4話 彼女の友達として





ユリと僕は再会して「ハーベスト」でたくさんのことを話した。


ユリは僕より先に軽やかに階段を降りて行き、うきうきとした足取りでよく僕と二人で座っていた席を選んだ。それから、僕が座るか座らないかのうちにマスターを呼んで、僕に「何にする?ブレンド?」と聞いた。それはどこか急いでいるような気がしたけど、僕はそのときは単にユリが楽しんでいるからだと思っていた。僕たちはどちらもブレンドを頼んで、マスターが行ってしまってから、ユリはすぐにテーブルに頬杖をついた。


「それで、文雄さんはどう?仕事とか」


僕は、仕事が上手くいかないこと、お金があまり入ってこないこと、それから仕事をやる気が出ないことのうち、どれも話すことが出来なかった。


「うーん、このご時世はどこも厳しいね。ユリちゃんはどう?」


僕はそのとき久しぶりにユリの名前を呼んだ。“ちゃん”が付いているのは元々だ。元より、自分より三十近く年下の女性を呼び捨てにするなんて、身内でもない限りしないだろう。


「そうだねー、バイトやっぱりきついかな。居酒屋のホールとキッチンなんだけど…」


「居酒屋は人使いが荒いからね、大変だね」


「うーん、そうだよね」


そこでユリはため息を吐いて、ちょっとうつむいた。彼女の顔は、ふっとあの頃の寂しそうな影を少しだけ映す。


「いろいろ…あった。でも、お父さん、私のために頑張ってくれて、それで、私は…なんとか、生き残れたよ」


おそらく数限りなかった苦痛を、ユリは“いろいろ”に詰め込んで微笑んだ。それは、まだどこか寂しさの拭い切れないようなものだったけど、僕はそれについては何も言わなかった。ユリが笑ってごまかしていられるうちは彼女は堪えるから、誰にも苦しみを渡さない。それだけは変わっていないようだった。


「そっか。それは良かったけど、僕、あの頃何も知らないうちに君が引っ越していったから、少し心配してたんだ」


少しだけ、“話して欲しい”という意思を込めてそう言うと、ユリはちょっと決まり悪そうに曖昧な笑い顔をうつむかせて、話そうか話すまいかを考えているようだった。それからうつむいたままでぽつりぽつり、思い出の中を旅するような目で喋り始めた。


「私は気づかなかったんだけど、うちのお母さん…私を虐待してたんだって。確かに始終怒鳴られてたけど、怒鳴られるだけでも虐待だなんて思わなくて…。それで、私が死のうとした後でお父さんがお母さんと話してみたけど、「虐待だ、虐待だ」って大変なことになっちゃって…親権のことで、裁判とかあったみたいだし…」


僕は彼女の“あの頃”が想像していた様子と大して変わらなかったことに、胸を痛めた。何よりユリに当事者意識がほとんどないらしいのが、彼女には受け止め切れない現実だったのではないかと思わせるから、余計に辛かった。


「それで、とりあえずクリニックに通って、カウンセリングとか受けたけど…ダメだった。カウンセラーさんにも話すのも、あんまりできなくて…。でも、なんとかやってるよ。ちょっと不安定だけど」


最後の言葉を言ってからユリは付け足しのように笑い、なんとか笑い話にしようとした。でも、おそらくは彼女は、まだ誰にも心の底を話したことはないのだろう。“僕が聞けることでもないんだろうな”と、僕はちょっと下を向いた。


「そう…それは、辛いね」


本当に辛いだろうなと思った。なぜって、ひどく辛い心を吐き出すことも出来ずに明るく振舞うのは、二重に辛さが襲い来るからだ。僕もそれを知っている。僕はそれをユリに話そうかとは思ったけど、彼女の傷を勝手に暴くようなことになってしまいそうで話せなかった。


