二章 〜手伝い、そして新たな出会い〜

第6話 少女の仕事の手伝い

 夜になった。

キシは約束通り、ビダヤの街の広場に到着した。

レイは広場の中にある噴水のところで待っていた。


「ごめん、待った?」


「ううん、さっき来たばかりだから。

それじゃあ行こう。私についてきて。」


 キシはレイについていくと、細い道を進んでいく。

進むに連れて周りには建物がどんどん少なくなっていき、やがて森に差し掛かる。


「な、なあレイ。まだかかるのか?」


「もうちょっとで着くよ。頑張って。」


 1kmくらいの歩きだけならまだいいが、道が石敷から土に変わり、状態も悪くなり、キシの足は少しずつ悲鳴をあげ始めていた。

 しかし、レイは相当慣れているせいなのか、それともまだ子供だからなのか疲れているようには見えない。

呼吸も全く乱れていなかった。


「着いたよ!

ここが今回の私の仕事場、霊園です!

って、キシ大丈夫?随分疲れてるみたいだけど…。」


「こんだけ歩いたの…久し振りだし…途中から、ぬかるんでたから…思ったより…体力もってかれた……ぜえ、ぜえ……」


「もう、男の子なのに情けない。」


「うぐっ……」


 男の子なのに情けない。

その言葉はキシの心臓に何本もの鋭利な矢が刺さった。


「まあとりあえず、まずは見てもらわないといけないね。

キシは近くで見ててね。」


「わかった。」


 レイは大きく深呼吸する。


「よし!」


 そう言って頷くと、霊園のほうを向き、手の指で印を結ぶ。

すると、墓場の真ん中に魔法陣が現れた。

 

「なるほど、あの魔法陣を広げていって除霊するのか。」


 キシの思惑通り、レイが生み出した魔法陣は徐々に広がっていく。

 しかし、


「え、ちょっ……はぁ?」


 どんどん範囲が広がっていく魔法陣は、キシの想像を遥かに上回った。

 その魔法陣は墓場の全体をすべて覆ってしまったのだ。

 この霊園も決して小さなところではない。

おそらく、はるか昔の先祖たちや他の国の人たちのもあるため、それなり広い霊園だった。

 しかも、そんな広いところに魔法陣で覆おうとすると、この世界でも片手で数えられるほどの、いや、それ以上の魔力量が必要になるはずだ。

 しかし、この紫髪の少女はどうだろうか。

印を結ぶまでは良いが、深呼吸をしたあと、なんと無詠唱で霊園を魔法陣で覆ってしまった。

 キシは苦笑することしかできなかった。





◇◇◇





 20分くらい経っただろうか。

儀式が終わったのか、レイは印を解いた。

それと同時に、魔法陣も消えていった。


「ふぅ……これで終わりっと。」


 レイはそう言うと地面に倒れ込み、大の字になる。

 この儀式はかなりの魔力を消費するため、体力が奪われ、かなりの汗をかいていた。


「お、お疲れ様。」


「ありがとう。

ってなんでそんなに顔が青ざめているの?」


「そ、そりゃあんなもん見せられたら……」


「そ、そう?」


「レイ。あんな馬鹿でかい魔法陣街の人たちに見せたら、たぶん俺と同じ反応すると思う。」


「そうかなぁ?」


「いや、自覚なしかよ……」

 

 レイは首を傾げているが、その反応がもはやおかしい。

レイは自分が相当優秀な魔力量を持つ者だと自覚がなかった。


「まあ、とにかくキシに手伝ってもらいたいのはこの仕事よ。」


「こ、これをやれって言うのか!?」


「うん。」


「いやいや、こんなもん見せられたらさすがに……」


「大丈夫よ。それに、キシって相当魔力がないのは知ってるし。

そこらへんはちゃんと考えてるよ。」


「いや、だってあんなもん見せられ――

なあ、今なんて言った?」


「キシって相当魔力がないよね?」


「……なんで知ってんの?」


「そのくらい分かるよ。

だって、魔力がほとんどないって感覚的にわかるもん。」


「は…はは…」


 キシは相当優秀な子の仕事を手伝うことになってしまったようだ。

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