第37話 穴へ

 倫弥はうさぎの背を撫でる。うさぎは目をあけ座布団から跳ねおりて、座布団に向きなおる。うさぎの見てる先に穴が浮かぶ。それは薄暗い円。先刻、沙絵も同じ事をして穴を見せた。

 

 倫弥は穴の横にあぐらをかき、円に手をのばす。円に手が重なる。すると、あたりはゆらぎ始め、戸やカーテンの隙間から漏れる光は円に吸い込まれていく。光は円に向かって線を描く。円は光に満たされていき、余すところなく円の中に溜め込んでいく。倫弥は手をのばした姿勢のまま、その光景を見ている。うさぎも見ている。円は休みなく光を吸い込み続ける。何かの拍子に弾けそうなほどになる。それでも吸い込み続ける。光が描く線はだんだんと短くなっていく。倫弥は息を飲む。うさぎはピクリと動き、まばたきをする。その一瞬、円の中の光は更に円の中の一点に凝縮され、部屋は光を失う。そのまた次の一瞬で視界のすべてが白く覆われる。果てのない真っ白い世界。


 隣の部屋では四人は座ったまま、閉まった戸の向こう側の様子をうかがっていた。微かな音さえしない。戸の輪郭が陽炎のようにゆらぎ、閃光が戸の隙間から漏れ、ゆらぎもなくなる。そして、また静寂。

 沙絵は立ち上がり、戸の傍へ歩み寄る。リンとレイとナズナも後に続く。沙絵は目を瞑り戸に触れる。その様子を三人は見ている。沙絵は目を開き、戸を開ける。沙絵は部屋に入ると、まっすぐ進みカーテンを開ける。部屋にやわらかい日が射す。座布団の横にはうさぎ。相変わらず円を見ている。円は日が沈んだ後の色。倫弥はそこにはいなかった。沙絵は黙ってうさぎを抱き上げ、額を撫でる。うさぎは目を瞑り円は消える。そのまま座布団にうさぎを戻す。

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