「まあ、でもあの頃よりは全然楽かな」


そうやって君は自分の傷を小さく小さく見せる。きっと気づかないんだろう。周りの人間は、おそらく一人残らず、“この子が今に死んでしまうのではないか”と見抜いていて、びくびく心配しているということには。ユリは指を組んで上に上げ、うーんと背中を伸ばした。


「…ところでさ、なんで今日は制服で来たの?」


“君が制服で居ると、僕が怪しまれちゃうんだけど…。”と思いながら、僕は聞いてみた。するとユリはあっけらかんとして、こう話し出す。


「そうそう、制服!私たち知り合ったばかりの頃って、私めちゃくちゃ具合悪かったみたいでね、もしあのままだったらこんなの着ることもなかっただろうなって思ってたんだけどー…。まあ、今は上手くやってるよって報告したかったし、それで着てきたの!」


僕はそう言われて、思わず胸が高鳴った。なぜって、それはユリが少しでも僕を友人として大事に思ってくれているからだろうし、彼女の心の中に僕が居たのだということに、ちょっと泣きそうになった。それをごまかすのに僕は目元をこする。


「なんだ、そうだったんだ。ありがたいよ、本当に、良かった。でもさ、今度からは私服で頼むね。僕、犯罪おじさんになっちゃうからさ」


そう言ってちょっと笑って見せると、ユリは「やだ!ほんとだ!でも、違うもんね、友達だし!」と言って恥ずかしそうに笑っていた。僕も「まあそうだけど」と言って同じように笑った。僕の胸にはつららのような痛みが刺さったけど、僕はそれを必死で無かったことにした。





「ハーベスト」でユリの高校の成績がわりあい良いことや、僕の教えている生徒の中で面白い子が居ただの、他にもいろいろと話をしてから僕たちが向かったのは、カラオケだった。ユリはどうやら昔から歌が好きらしく、前から僕と一緒に来たかったのだそうだ。僕たちはよく音楽の話もしたし、ユリは僕の好きな昔のロックも少しだけ知っていたから、「洋楽歌ってよ!」と言われた。


カラオケのエレベーターを降りてフロント階に着き、カウンターで名前を書こうとしたときだ。ユリがふと、僕の書いている名前を覗き込もうとして、思い切り僕の手元に近寄り、僕たちは肩がぶつかった。


「わあ、字、綺麗だね」


ふわりと花のような香りがして、でもそれは香水などではなく、まるでユリの名前から香っているようだった。僕は自分の気持ちを“何時間歌うことにしようかな”ということに集中させようと頑張るのに、ユリの気配が醸し出すすべてに耳を傾けようとする自分が恨めしかった。




ユリは流行りのポップスや、それから少し古い日本の曲、あとは最近の洋楽など、いろんな曲を歌った。英語の曲も難なく歌うことが出来たのは、前にユリから聞いた、「幼い頃は英語を習ってたんだって。覚えてないんだけどね」という台詞が関係しているのだろう。


その歌声は透き通って高く、精一杯声を出すユリは、可愛らしかった。


僕は昔バンドでギターを手にしていた頃のことを思い出して、レッド・ツェッペリンの“ロックンロール”をまず歌った。ユリは急に速く激しい曲が始まったことにびっくりしていたけど、僕が歌い終わると、拍手してくれた。


「すごい!なんでこんなの歌えるの!?声もすごく大きいね!かっこいー!」


そう言ってユリは喜んで手を叩いている。僕はそんなに褒められるとちょっと恥ずかしくて、「大したことじゃないって」とだけ言った。


でも僕には気になったことがあった。ユリは、失恋歌ばかりを歌っていた。“つい最近失恋したのかな”と思うほどにだ。それに、暗い曲、辛い中で自分を駆り立てる歌詞ばかりのような気がした。僕はその理由を知っていたけど、それが大して悪いこととも思えなかった。だって悲しみを抱えた人間がそれを外に吐き出してどこが悪いんだ。でも、それがもしかしてユリを食いつぶしてしまわないかということだけは、気掛かりだった。


