警察が出張ってくれば笑いが取れるとか思われてね?
「アンタラ俺ノストーカーカ? 常ニ監視シテネ?」
悪いけど、握手は事務所を通してくれるかな。
「また君なんだよな……何度公共の面前で暴れれば気が済むんだ? それが、歯止めが効かず止まることを知らないヤングエナジーなのか?」
「若気ノ至リハサツデアロウガ止メラレネェゼ!」
「法に接触する至りなら容赦なく少年院にしょっぴくけどね」
ち。マニュアル通りの対応しかできない脳筋高卒公務員が。
「酔っぱらった高校生が奇声を発して暴れていると通報を受けたから近辺を捜索してたところ、君が
「飲酒シテネーシ、バイオヤジニ絡マレテルノヲボケット見テネェデ声カケトケヤ」
本当に使えねぇポリ公だな。危うく俺の貞操が男に奪われる羽目になっていたかもしれないんだぞ。彼女持ちなのによ! そんな顛末、葵にはとても打ち明けられねーって。
「君は数々の奇行から、ある意味警察署内でもそれなりに名が通っていてね」
「俺ノ噂デ持チ切リタァ、チッタァマトモナ警察署ノヨウダナ」
ほんのちょーーっとだけ、見直してやってもいい。
「君、署内でみんなから何と呼ばれてると思う?」
「ンー、警視総監?」
「最高位である警視総監を軽視しないでくれるかな――『自分のことを高校生だと思い込んでいるテロリスト』だよ」
「レッキトシタ華ノ高校生ナンスケドォ! 学生証モアラァボケガァ!」
俺は財布から学生証を取り出して地面に叩きつけた。
十代の多感なお年頃の戦士を捕まえて、事もあろうにテロリストはねーだろ! 澄みきった俺の心が傷ついたわ!
「ヲ前等ニ俺ノ名誉ガ著シク侵害サレタ! 謝罪ト賠償ヲ要求スル!」
「ならひとまず署まで同行してね」
「ソノ意気ヤヨシ! タップリ税金デ潤ッタ公僕ノ金ヲフンダクッテヤルヨ」
パトカーに乗り込むのは正直もうご勘弁願いたいところではあるが、臨時収入があるとなれば話は別だ。
「ヲォラ、早ク出発シテクレヨ。スターノ俺ノスケジュールハ真ッ黒ニ埋マッテンダヨ」
「真っ黒なのは君の経歴と社会的信用じゃない?」
アホポリは溜息を一つ
こうして俺は颯爽と警察署に連行された。
……が、今回も事の経緯の説明を求められた末に厳重注意だけ受けて解放された。
サツのくせに金を餌に純朴な高校生を騙すとは鬼畜の所業よ! だからグレる青少年があとを絶たないんだ!
♪
翌朝。
元気に教室に入るなり、クラスメイトどもが俺と自分のスマホを交互に見てヒソヒソと話しはじめた。
だが、相も変わらず誰一人として俺に声をかけてはこないので、状況が分からない。
「オイ、人様ノ美シイ勇姿ヲ眺メテ何笑ッテンダ? 詳細ナル説明ヲ求メル!」
しかし俺が事情を説明しろと要求しても、全員が俺から視線を逸らすだけで誰も教えてはくれなかった。
まぁそんなのは想定内。
だったら俺なりのやり方で情報を掴むまでよ!
「オイヲ前、スマホヨコセ!」
「あっ!」
男子生徒のスマホを強奪し、ディスプレイを見る。
ディスプレイには某動画配信サイトの動画再生画面が表示されており、再生されている内容はというと――――
『ヲ前等全員大好キダーーーーーーーー!! 抱イテヤンヨーーーーーーーー!!』
『と、奇声を上げて暴走している角刈りメガネザルの性犯罪者が申しております』
『いやぁ傑作ですね。尾行した甲斐がありましたわ。世の中奇怪な人間が多いですね』
「…………俺様ヤナイカーーーーイ!!」
「おい!! 人のスマホを床に叩きつけんじゃねーよ!」
思わずツッコミで、強奪したスマホを投げつけてしまった。
何者かが俺のあとをつけて動画を盗撮していたようだ。そして叫んでいるところをネタ提供、待ってました! とばかりに動画に晒し上げたんだな。
「フッ……俺様モツイニ世界デビューカ」
俺が芸能界入りする日もそう遠くはないな。今のうちに芸名を考えないと。
「視聴者からコケにされてるけど構わないのか――ってか、いい加減スマホ返せよ」
「フン、コンナ安ッポイスマホハ俺ノ手ニフィットシネーワ!」
強奪したスマホを持ち主の男子生徒に放り投げた。
「だから投げるなよ――っと。あと汚い手で勝手に奪っといて偉そうにほざくなよな」
俺は自分の触り心地満点のスマホを取り出し、先ほどの動画にアクセスした。
アップロード主は世の中の笑えるものを撮影するなんとかチューバーで、他にも百人にナンパしている男や、電車内でダンスを踊りながら先頭車両から最後尾の車両まで移動する男など、配信された動画は人様に迷惑をかける不快な内容が多かった。
そのためか、高評価よりも低評価の数の方が圧倒的に多い。それでも懲りずにアップし続けるのだから、無駄なことに費やすエネルギーを持った相当な暇人と見た。
揚げ句の果てに、再生回数を伸ばすために秘密兵器の俺を本人の許可なく無断で投入した、と。
ちなみに俺が主演の動画はコイツの全動画の中でも低評価の数が一番多く、コメント欄もアップ主と俺への罵詈雑言で溢れ返っていた。
コメントを一部抜粋すると――――
『この角刈り、恥を知らないのか?』
『周りの人がドン引きしてるじゃん。他人への迷惑を考えろや』
『この制服は邦改高校だな。邦改も堕ちたな。隣町の戸阿帆高校よりは遥かにマシだけど』
『無許可で盗撮してるアップ主もあり得ない』
『こんなクソ動画上げんなや。アップ主も雄叫び男も不快だから二人仲良くこの世から消えろ』
「フッ、コメント欄ニマデ俺様ノ才能ニ嫉妬シタ連中ガ寄ッテクルンダナ」
まったく、俺の魅力に踊らされた困ったチャンたちだなー。
と、そこで俺の中で閃きが生まれた。
「待テヨ――コレハ使エルノデハ?」
世は情報化社会。ネットこそが最大の情報発信媒体。
「ナラバ、コレヲ活用シテ俺様ノ知名度ヲ上ゲルコトモデキルヨナ」
そう。今時は炎上やらバズるやらで、多くの観衆の目に留まる動画やSNSのネタが存在する。なら同様の手口で炎上してやれば、俺様の信者を効率よく増員できると考えるべき。
というわけで授業時間を有効活用して、動画サイトのアカウントを作成した。
あとは肝心の動画がまだないので、放課後にネタを撮りに行くだけだ。
「マ、ヤルコトハ昨日ト同ジダカラ楽ナ商売ヨ」
昨日サツからはキツくお灸をすえられたような気がするけど、何を言われたのかサッパリ覚えてないので何も言われてないのと同じだよな! つまり一切合切問題はない。
今宵は心が震える叫びを動画に乗せて全世界に配信してやるぜ!
「グフッ! グフフフュ……ヲニョニョニョニョ~~」
「平原圭、静かにしろ」
「イエス! 将軍殿!」
自席で腰を左右に振っていたからか、教師から注意を受けてしまった。
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