「詩集 Answer」作品解説 〜あとがきにかえて〜

「詩集 Answer」各作品の解説になります。


 前回の「詩集 あのね」では先に詩集をお読みになってから解説に目を通してくださいと書いていましたが、今回はどちらが先でも構いません。というのは、難解な詩が多くなってしまったからです。もちろん詩集は全部で5千文字弱しかありませんので、詩集のほうから読んでいただいても全然OKです。

 あと一つごめんなさいなのですが、作者は投稿後に改稿して作品に手を加える癖があり、中には何十回も改稿したものがあります。なので、以前読んだことがあるよ、という方は改めて各作品をお目通しいただけますと大変助かります。m(_ _)m


「Answer」

 表題作のAnswerですが、実はこれ選挙に行きましょう、投票しましょうという詩になります。作者は優柔不断な性格で小学生の時に会長選挙で選択できず、候補者全員に○をして投票したことがあります。そしたら先生が無効票の見本として全生徒の前にそれを晒して「こういうのは駄目」と怒られたことがあります。

 無記名投票のため自分がやったことはバレてないのですが、自分だけは知っていますので今でもそれが苦い経験として残っています。(一種トラウマとして)

 問題を先送りすることが答えであることもありますが、時の流れには逆らえません。就職先や婚約者やいろいろな人生の選択では、その時ちゃんと自分で答えを出しましょうねといったこともありますが、基本は選挙の詩でした。


「雪は静かに降りつもり」

 選挙つながりで、この詩を書いていたのはちょうどアメリカの大統領選挙が終わった頃でした。ある日を境に突然世界の価値観が変わったような気がします。特に環境問題に対する姿勢は大きく変化しました。一体何だったんだという感じのほか、半数近くの人は逆の意見であることが選挙結果から明らかであり、多数決という方法は敗者にとって非情な方法であるようにも思われます。

 それもあって、この詩のテーマは「許し」です。「許し」とは、その対象者ではなく、自分の心を自由にして解放するための行為であるらしく、不条理に対して一人自分の中で許すことを試みている心情を降りつもる雪で表現しています。


「桜の咲くように」

 この詩は今年の春に就職されるフレッシャーズの皆さんを励ます応援の詩になります。会社の入り口に大きな桜の樹がありまして、毎年そこで新入社員の方々が記念撮影をされます。ちょうどいつもその時期が満開で見頃になるのです。

 こないだまで蕾だったときは目立たなかったのに、どうして花開くと桜はこんなにあざやかなんだろうと調べてみたら一つの蕾から複数の花が咲いているのだと知りました。

 私もまた桜の樹の一員でありますので、幾つか成果は出しましたが、花は5つらしいですから、もうちょっと頑張らねばと、自分を励ますための詩でもありました。


「変な人」

 この変な人は私の会社におられる方がモデルです。なので、けしてあなたのことではありませんのでご心配なさらないでください。何かを成す時に組織の場合は調整が避けて通れませんが、局地戦で常に勝利することに拘り大局を見失うなかれという反面教師のようなお方です。

 あと、ブラックな労働環境や不条理な事にホトホトしんどかった時に、何で働いているんだろうと自問自答していた時期がありまして、結局、お客さんの笑顔のためという結論で自分を納得させた経験が含まれています。


「Scrap&Build」

 ブラック企業のあるあるに、サービス残業というものがあります。でも、ちょっと前でしたら、これって当たり前のように皆やってたことなんです。むしろ会社への忠誠心みたいな。男性の育児休暇なんかもそうですが、社会の価値観の変化に対応するには、旧来の価値観を壊して、否定して、変化に対応しなければなりません。

 しかしながら、これまでの自分を自己否定するのは、なかなか勇気のいることでして、特に年配になり立場が上がると難しくなります。結果、若い人や革新的な人からの改善提案は結構否定されて保守的な事なかれな結論に導かれてしまいます。

 戦後からバブルまでの高度成長期はそれでも良かったのですが、これから待ち受ける世界は、人口減少、環境破壊、IT社会への変容等々、未知の問題ばかりです。

 これに対応するには学習して成長するしかありません。これを提唱した本がピーターセンゲの「学習する組織」になります。実は原文では「最強の組織」というタイトルなのだそうです。