僕たちはカラオケで一時間半歌って、「じゃあ今日はこれでお開きにしよう」と別れた。ユリは「楽しかったね」と言ってくれたし、笑っていたけど、僕はユリと別れる頃には、“どこまで彼女が口にする言葉を信じていいんだろうか、僕に遠慮して言っているだけなんじゃないだろうか”という疑念から目を逸らすことが出来なくなっていた。





それからは前のように、時折ユリからの電話が掛かってきた。それを受けて僕はユリとの会話を楽しんだし、それははたで聴いていたら「無為なもの」であっただろうけど、僕にとっては生きる糧だった。でも、ユリのことをそんな風に考える自分を咎める気持ちは変わらない。


僕たちは、奇妙な出会いから友人関係になり、僕はユリに恋をしてしまった。「何十歳も年上の人間」であれば、ユリにとって僕は、「道に迷った時に頼れる知人」くらいであるのが当然だ。でも僕は、そうなることを心の底では望めない。そもそも僕たちは出会うべき形ではない形で出会ったのだ。僕は邪な動機でユリに近づいた。それは今となってはもう確かなことだ。彼女の幼い美貌に惹かれ、自分と同じ孤独を映す目に惹かれた。もしあの喫煙所で出会った十四歳の少女がユリでなければ、僕は「危ないことをしようとしている子どもを止めてやるんだ」なんて建前を持ち出さずに、放っておいただろう。


僕は今、自宅の洗面所の鏡を覗き込んでいる。鏡には大量の歯ブラシの先や、壁紙の剥がれた壁が映り込み、そこに僕の痩せぎすの体が映り込んでいた。僕は、瞼の周りが落ちくぼんだ大きな目を見つめ返している。その下にはやや鷲鼻になった大きい鼻と、厚みのない唇があり、頭に乗っているのはほとんど白くなったカサカサの髪だ。少し恰好が良くなるように伸ばしてはいるが、黒く染めることもしていない。肌は青白く少しくすみが混じって、とてもじゃないが健康そうには見えなかった。そして、頭の中は分かり切っていた。“死にたい”、それから、“ユリに会いたい”、その二つがある切りだ。他にも雑多なことがあるけど、僕の考えていることの中で僕にとって価値を持っていそうなことは、その二つしか無かった。


僕はユリについて、いろいろなことを考えていた。でも、“会う”より先のことをするのを自分に禁じているし、考えについてもそれは同じだった。だからここでは“会いたい”と思っているのだということにしておいてほしい。どちらにせよ、僕はこれからもそこから先へ行くことは絶対にないだろう。


それから僕はもう十一時だというのに、そのときやっと朝の歯磨きに取り掛かった。





僕たちはそれから数年、それまでと変わらない関わりを続けて、僕は一時期は他に恋人を作ったりもした。でも、いつも相手とはうまくいかなくなって結局別れた。「本当に好きな子の代わりだ」なんてわざわざ告げたりしなくても、僕の方で相手に愛着がないのだから、いつも恋人は僕に大切にしてもらえないことを寂しがって、離れて行った。僕はそうやって罪を重ねながら、それでも一番大きな罪は犯さないようにしているのだと、自分に言い聞かせた。





「ねえ、文ちゃんちってどこにあるの?駅から近い?」


僕は東京に電車で行くほどの余裕もなく、車も持っていないので、僕たちは僕の地元の駅か、それか二人の家の中間にある駅で待ち合わせて遊びに行く事が多かった。その日は僕たちはその中間地点の駅に近い喫茶店で話し込んでいた。ユリはナポリタンスパゲティを平らげてから、その店のブレンドコーヒーを飲んでいた。その頃のユリは、もうブラックコーヒーを愛飲するほど大人になっていて、僕たちが出会ってから八年が経っていた。ユリは今では、二十二歳だ。時折髪を伸ばしてみては、「やっぱりめんどくさい」と言ってショートカットに戻るけど、僕は長い髪をただ素直に下ろしていた彼女を、「とても綺麗だ」と思った。もしかしたらユリは、大人の女性になるのが恥ずかしいのかもしれない。ふっくらとしていた幼い頬がすっと引き締まった大人になり、さらに美しくなってからも、彼女の表情はどこか寂しそうな子供のままだった。


