てぃんこがten個

つぎはぎ

てぃんこがten個

「兄ちゃん聞いてくれよ! オラ大変なことになっちまった!」


 土曜の朝十時。部屋でシコリ終わって倦怠感に襲われているところに、みのるがノックもしないで部屋に突入してきた。


「どうした? みのるがそんなに慌てるなんて珍しいな」

「オラ、朝起きたらちんこがなくなってたんだ!」

「お〜そりゃ大変だな」


 こりゃまた面白くもない冗談を持ってきたもんだ。こんなに慌てたふりをして、緊迫感を醸し出しても、ちんこがいきなりなくなるなんて嘘を信じる人間なんていないだろう。


「兄ちゃん信じてねぇーな! ほんとなんだって! ちんこも金玉もちん毛も無くなっちまったんだ!」

「そこまで言うならみせろよ。ほらズボン脱げ」


 そう言うとみのるは大人しくズボンを脱ぎ始める。ズボンもパンツも足首まで落ち、みのるの股間が露わになり、そこには立派なちんこが……と思っていた俺だが、そこにあるのはただの肌だった。


「な! ほんとだろ!」


 みのるは怒ったように言う。


「……これは驚いた。つまらない冗談かと思ったわ」


 俺はまじまじとみのるの股間を見つめる。どうやらちんこがなくなっただけで、まんこがついたわけではなさそうだ。ようするにみのるは無性になったということだろうか?


「だけどよ兄ちゃん。これだけじゃねぇんだ……もっとやばいのがあるんだよ」


 みのるが少し俯いて、少しはずかしそうにボソボソと言う。


「ちんこが無くなった以上にやばいことって一体なんだよ」


 疑問を投げかけると、みのるは服を脱いで完璧な全裸になり、俺に背を向けた。


「おい……これって……」


 まさかの事実に言葉が出てこない。衝撃が大きすぎて脳が処理できない。


「オラもさっき気がついたんだけどよ、背中にちんこが十個生えてきてんだ……」


 みのるの背中に横五列、縦二列の配置でちんこがずらりと並んでいた。ただどれも同じちんこというわけはなく、例えば左の上から二番目のちんこは右の方が金玉がでかいのに、右の一番上のちんこは左の方が金玉がでかい。それに左の一番上のちんこはちん毛が金玉まで生えている、ジャングルなちん毛なのに、左の下から二番目のちんこはほとんどちん毛がなかった。


「んで……これ俺に相談してるけど、一体俺にどうしろっていうんだ?」

「とりあえず兄ちゃんに言えば、なんとなかなるかと思ったんだよ。兄ちゃんって昔から頼りになるしよ、オラが消しゴムなくしたりするといつも最初に見つけてくれたのは兄ちゃんだったべ?」


 正直、これとそれでは話が違いすぎる。ちんこが背中から生えてくるのをどうにかしろなんて、俺に限らず地球上のほとんどの人間が無理なんじゃないか?


「俺にはどうすることもできないが……とりあえず全てのちんこがリンクしてるのか確かめてみるか? 現状把握は大事だろ」


 どうすることもできないが、可愛い弟が困っているので、とりあえずそれっぽいことを言う。


「全てのちんこがリンクしてるかって、一体どういう意味だ?」

「あー、お前ちんこと一緒に金玉も生えてるだろ? 確か金玉って精子が入ってるらしいし、例えばこのちんこが射精をしたとして……」


 俺は右一番上のちんこをつつく。


「次にこのちんこを射精させるとする……」


 左一番上のちんこをつつく。


「そしたら射精の量って変わるのかってこと。ほら、お前もちんこが一つだった時期を思い出してみろよ。ちんこが一つだった時って、射精をやるたびに精子の量って減るだろ? けどお前ちんこが十個あるし、そのちんこにちゃんと金玉二つずつついてるだろ? だから、もしかしたらこのちんこが凄い量射精したとしても、次にこっちのちんこで射精すれば、精子の量減らないんじゃないかってさ」

「兄ちゃん、それを確かめて何になるんだ?」


 まあそう言われればそうなんだが、俺はもう十個のちんこをどうにかするよりも、十個のちんこと付き合っていく方がいいような気がしてきた。まあもし俺がみのるの立場だったら、どうにかして元の状態に戻ろうと試みるだろうが。


「オナニーって気持ちいだろ?」

「うん」

「何回もやりたい時ってあるだろ?」

「うん」

「けど二回目のオナニーより一回目のオナニーのほうが、精子がいっぱい出て気持ちいだろ?」

「うん」

「お前ちんこ十個あるだろ?」

「うん」

「じゃあその一回目の気持ちいオナニーが十回できるってことじゃないか?」

「うん! そうだな! そりゃ凄いことだべ! 兄ちゃんはやっぱ凄いな!」


 みのるが今日一番の笑顔を見せる。その日一発目の精子が沢山でるオナニーを、その日のうちに十回できる。なんて素晴らしいことだろう。


「けど兄ちゃん。オラのちんこ背中にあるからオナニーしないくい。どうすればいい?」


 ……そこまで考えてなかった。が、正直こんな話に長くは付き合ってたくないので、俺は適当なことを言った。


「そりゃお前、女でも作ってしこってもらうしかないんじゃないか?」

「……そうだな。けど背中にちんこが十個もあるやつを好きになる女なんているか?」

「なーに、別にそういう店に行けばいいだけだろ」

 

 みのるはそれに納得したのか、「そうだべな!」と快活に服を着て、「兄ちゃん相談に乗ってくれてありがと! やっぱ兄ちゃんは頼りになるなー」と部屋から出て行った。


 それから一時間後。そういう店に抜きにいったみのるは、従業員に通報され、警察に連れて行かれた。


 その後、背中にちんこが十個生えた男として、ドキュメンタリー番組に取り上げられるのはまた別の話である。


         

              てぃんこがten個『END』


 

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