あの人のことが、気がかり。そして…、悲しんでいるあなたが好き。ときには、そんな花言葉を!

@maetaka

第1話 新卒トキオは、社会の花(本人談)

 ゆるゆるトキオには、学生時代だけが、強烈な思い出だった。

 今思えば、ゼミの専任、ラックス教授は、どんなことを考えていたのだろうか?こんなことを、考えていたのだろうか?

 「学生は、未熟だ。自分のことしか、考えられないからだ。特に、あの世代は。もちろん、他人のことを考えている余裕などなく、ただ、懸命に進まざるを得ないからということもある。その意味では、それでも、仕方がないのか。誰もが悲しまないようにと、そう考えられたなら良いのかもしれないが…。絶望的観測」

 さあ、どうだろう。

 その気持ちが、学生たちに届いていたのなら、良かったのだろうが…?

 人の気持ちは、わからなかったものだ。

 花の気持ちと、同じように…。

 「ああ、楽しいこと、ないかなあ」

 彼は、建設会社のデスクとイスにもたれかかりながら、ゆるゆる花気分を、満喫していた。

 「ポケー」

 緊張感なく、口を開け続けていた。

 「良いんだ。俺は、世界に1つだけの、何とやら…」

 彼は、今年、大学という名の就職専門学校から、転職してきた男だった。

 ゆるゆるな生活で、ゆるゆるな社会状況に引く手あまたで入社し、社会にポコッと出てきた者の、1人だった。

 新社会の、花だった。

 そんな彼を見てか、社内では、うわさが立ちっ放しだった。

 「え?うちの会社って、新卒を採用しちゃったの?」

 「あの人、新卒なのか?」

 「…らしいですよ?」

 既卒組の社員らが、慌てだした。

 「新卒って、あれだろう?究極の花の…」

 「ですよね」

 「俺たち既卒とは、身分の違う人、なんだよな?」

 「就活で、泣いちゃったりする必要が、ないんでしょう?」

 「らしい」

 「待っていれば、だれかが、何かをしてくれた人たちなんでしょう?」

 「私たち、そういう人と働いていかなければ、ならないんですか?」

 「ああ。ペンの持ち方とか、字の読み書きから、教えるってよ」

 「誰が、ですか?」

 「俺たち、先輩社員」

 「ええ?どうして、入社させてしまったのですか?」

 「…うちの会社、新卒一括採用を、やっちゃったらしいよ?」

 「マジ?地雷、踏んだの?」

 トキオ流の生活難度は、格段に、上がっていった。

 「ちぇっ」

 何度も何度も、愚痴をこぼしていた。

 「想像とは、違うじゃないか…」

 ため息を、吐いていた。

 「社会って、なんだよう。俺のオンリーワンが、生かされないじゃないか?俺が、世界におけるどんな花なのか、皆、わかっていないんだよな。…皆、わかっていないだけ。ちっとも、楽しくないよな」

 毎朝会社にくるときには、道で小石を見つけて、蹴っていた。それが彼なりの、ストレス解消方法だった。

 「つまんないなあ。知らない人に、怒られる」

 会社の人たちの顔が、浮かんだ。

 「あんた、誰なの?俺、新卒だよ?って、言ってやりたいよな。言っちゃってるけれどさ。そうすれば、何かと、小言が返ってくる。意味が、わからないよ。本当に、俺たちの神々しさが、わからないんだろうなあ。新卒が、この国ではどれほど偉いか、わかってんのか?…おっと」

 小石を蹴るのに、失敗。

 「こいつめ」

 今の彼が優位に立てる相手は、もはや、石くらいしかなかった。

 「むしゃくしゃ、するなあ」

 石に、無視された。

 「バカに、するなよな!…社会って、何だよ。石みたいに、バカにしやがって。

嫌だなあ、こんな生活。これまでは、誰かが、絶対領域となって、面倒を見てくれたのになあ」

 また、小石が、逃げていった。

 「まただ!…こいつめ!」

 今度は、小石を蹴ることができた。

 「社会って、全部、自分でやらなくちゃいけないのかよ。石をけるのも、そうなのか?信じらんないよ。拷問だ」

 小石が、また、逃げていった。

 「昔は、良かったのに…」

 建設会社での新卒デビューも、楽じゃなかった。

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