White Out!!

@KUROMUGIWAKABA

第1話 夢

いつからそうだったか、もう覚えていない。


かつて記憶だったそれは、一体いつから夢となったのか。


はたまた、夢であったが見ているうちに記憶と間違えていたか。


何度見ても同じ内容で、決まった終わり方と来るならば、夢なんて曖昧なものと言っていいのか、いささか疑問である。




少年は、その日も夢を見た。




子供が、砂場に一人。


スコップで穴を掘り、すぐそれを埋める。


つまらなそうな顔をして、ただそれを繰り返していた。


その子供を見つめる誰かが近づいて、俯く子供に目線が合うようしゃがみ、こう言うのだ。




『君、いつも一人ね』




子供は、話しかけられても無視し、何かに取り憑かれたように、顔色一つ変えずまた掘って埋めるを繰り返す。


そんな態度に構わず、誰かは立ち去ることはない。


それどころか、子供の隣に腰を下ろし、同じように手で穴を掘り、それを埋め始めたのだ。




奇妙な行動に出た誰か。これには流石に子供が反応した。


『なに、してるの』




恐る恐る子供が尋ねると、


『いや、ずっとやってるから楽しいのかなって』


そう誰かが答えた。


子供はつぶやく。


『…楽しくなんかないでしょ』


『ええ、つまらない』


つまらなそうな顔で、誰かは正直に答えた。


『とってもつまらない。でも君は楽しいんでしょ?』


子供は動かしていた手を止めて、首を横に振る。


笑顔であふれた公園で、砂場の二人だけが、つまらなそうにしている。


『ここは広いから走り回れるし、ボール遊びだってできる。遊具もある。


 他の子供だってたくさんいる、楽しそうね。


 なのにどうして、君は一人でこんなつまらないことしてるの。』


『そんなの…』


子供は言葉が詰まってしまう。


今にも泣きそうだった。


誰かは宥めるわけでもなく、子供が口を開くのをじっと待っていた。


やがて、震えて声を絞り出して、子供は言う。


『…お友達、いない。…ぼくはいつも一人だか、ら』


『作んないの、友達』


『だって…僕はみんなと違うから、おかしいおかしいって…』


『ふーん』


ついに泣き出す子供。雫は落ち、砂が濡れる。


誰かはそれに、あたふたとしていた。


『ね、ねぇ。男の子がそんな簡単に泣くなって』


よしよしと誰かは頭を撫でてみるが、子供は泣き喚く一方だ。


『うわあああああああん』


『よよよよよし、じゃあこうしよう!』






『私が、君の友達になってあげよう!ね?だから泣き止もう!』




『ふぇ…』


誰かの提案に、子供は少し落ち着きを取り戻した。


『お友達、なってくれるの?』


『ええ、もちろん』


『…僕、おかしいって』


『言わないわそんなこと。いい?友達よ、友達』


子供の声はだんだんと元気になる。


『ほんとにほんと?』


『ええ』


『ほんとのほんと?』


『ええ』


『ほんとにほんとにほんとにほんとのほんとの』


『しつこい!本当よ、本当!』


ついさっきまで泣いていた姿はどこへいったのか。


子供は立ち上がって飛び跳ね、いっぱいの笑顔で誰かを見た。




『ほら、遊ぶわよ!』


『うんっ!』




ーーーーーーそして、少年は夢から目覚める。


決まってここで夢は終わる。




「結局、だれなんだよ」




青年が天井を見ながらそう言うのは、これで何度目だろうか。


初めての親友が一体誰なのか。


青年となった子供は、この日も思い出すことはなかった。




…でも、自分にとって大切な何かだということは、なんとなく知っている。




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