「あんまり近くもないかな、バスに長い事乗らなけりゃね」


八年も経ってやっと家のある場所を聞かれる友人関係というのも珍しい。でももしかしたら、“私たちは家の場所を知るほどのとても親しい友人関係になるのも良くない”と、ユリも思っていたのかもしれない。


僕はそのとき、必死に自分を押さえつけていた。“もうそろそろ、本当のことを言ってしまおうか?”と望む気持ちだ。“でもそれはきっと今ではない。”そう思ったとき、僕の中に新しい考えが生まれた。というよりは、僕が必死に見ないでいよう見ないでいようとしていた考えを、“いつユリに言えるだろう”と考えることで、見つけてしまったのだ。


“当たり前に考えて、僕たちは友人同士で居ることもしてはいけない。僕はいつかユリと道を別にしなければいけない。ユリにとっては、同年代の友達と新鮮な刺激を交換し合うのが健全なのだ。”というものだ。それは人生における重大な絶望なんかよりよっぽど軽い傷のはずなのに、僕は若い頃に感じたような激しい痛みと、この先生きていても仕方ないように思うほどの大きな絶望を感じた。




ずいぶん長い間答えを引き延ばしてきたんだな、と、僕はユリと別れてからの帰り道に思っていた。そうだ、僕は引き延ばしてきただけだ、最後の決断を。気持ちを告げるか、友人としてもきっぱり別れるか。前者はまともな大人ならやらない。でも僕は後者を選びたくなかった。だから“きっとユリが大人になってからなら言える、彼女が自立してからなら、そこからは自分の責任なのだから。”と思い込むことで、なんとか引き延ばしてきた。でもそれはどだい、大それたことだったのだ。


僕は今、五十一歳だ。確かにユリは大人になったけど、僕は年をとった。そうだ。僕はこれからどんどん年老いていく。そしてユリは美しい時代を生きるのだ。それに、こんなに年が離れていたら、ユリはいつまでも僕のことを一人の男性として見るなんて不可能だろう。“一体僕が彼女に声を掛けてどうするというのだろう?幸せにする?派遣会社にこき使われてる五十路の男が?”僕の心は冷たく尖っていき、僕は街頭もほとんどない暗く寂しい夜の田舎道を歩いた。







ユリは、もう一度自分を傷つけ、救急車で病院へ運ばれた。


“やっほー、また病院にいまーす。お見舞い来てねー”


そんなメッセージのあとで、病院の名前と住所が書き添えてあった。僕はそのメッセージ欄を見て愕然とし、まだ彼女を蝕み続けている苦しみは終わってはいなかったということに、打ちのめされた。ユリが軽い冗談みたいに打ったメッセージを見るのが辛かった。“そんなになんでもかんでも冗談にしないで、もうどうか本当のことを話してくれ。”と頼んだら、彼女は口を開いてくれるだろうか。それとも、僕と永遠に関係を絶つのだろうか。


僕は“自分では彼女の助けになんかなれない”と分かっていたのに、ユリの元へと心は走った。二日後に僕は、お見舞いのためにユリの好きな甘いクッキーを買って、ユリが入院している病院へと向かった。




そこは、閉鎖された空間だった。僕は病院の面会受付で名簿に名前と時刻を記し、それからすぐに小走りで僕のところに迎えの看護師が現れた。「藤田さんへの面会ですね」と聞いてきた看護師は僕と同い年くらいの女性で、茶色の髪をひっつめた背の低い人だった。その看護師に連れられて、ユリの病棟を訪れる。看護師は制服のベルト通しにつけてあったチェーンの先にある鍵で病棟の入口を一瞬だけ開けて、僕を招き入れた。


