女の子が支配する世界に逆襲(しかえし)を 〜女尊男卑の世界に女嫌いが来た結果〜

@Y_2

第1話 歯車

 俺は女が嫌いだ。


 女は自分勝手、我侭、理不尽。


 それなのにいつも世の中から優遇されている。


 男も女も同じ人間なのに、何故ここまで違うのか。


 買い物には時間が掛かるし、警察は大抵女の味方。


 特に痴漢なんて冤罪にも関わらず逮捕される場合が多い。

 何より偏見が激しい。


 イケメンにハエみたく集まる女。イケメンと付き合っているというステータスが欲しいだけの女。


 男に求めるものが3Kだ?(高身長、高収入、高学歴)

 なら女にも可愛い、巨乳、家庭的の3Kを求めるっつーの。


 そんな愚痴を心の中で言いながら、黒部くろべ 圧幸あつゆきはいつもの通りの登校道を歩き大学へと向かう。


 黒部は愛想も良く、187cmの高身長。町中を歩けばモデル、俳優に間違えられる程のビジュアル。


 しかし、過去の出来事から女を嫌悪する様になってしまった。


 誰もが憧れる様なそんな男の心は、まるで廃れた広野のよう。


 愛想など作り物。身長や見た目なんて遺伝。


 誰ともなんら変わらない人間。


 そんな事言うと贅沢だなんて言われるだろうが、贅沢でも何でもない。

 自分の苦労は様々にも関わらず、分かった様に他人の苦労まで語ろうとする偽善者はいけ好かない。


「…俺は女が嫌いだ」


 思わず心の声が小さく表に出る。


 そんな事を考えている内に大学へ到着し、黒部が大学の門を跨げば歓喜の悲鳴が彼方此方から聞こえる。


「黒部先輩本当カッコイイ~…♪」


「黒部さんが彼氏だったらな~…」


「私、黒部圧幸ファンクラブ5人目の会員なんだよ?」


 などと沢山の女子大学生が黒部を目をハートにして注目している。黒部はそれに対してニコニコとしながら手を振ったり、挨拶したりと愛想よく接する。


 が、心の中は

(ウザイ…吐き気がする…。こんな偽物を演じる自分がとてつもなく気持ち悪い)と、そんな自分に嫌気がさしていた。


 嫌悪感が心に染み渡っていく感覚。


 黒に極限に近い灰色の感情が渦巻く黒部の心は、完璧に黒になるまいとギリギリ平静を保っていた。


 黒く染まってしまえば、きっと取り返しのつかない事になると分かっていたからだ。


 黒部が通う大学(私立緑苑寺大学)はかなりのマンモス校であり、総合すれば一万人程度が通っているであろうその大学の中で、票をほぼ総ナメにする程の人気を黒部は誇っていた。


 なので男からの嫉妬も多々あり、落書きや物を隠されたりなどの嫌がらせも少なくなかったが、黒部はそれに対して何の感情も表さないどころか、寧ろ哀れだと心の中で思っていた。


「可哀想だな…。妬み恨みで自分の価値を下げてく男達は…」


 哀れみを込めた声で呟く。


 その時、突然黒部の背中に「ゆきちゃーん♪!」と名前を呼ぶ何者かが飛び乗る。黒部はよろけるが何とかバランスを保ち、その正体を分かりつつも背に乗る人物を確認する。


「…おい、いつも飛び掛ってくんなっつってんだろ」


「え~いいじゃん!幼馴染みなんだし~♪」


 黒部の背中に抱き着く女は山下 桃香ももか。

 彼の唯一の女友達であり、唯一の幼馴染みである。


 幼馴染と言うだけあり、黒部が話し接触できるただ一人の女の子だ。


 ビジュアルはかなり良く、桃色の長いロングヘアーに薄く青みがかった瞳。

 スラリと伸びた鼻筋に、薄いピンクの唇。

 身長は152cmと小柄だが、スタイルはかなりよく 街を歩けば10人の男が10人振り向くであろう美貌を持っていた。


 黒部とは受ける科目は違うものの同じ大学に通っており、毎日黒部と一緒に帰っている為仲がいい事で女子の周りでは有名だそうだ。


 彼女は黒部と違い素直でポジティブで少しアホっぽい。しかし繊細な所がある事を黒部はよく理解していた。


「で、何だよ。なんか用事か?」


「ん〜ん、用事なんて無いよ?いつもの事じゃん♪」


「まぁそうだけど」


 しかし、黒部は彼女の様子がほんの少しおかしな事に気付いていた。

 いつもは太陽のように明るい笑みで抱き着いて来るのだが、今日は何故か表情に影が帯びている様に見えた。


 しかし、気の所為だろうと会話を続ける。


「こんな事してていいのか?教室まで遠いんだから遅刻すんぞ?」


「あ〜!そうだ!急いでたんだった…!じゃあ私行くね!」


 そう言い黒部の背中から離れると小股で数歩走れば、くるりと黒部の方を振り向き


「ゆきちゃん、いつもありがとね…バイバイ!」


 そう一言述べると、いつも通り教室へ走っていった。


「アイツいつもあんな事言わねえのに…今日に限ってなんだよ…」


 調子が狂うな…と頬を掻き微苦笑を浮かべる黒部。


 黒部は何だかんだで桃香の事は嫌いじゃなかった。寧ろ一緒にいて安心する程彼女を信頼しているのである。


「さて、俺もちょっと急ぐか」


 ふぅ、と小さく息を吐くと再び教室へ向かい歩き出す。

 この時、黒部は知る由もなかった。ここから人生は狂い、第二の人生へ向かう歯車が回り出している事に。

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