もしも転生者が悪役令嬢の婚約破棄に巻き込まれたら ― 皇子がバカすぎて追放されねぇ~
玄野ぐらふ
第1話 謁見の間で跪くチート転生者
「知らない床だ……」
なんで俺は跪いて床を見ているんだろう……。
うっ、頭が痛い……目が回る……くそっ!
俺は
どうなってるんだ? 俺は〈魔王討伐オンライン〉というVRMMORPGをやってただけなのに……。
そうだ、俺は知っている。
ちゃんと理解している。
ここは異世界。
地球とは異なるこの世界で、俺はベルガー伯爵家の三男として生まれ育ち12歳になったばかりだ。
ゆっくりと頭を上げてみると、目の前の壇上には豪華な玉座があった。
そうだ、俺は今、帝城の謁見の間にいる。
「ルーク・フォン・ベルガー! 皇帝が参られるまで頭を下げておれ!」
「も、申し訳ございません!」
壇上から俺を怒鳴ったのは宰相のボドワンだ。
細身で白髪の紳士といった印象だ。
「ルークさん、どうかしたのですか?」
俺の左隣で跪く少女……公爵令嬢のリディア・フォン・ブリュネだ。
金髪碧眼の美少女で、確か14歳だったと思う。
「大丈夫ですリディア様。少し
「それならいいのだけど、顔色が悪いですわね……」
いや、あんたもだろう。
血の気が引いて青い顔をしているのに、俺のことも心配してくれるのか……なんていい娘なんだ。
そう、俺はとてもまずい状況にある。
リディア嬢や俺は表彰される為に謁見の間にいるのではない。じつはその全く逆で、なにかの罪で弾劾されるためにここにいるらしいのだ。
12歳になったばかりの俺を何の罪に問おうというのか? 全く意味が分からない。
日本だったら小学校六年生だぞ……。
これから何が始まるのかわからないが、この世界が俺の想像どおりの異世界ならば、自分のステータスを確認しておくのが定石だろう。
ルークのステータスは平凡なものだったが、覚醒したいまは違う気がする。
『オープン・ステータス』俺は心の中で唱えた。
目の前にステータス・ウィンドウが開いた。思ったとおり、この世界は〈魔王討伐オンライン〉に酷似している。
「うっ! まじかよっ!」
「ルーク!」
また宰相に怒られた。
周囲から笑い声が聞こえるが、そんな事はどうでもいい。
とにかく〈魔王討伐オンライン〉のステータスを引き継いだ自分のチート・ステータスには驚くばかりだ。
自分が知っているこの世界のステータスは……例えばA級の人外と言われる冒険者のレベルは100に達する。更にその上のS級のレベルが150以上、伝説の勇者のレベルは200を超えるらしい。
俺のレベルはというと……9,999だ。
ひょっとして、俺ってこの世界で最強じゃないのか?
人間であることも疑わしいレベルだぞ。
このレベルなら魔王とか邪神を余裕で倒せるよな?
