招き猫の所在に関する覚書

@lil-pesoa

第1話

①人の賑わう大通り、軒を連ねる建物と建物の間、その路地裏は人の気無く、誰も知らない。だが、そこに生えているシロツメクサや空から見下ろす入道雲だけは知っている。そこにずっと静止して、大通りを横切る人々を見つめる招き猫が居ることを。




②酒や魚を運ぶキモノの人間と、廊下を照らす行燈の列。

ピンと張った和紙の障子があって、毎夜その向こう側に賑やかな影絵が映るのだ。

幸福な招き猫は廊下の突き当たりに飾られて、長い長い間、何事かに傾聴している。




③どこまでも清潔な永遠の浅瀬の砂上、あるいは、遥か上空で太陽の祝福を受ける雲の神殿の柱下、あるいは、遊牧の羊達が戯れる若い草原の上、あるいは、苔むした廃図書館の書架にかけられた梯子の上、あるいは、強く握り締められた泣き虫の幼児の掌の中、あるいは、、ではない。それらの夢を見る陶芸家の空想の中に太った招き猫は存在する。

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