第25話 また夜が

 夜が更け、レイの家の灯りは消え、聞こえるのは夜の音。街の灯りは力を失くし、雲は星の光を遮り、夜と街との境界をなくしていく。夜に闇が現れ、うさぎはその闇から身を隠す。


 穴はいたる所に現れる。穴はあの世からこの世への一方通行。まれに、この世からあの世へ行く者もいる。意図せずに。その者がこの世に戻ったとしても、あの世の記憶は消えている。この世の秩序を保つため、この世の価値を損なわない為に。


 現れた闇は、ただの、なにかの、引き剥がされたもの、意図的にか、知らずにか、誰かが抱えきれずそこに置いていったもの。その一部、あるいはすべて。


寝息を立てながら夜明けを待つ。

ナズナの傍らには佇むものは、闇を弾き。

空に渦巻くものは、闇を吸い込む。


ナズナの上には龍が舞う。

龍は円を描き、

雲を割り、

時折、

山かげに姿を隠し、

波打ちながら現れ、

また頭上で円を描く

その手は包み込むように珠をもつ。

その眼は黒く光る珠のよう。

その眼は遠くより、

まだずっと遠くを見据えていた。


ナズナが幼い頃からそれはいた。

ナズナが描く絵の中に、

ナズナがみる夢の中に、

それはナズナの世界に顕在し、

ただそこにいた。


ナズナは母の顔を覚えていない。

母の写真は見たが、写真の母しか浮かばない。

ナズナに歌ってくれる母の顔はいつもモヤがかかっている。

その声も年を重ねるにつれ朧げに。


母は夢に出てこない。


また夜が明ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る