「言いたいことはわかるけど」

 この詩は子育てに奮闘する奥さん旦那さんの詩になります。子育ても今の社会では大変だと思います。特に女性にかかる負荷についてそう思います。そのためお子さんに少し厳しくあたり、それが行き過ぎるとまた問題になったりするのではないでしょうか。傍にいる旦那さんがそこら辺はフォローしてあげないと駄目なんじゃないかと、そこで大事なのは先ずはやっぱり「ありがとう」という感謝の言葉ではないかと思う次第です。


「心の掛け算」

 実は、最近になって知人で奥さんに先立たれた方が何人かおられまして、その思いは察するに余りあるのですが、それがきっかけとなった詩になります。また、時期的にもちょうど10年前にあの震災があり、多くの方が同じように愛する方をなくされました。そのことにも思いをはせての詩になります。

 心を一つのテーマに詩を書いていると実際に見える触れる身体と見えない触れない心は物理学上はまったく別の存在であり、けれどどちらも「在る」のは間違いないと確信できます。自分の心は自分、他人の心は他人、なので他人の心もあくまで届けられたものを自分の心が受け取った、伝わり認識したものであるとすれば、自分の心がある限り、その人がまったくいなくなったわけではないのではないかと、そんな気持ちで作った詩になります。


「Solution」

 この詩と、「Answer」「Scrap&Build」の3つがこの詩集の軸を構成する三部作であり、その最後の詩になります。それがわかるように各題名とも英語で表記しました。

 「Scrap&Build」の内容とも関係しますが、何か問題を解決する時に過去の成功体験の引き出しから答えを求めるのは「損をしたくない欲求」からきます。以前と同じ問題ならその時の解決方法で間違いないからです。この「損をしたくない欲求」はなるべく搾取したい、富を奪いたいという欲求とも重なります。

 しかし、未知の問題を解決するためには新しいやり方を模索しなければなりません。これは成功体験から解決する従来の手法に比べて大変非効率的に見えます。なぜなら場合によって失敗すること、損をすることも覚悟しなければならないからです。

 成長のための学習にはトライ&エラーはつきもので、誰でも最初から転ばず自転車に乗れたわけでも、鼻から水を飲まずに泳げるようになったわけでもないと思うのですが、現状に安穏としている時にそれをやれというのは、苦労して学習して、成長するというのは、変化するというのは大変なことになります。しかし、未知の問題に対処するためにはそれが必要です。

 そのためには、学習したい、そして成長したいという欲求よりも、さらに高次の欲求を強く持って、それによってその下位の「学習欲求」「成長欲求」を引き出すことが必要になります。つまり、何のためにそんな思いをしてまでやるのか? という。

 その高次元の欲求が「貢献欲求」になります。人間は誰かに貢献し、尽くし、相手から「ありがとう」と感謝されることによって満たされるという。これらの一連の考え方は、アドラー心理学のセオリー等に基づいています。

 「低次」獲得欲求 → 成長(学習)欲求 → 貢献欲求「高次」


「使う」

 「Solution」が実質、今回の詩集のトリになる位置づけの詩であったため、この詩は少しおまけ的な感じで添えています。(答えというテーマでは、なかなか詩の数が揃わなかったという事情もありますが…)w

 ただ、詩的な表現方法だと書き進んでいくうちに客観的に読んでてて、少し宗教チックな雰囲気となってしまい、ちょっとこれは何だかなぁ、と思ったため、最後にわざと「いうもの」ではなく「いふもの」と遊んでみて、詩が重くなりすぎないようにと配慮しました。(でも、たぶん伝わってないでしょうね~ ^^;)

 書いてて、どこかで聞いたようなフレーズだなぁと思い検索してみたら、近いもので漱石の「草枕」の「とかく人の世は住みにくい…」の一節が出てきました。もしかしたらどこかで憶えていたそれを連想したのかもしれません。詩や音楽などの芸術の在り方について最近作者が思うところと同じことが書かれていました。


 以上が作者による各作品の解説になります。本来であれば詩の解釈は読んだ人にお任せするべきなのでしょうが、今回の詩集は特にテーマに難解なものを選んでしまったため、解説をしないと伝わらないものが多々あったのではないかと思います。

 前回の「詩集 あのね」が恋や思い出といった私的で内向的なものだったこと、また、たまたま、そういうことを考える時期と重なっていたこと、があって今回は社会的な外向きのテーマの詩集になりました。


 この詩集が皆さんにとって些細なことでも何か心に響くことがあれば作者としては嬉しい限りです。

 それではまた。最後までお読み頂き有り難うございました。


2021年3月 TiLA


※「詩集 Answer」

小説家になろう https://ncode.syosetu.com/s1677g/

カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816452218769576154

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