第10話 一人の夜

 リュックを降ろし、コートをハンガーにかける。床に座り、観るわけでもないテレビを点けて、テーブルに課題のプリントと教科書を広げる。カツカツカツカツ…鉛筆の音とテレビの音と静寂が絡み合う。

「ふう…」

ひとつ伸びをする。立ち上がると棚からグラスをとり、冷蔵庫を開け烏龍茶を注ぐ。一人には大きい冷蔵庫。グラスをテーブルに置きテレビを消す。床に座りまたカツカツカツカツ…鉛筆の音と静寂。顔を上げ時計を見る。カツカツカツカツ…。やがて立ち上がりシャワーを浴びてパジャマを着て寝る支度。電気を消す。一人には大きい家。隣の部屋のベッドに潜り込み目覚ましとスマホのアラームをセットする。


 仰向けになり目を瞑る。瞼の裏に目が浮かぶ『誰の目だろう。』この目には何度か会っている。やさしくもなく、こわくもない、女の人の目。見ているのではなく、そこに居る。目を開けると居なくなる。また目を閉じる。今度はなにかの気配。いつもとちょっと違う。これもこわくはない。『寝ていいんだ。』そう思い眠りにつく。

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