DREAM IN THE M.I.C
廃車
What's up? ──ONE
「優勝は……
司会がそう告げた瞬間、周りから拍手と大歓声が湧き上がる。中には指笛や、優勝者の名前を叫ぶものも沢山いた。
この東京武道館全体が、さっきの一言だけで活気に溢れていく。そんな大勢の人の中で俺は手も口も動かさず、ボーッと周りの大声を聞きながら優勝者を見つめている。
いつの間にか歓声も収まり、司会の人が優勝者に優勝の証である黄金のマイクと300万とデカデカと書かれた賞金を掲げる。
「さぁ、ウィニングラップ始めましょうか」
その一言でまた歓声が湧き上がる。ウィニングラップは優勝者が優勝した証の一つとして、感謝や今までの苦労など様々なことをラップで伝えると言うものである。
司会が言った数秒後に、後ろの方にいたDJの中の一人がビート選択を終えたのか、レコードをスクラッチしてビートが流れ始める。
──yeah,yeahやっと優勝だぜ馬鹿野郎!一年?二年?三年越し?いやこちとら七年越しのリベンジだぜ?
まだまだ俺の勢いは止まんねぇよ?まだ実感はねぇけど俺が一番上手かったから仕方ねぇか
ダッセェって中指立てられた、パンチラインがねぇってdisられた
あの頃のお前ら聴いてんのかな、What's up? hater disが足りない?ただ突っ立てるだけでパンチライン
ウィニングラップが終わり、また大歓声が会場を包む。ビートが止まり、優勝者が発言をする。
「優勝ありがとうございました!来年?再来年?二連覇だか三連覇だか知らないけど、この''COC''来年も再来年もくるんで止められんなら止めてみな!」
その発言でもまた会場が湧き上がる。MCバトルと言われているものの中で、デカい大会で三連覇は前人未到の新境地である。それを実現できる可能性は低いが、それを実現させるのが俗に言う''HIPHOP DREAM''と言うやつなのだろうか。大会も終わりぞろぞろと観客が物販の方へと流れて行く。
俺もその人波に攫われながら物販会場の方へと流される。
ラップの大会の物販は、自分に並んでくれる観客一人一人に対して手売りをするというシステムである。
優勝者はやはり長蛇の列であるが、一回戦で敗退したラッパー達もとんでもない数の観客が並んでいる。冷静に考えればそれも普通だ。
今来ているこの大会、COCは、CHAMPION OF CHAMPIOMという正式名称で一年で行われる様々な大会に協力をして貰って、その様々な大会の優勝がこのCOCの現場に集うのである。
そんな激動の戦闘をくぐり抜けてきた出場者達が、一回戦で敗退しようとその実力は折り紙付きであることは間違いが無い。
「一回戦敗退でしたけど、めちゃくちゃカマしてて最高でした!このCDください!」
「おっけ!2000円丁度だからな!」
「はい!俺、
「そうかそうか!それは嬉しいなぁ、いつかこの舞台に上がってきてくれよな!」
「はい!」
俺も実はラップをやっていて、曲なども作ったことは無いし、小さな箱で行われている小規模な大会での優勝経験も一度もない。
だが、今年は高校三年生となりこの夢を追い掛け続けることも苦しくなってきていて夢を叶えるのであれば今年開催される高校生だけのラップの大会''高校生ラッパーズ選手権''で優勝して、COCに出場して、一気に名声をあげるしかない。
そんな夢も諦めかけていたが、今日のラップを聴いて今までの熱量を遥かに超える熱が湧き出した。
──What's up? hater disが足りない?ただ突っ立てるだけでパンチライン
その言葉がずっと頭で駆け巡る、母にも友達にも俺の夢がバレた時には馬鹿だと罵られた。そんなことを思い出して異様に復讐心が湧き出てきた。夢を叶えて見返してやる。
駆け足で武道館を後にした。誰よりも早くMICを握り、日本で最強のラッパーになってやる。
「待ってろ武道館」
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