第17話

聞き違いかと思い、もう一度と指を立てた。


「アリス商会を立ち上げたのは、僕なんだよ」


どうやら聞き違いではないらしい。

取り敢えず深呼吸。落ち着くのよ・・・落ち着こうとしたけれど、それは無駄に終わり・・・

「えっ!?えぇぇぇぇっっ!!!」

と、大声を上げてしまった。

「え?何でクリスが商会立ち上げてるの!?」

彼はかなり堅実で、無駄遣いを良しとしない。だから、自分に割り当てられた予算は結構、貯まっているはず。だけど・・・

「お金が必要だったの?」

「必要・・・と言えば必要かな?」

「なんで?あなた、かなり貯めこんでるわよね?」

下世話な言い方だが、問わずにはいられない。

「それとは別に資産が欲しかったんだ。だって、平民になってアディを養えないと困るだろ?」

「・・・・はぁ?」


養う・・・私を?平民になって・・・私を・・・

「いや、ちょっとまって。私は誰にも養われるつもりないし、養われなくても十分生活できるし!」

パン屋の売り上げだけでも、おじいさんとおばあさんを余裕で養っていけるのよ?貯蓄も結構あるし。

万が一、不測の事態が起きても、おじいさん達が余裕で余生を過ごせるくらいの備えはあるのよ。

いやいや、それ以前の問題よ!なんでクリスが平民になる事が前提なのよ!!


「何でクリスが私の後を追って平民になるわけ??」

「それは僕が王子を捨ててしまえるくらい、アディの事を愛しているからだよ」

「・・・・っ!!」

またもサラリと告げられた愛の言葉に、不覚にも頬に熱が上がる。

「それに僕達は、結構な頻度で会っていたんだけどなぁ」

そう言いながら、ちょっと意地悪い笑みを浮かべた。


会ってた?確かにクリスとは会ってる。でも、そういう意味ではない事くらいわかる。

結構な頻度って・・・・

唯一、思い当たる人物に、私は信じられなくてクリスを凝視した。

「ま・・まさか・・・ライト?」

クリスは、正解とばかりにとてもいい笑顔を浮かべた。


ライト・・・ライト・リース。アリス商会での私の担当者だ。

パンの材料だけではなく、前世でおなじみの材料(説明するのが大変だったけど)を探してもらったり、かなり無理なお願いをしている頭の上がらない担当者様である。

そう、結構な頻度で会っていた。彼がクリスだなんて、全然分からなかった。

「・・・・変化魔法?」

クリスは黒曜の髪にアレクサンドライトの瞳をしている。

でも、ライトはくすんだ金髪に深緑の瞳をしていた。

しかもクリスはめっちゃイケメンだけど、ライトはこれといって特徴の無いフツメン。

でも、何処かホッとするような容姿で、私は結構好みだったりする。そう、私はイケメンよりあっさりめの顔が好きなのよ。

無理なお願いも、いつも笑顔で応えてくれて、とても話やすいし話題も豊富。兎に角、勉強になるし楽しかった。

そう、楽しかったし、憧れてもいたのよ・・・・


クリスとライトが同一人物だなんて、信じられなくて呆然とクリスを見つめていると、彼は繋いでいる私の手をそっと持ち上げ手の甲に口付けてから、絡めていた指を解いた。

そして、ポケットから指輪を出し嵌めると、とても自然にライトへと姿を変えた。


「本当に・・・・」


クリスがライトだ・・・・クリスとライト、クリスとライト・・・

「クリストフライト・・・・マジか・・・大喜利かよっ!」

クリスに戻ったライトが・・・いや、ライトがクリスに戻って・・・って!

あぁん、もう!クリスよ!やられたわ!

思いっきり、私は天を仰いだ。


クリスがクリスに戻ると・・・ややこしいわ・・・やおら立ち上がり、私の両の手を取り同じく立ち上がらせる。

ただでさえ混乱しているのに、彼が何をしたいのかが分からずされるがままに立ち上がれば、私の両手を握ったままクリスが片膝をついた。


「アデリーヌ・キャベンデッシュ嬢。私、クリストフライト・フリスは貴方を愛しています。どうか、貴女の婚約者にしていただけないでしょうか」


いつもの様に、茶化すようにではない。

誰しも憧れるシュチュエーション。しかも、王道中の王道。本物の王子様。

義理求婚には慣れているけど、マジ求婚は初めて!って言うか、クリスは毎回本気だったみたいだけど、伝わってなかったからノーカンよね。


それにしても、私の婚約者にしてくれだって??コイツ何言ってるの?

普通は『俺の婚約者になってくれ!』じゃないの?

思わず照れと混乱を隠す様にクリスに零せば「だって、僕は選ばれる側だから」と、私の手にキスをした。


うっわー!マジ恥ずかしいんですけど!こんなの初めてよ!

どうしたらいいの!?断ってもいいの!??


慣れない甘々しい雰囲気に飲まれ、救いを求める様に私の目は泳ぎまくっていた。

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