病院は古いコンクリートの建物だった。その奥にある病棟も少し老朽化が進んでいるようであちこち傷みが見えたけど、まだしばらくは病院としてやっていけそうだった。病棟の入口を入るとホールがあって、患者が食事をする細長いテーブルがずらっと並んでいる。その反対側には、話をするためのような、丸いテーブルにいくつか椅子が据えられたセットが二つあった。それから、ソファもいくつか壁際に寄せてある。何人かホールに居た他の患者が僕を振り返ったけど、僕が見舞いの品を手から提げているのを見ると、見舞い客だと分かったようだった。そして、“興味はあるが関係はない”といったようにみんな目を逸らして、それからたまにちらちらとこちら見ていた。


「病室は206ですので、ご案内します」


看護師は簡素な挨拶のようにそう言って、僕をホールから細く伸びている病室への廊下に連れ出した。


「あっ!文ちゃん!」


僕たちは廊下を歩いていたけど、突然僕は後ろから呼ばれて、慌てて振り向いた。そこにはパジャマ姿で髪をタオルで拭っているユリが居た。


「あら、藤田さん、面会の人ですよ」


「うん。文ちゃん来たんだ。連絡くれればよかったのに」


ユリはパジャマのポケットに手を入れてスリッパを引きずり、僕のところまで嬉しそうにちょこちょこと歩いてきた。


「お見舞い、クッキーで大丈夫だった?」


僕がそう言うとユリは、「ほんと!?ありがとう!」とまた嬉しそうにしていた。僕はそのとき戸惑っていた。ユリの様子は落ち込んでいるようには見えなかったから。むしろとても元気そうに見える。“僕は“元気づけよう”と思って見舞いに来たのに、かえって無理に元気なように振る舞わせているかも”と、そのことがずっと気になった。







「入院退屈だよ~、外出たい~」


「外出とかできないの?」


僕たちは「話し声が周りの患者さんの迷惑になるといけないし」と、ホールにある椅子に掛けて話していた。ユリはテーブルに体を思い切りもたせかけて、「退屈で仕方がない子供」のようにしている。


「ダメだって。死ぬかもしれないからってさ」


僕はその言葉になんと返せばいいのか知らなかった。だから、「そっか…」と、なるべく言葉に重みがあるような風を装うことしか出来なかった。


「ね、外出できるようになったらさ、また「海賊」行かない?ここから近いし!」


「え、ええ?いいの?」


確かにここは僕たちがよく行った「海賊」からあまり離れていない。その気になればバスと電車を使って行けそうだった。でも、友人を伴っての外出なんてしていいのか、近親者が付き添うのが真っ当なんじゃないかと、僕は少し迷った。


「大丈夫、大丈夫」


「そっか。じゃあ今度行こう。外出できるようになったら教えてよ」


「うん、退院するにはまず外出からやっていくみたいだし、そんなにかからないうちにできるよ」


ユリは今からその日が待ち遠しいというように、また嬉しそうに笑っていた。僕はなんとなく、“もしかしたら具合が悪いのを無理して笑っているというよりは、退屈が晴れて笑ってくれているのかな。”とちょっとだけ思った。



僕が病棟から出て行くとき、ユリは病棟の出口に近寄らせてもらえず、看護師は何度も後ろを振り向いてユリが出口を見守っているだけなのを確認し、僕を外に出してくれた。それから帰る道々僕は考えた。“彼女は、病の床にも僕を招こうとしてくれた。僕とユリは友人関係だけど、僕はこれからずっとユリを見守ることにしよう。彼女が泣く日があるならいつも僕が駆けつけられるように。泣いてはいなくても、本当は泣きたいんだろうユリの近くに居られるように。誰も居ないよりは、マシだろう。”そう考えて、僕はもう一度、自分の気持ちに蓋をした。



でも、結局僕はそれを口にすることになる。それはその日からたった二カ月後のことだった。







つづく

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