たとえ時代が違っても。

ちキ

前編

 私の今の人生を二文字で表すとすると『最悪』だ。


 地方に住んでいてなかなか出版社に持ち込みが出来ない私は新人賞で一度は入選して、


 あの有名出版社の漫画少年雑誌に掲載されたのだが打ち切りになった。


 それは私が悪かったのだ……

 漫画少年雑誌なのに完全なる少女漫画ラブストーリーを載せたからだ。


 なんで入選したのかは未だに謎に包まれているが

 予想では主人公が編集者の好きなタイプだったからだろう。


 こうやって実家でニートしてるのも悪くはないが、両親に迷惑かけてばっかりだと申し訳なくなる。


 掃除はしない、一日中ゴロゴロしてる、部屋に引きこもって出てこない……


 こんな事考えててもどうしよもない!!!

 次に応募する作品を考えないとな!!!!


 私はテキトーに置いてある自分の財布とリュックサックを床から拾いアイデアが湧いてくる事をしようと動き出したのだった……。


「マブシッ!もうお昼なのか……引きこもってたらわからんくなるわぁ〜」


 外に出ると太陽の光が目に突き刺さってきたので

 瞼がちぎれるんじゃないかってくらい固く閉じ、

 あくびをした。

 ニートを誤魔化し、凛々しい雰囲気を纏うため、

 外の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。


「さてと、どこに行こっか迷うな……」


 目的もなく外に出ると気が付いたら人間に知らない土地に離されたダンゴムシのような気持ちになる。


「ん?ダンゴムシ発見ー!!お前も散歩行くか?」


 背中をちょんちょん触って丸まったダンゴムシを

 パーカーのポッケにしまい、

 とりあえず自分のお気に入りの場所へ行くことにした。


「やっぱり本屋さんといえば中村書店よな〜

 ほんならそれじゃあ、ダンゴムシくん行こっか」


 今は文房具屋さんや美容院が多くなった

 過疎化した商店街。“にぎわう商店街”へ向かった。


 家から直線に進むと今は過疎化した商店街の奥に

 さらに過疎化した商店街がある。


 そこにそぐわない新しい見た目の店が中村書店。最近改装して長いこと“にぎわう商店街”を支えてきたとは思えないくらいピカピカだ。


「いらっしゃいませー……って玲香れいかじゃん!?久しぶりぃーーー!!!!」


「あぁ真希まき!ここでバイトしてるの?」


「まぁね……所でいまtyunittaチュニッターのトレンドだよー玲香の漫画!!

『話は面白いのに可哀想』とか『なんで少年漫画の新人賞入選したのか謎(爆笑)』だってさ〜」


「うっさいなぁ!そんなんそんな事私が一番わかってんねん!!」


 高校の時の同級生だ。同じグループに居てよく私のことをいじってくる、ショートカットが特徴の薄くて茶色い目をした女子だ。


「ハイハイ、まぁゆっくり見ていき〜玲香が好きそうな新しい小説もあるし」


 久しぶりに来た中村書店の本の場所は変わっていた。


 入口には最近入荷した本が置いてある。


 大人二人分のタイルでできた白い床を境にして

 右側はスポーツやダイエット本、手芸の本など

 左側は漫画や小説、勉強の本が置いてあった。


 どっちも手芸とスポーツ、漫画と勉強って180度違うカオス状態になっててじわじわ笑ってしまう。


「あっ、この小説良いかも真希この本買うわ!」


「ありがとうございます!600円です」


「どれどれ…………無いわ」


「マジ?給料貰われへんかったん?」


「うん……。とりあえずダンゴムシあげる」


「要らんし、え!ちょっと要らんって!!本取り置きしとかへんのしないのーーーー?」


“え!?ちょマ!?置いてかれたんだけど……

 一緒に散歩行こって言ってたやんな?

 ポッケから出てきたら知らん場所やしここ何処やねん by ダンゴムシ”


 財布の中身が150円しかなくてビックリして、

 近くの空き地がある場所まで来てしまったのだが……


 そこには二階建ての古くさい建物がたっていた。

 ボロボロになった布でできた薄汚れた黄色い看板には『古本屋 ひいらぎ』と書いてある。


 ネットで誹謗中傷されて、心が強くなったのか

 私は恐れることもなく入って行くことにした。


 まるでお化け屋敷に友達と入って行き

「どうせみんなスタッフさんやで」と言うような

 空気が読めない人間のように。


「失礼しまーす。」

 ガラガラと音をたてる磨りガラスの引き戸を壊れないようにそっと引いた。


「いらっしゃい、お客さん」

 優しそうなおばぁちゃんが、嬉しそうに私を見ると薄ら笑みを浮かべてしわしくちゃな顔になった。


 私はおばぁちゃんと目が合うとペコッとお辞儀をする。


(凄いなぁ、見たことの無い本が沢山ある……)


 古本屋さん独得の香りがする。

 カビっぽくて古いインクの香り。


(この本とか良いかも)


 そう思って手に取ると店のおばぁちゃんが話しかけてきた。


「ここにある本はね、人生そのものなのよ。」


「へぇー、そうなんですか」


「同じ内容でもその人によって違うからねぇ……」


 確かに生まれた環境、育てた両親、周りの友達などで同じ事をしててもその違いで感じ方や性格が変わるからな……


 私は気になる名前の小説を見つけた

『乙女心は雨模様』


 まさに私だ!!

 運命感じるこの本をそばに持っておきたい……


「おばぁちゃんこの小説いくらですか?」


 するとおばぁちゃんは商売らしからぬ、

 とんでもない回答をした。


「人の人生に値段をつけることは出来ない。気に入ったのをいくらでも持ってお帰り」


「えっ……良いのおばぁちゃん?」


「もちろん良いよ〜でも大切に扱ってねぇ、その人のそのものなんだから」

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