第5話:旅は道連れ

「やあ、ヒルダ嬢、奇遇だね」


「よく平気でそんな嘘を言えますね、ノーマン第三王子殿下」


 やっと家を出て自由に旅ができると思っていたのに、守護騎士や護衛騎士、侍従や侍女まで連れて同行する気ですか。


「そんな他人行儀な話し方は止めてくださいよ、ヒルダ嬢。

 できればノーマンと呼んでください。

 それが無理だと言うのなら、王子とか殿下とだけ呼んでください」


 腹が立ちますが、この世界では王子を邪険にはできないのですよね。

 それに、多くの侍女を連れて来ているのは私への気遣いでしょう。

 幼いころから知っていますが、決して悪い人間ではないのですよね。

 それもあって、きつい事が言い難い、とてもやり難い相手です。


「しかたありませんね。

 できれば独り旅がしたかったのですが、ゆるしてくれそうにないですね」


「そんな事は絶対にさせられません。

 公爵令嬢のヒルダ嬢に独り旅など絶対に許可できません。

 どうしても独り旅すると言い張られるなら、国軍を使ってでも止めますよ」


「分かりました、だったら同行を許可します。

 ですが殿下が言われるように、公爵令嬢が男性と一緒に旅したり同じ宿に泊まったりするわけにはいきません。

 別の馬車と別の宿を準備してもらわなければけません。

 それも公爵令嬢に相応しい馬車と宿ですよ」


 せっかくの独り旅を邪魔されたのです。

 このくらいの要求は出させてもらいますよ、ノーマン。


「分かっておりますとも、王家の行幸用馬車を二台用意させています。

 ちゃんと国王陛下から使用許可もいただいています。

 野営道具を積んだ軍用馬車も用意しています。

 安心して旅することができますよ」


 私がやりたかった独り旅とは全く違ってしまいました。

 雲を枕に風景や人情を感じながら異世界を愉しみたかった。

 元の世界にいた時のように、バックパッカーとして旅したかった。

 異世界での漂泊の旅に憧れていたからこそ、冒険者のようないでたちで屋敷を出たのに、城門で待ち構えられては逃げようがありません。


 いえ、転移魔術を使えば逃げ出せましたが、できるだけ魔術には頼りたくなかったのですよね。

 これからはもっと臨機応変に魔術を使った方がいいですね。

 自縄自縛になってしまって、やりたい事もできなくなるのは馬鹿げています。

 今まで我慢してきたのですから、もうこうなったら愉しまないと損です。


 とはいっても、オーウェンだけは可愛いんですよね。

 オーウェンが殺されることなく、できれば順当に公爵家を継げるようにようになって欲しいと思うと、決定的に王家と敵対する事もできません。

 幼馴染のノーマンを利用するのは気が引けますが、正直言ってノーマンよりもオーウェンの方が大切ですから、その辺は割り切りましょう。

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