「ルークさん、何をニヤニヤしてるのですか? 気持ち悪いですわよ」
リディア嬢が俺に顔を近づけて、小声で話しかけてきた。
このような少女にドキッとしたのは秘密だ。
「もともと気持ち悪い顔なんです。ほっといてください」
「それ以上に気持ち悪いと言っているのですわ。何を考えているのですか?」
「ちょっと、いい事がありました」
「こんな時に浮かれたことを考えているなんて、ルークさんは度胸が据わってますのね……それともバカなのですか?」
前言撤回。
この子は悪役公爵令嬢に違いない……。
「もちろんバカの方です、リディア様」
「ふ~ん、まあいいわ。そのいい事をいま訊いてもいいかしら?」
「いいですけど、誰にも言わないと約束できますか?」
「いいですわよ。あなたとわたくしの秘密です」
「じつはですね……ぼくは少し神に近づいたかもしれません」
「……もういいです。バカなのはわたくしも同じでした。勝手にニヤついていてくださいな」
「本当のことを言ったのに……」
せっかく美少女と秘密を共有できると思ったのに残念だ。
もっとも、俺のステータスをリディア嬢に話す時間はなさそうだし、話すわけにはいかないだろう。
そして俺たちの後ろから車椅子に乗った少女が従者に押されて来てリディア嬢の横に並んだ。
この位置からはよく見えないが、彼女は頭と左腕に包帯を巻いている。両足も怪我をしているようだ。ひょっとしたら骨折しているのかもしれない。
この少女は誰だったか? 知らん……。
この時、リディア嬢の美しい顔が一瞬歪んだ気がしたが、見なかったことにする。
「シャリエ伯爵令嬢のエレミーさんですわ」
リディア嬢が気を利かせて教えてくれた。
「ありがとうございます、リディア様」
シャリエ伯爵というと、確か辺境の田舎貴族だったと思う。
俺の親父と同じ伯爵なので噂はよく聞くが、悪い噂ばかりだ。
北方山脈の鉱脈が枯れかけており、最近は資金繰りに困っているらしい。
そして壇上にはひとりの男性が宰相の横に進み出た。玉座と同じ壇上に立っているので、俺たちを見下ろす構図になっている。
その人物はルークの記憶によると、第三王子のジェレミーだ。やはり、何かのパーティーで拝謁したことがある。
皇帝陛下にあまり似ていないがイケメンで、年齢は確か17歳くらいだったと思う。
そう言えば、ジェレミー殿下はリディア嬢の婚約者だったはずだ……。
「ルークさん、あの少女を見てくださいな」
リディア嬢の大きな瞳が、ある少女を捕らえていた。
年齢は俺と同じくらいだから12歳くらいだ。法衣を着ているので教会の関係者だろう。
「あれは聖女様です」
「えっ、なんで聖女様がここに?」
アンネリーゼ様……ロマリア神聖国の聖女だ。
自分のチート・ステータスを知った後だと、あまり会いたくない相手だ。なんとなく自分の能力がバレてしまうような気がする。
「わたくし達とは関係ないと思うのですが……」
「そうですね。不思議です……迷惑です」
「皇帝陛下のおなりである!」
ざわついていた周囲が凍りついたように静まる。
顔を上げられないので見ることはできないが、気配からすると皇帝と皇后だけでなく数人が従っているようだ。
そして皇帝が玉座に座った音がした。
「二人とも立ち上がってよろしい」
これは宰相の声だ。
リディア嬢と俺はゆっくりと立ち上がると、そこには四〇代の威厳あふれる男性が玉座に鎮座していた。
「リディア、ルーク、そしてエレミーよ。久しいな」
皇帝陛下にしては軽い口調だ。これから俺たちの吊し上げが始まる気が微塵も感じない。
因みに、皇帝陛下と俺は父親のベルガー伯爵が開いたパーティーで面識がある。
「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じます」
リディア嬢は完璧な
「皇帝陛下、ご健勝のこととお
俺のは年賀状の挨拶みたいになってしまった。
畏まった挨拶は苦手なんだよ。
「そんなに堅くならなくても良い。何もとって喰おうというわけではないからな」
「はい、畏まりました」
リディア嬢の頑なな態度に皇帝は苦笑いをしている。
とにかく、何が何だか分からないので、静観するしかないか……。
そしてエレミー嬢が挨拶をする。
「皇帝陛下、このような姿で参上したこと、誠に申し訳ございません」
皇帝は一言「構わん」とだけ答えた。
「エレミー嬢、体の方は大丈夫であるか?」これはボドワン宰相だ。
「宰相閣下、痛みは引いていますのご心配にはおよびません」
年齢はリディアと同じくらいに見えるが、舌足らずで甲高い声は幼さを感じる。俺の偏見かもしれないが、男に媚びるタイプかもしれない。
「それではボドワン宰相、あとは頼むぞ」
「お任せ下さい、皇帝陛下」
ボドワン宰相が手で合図すると、ジェレミー殿下が壇上の全面に進み出た。
いずれにせよ、これで役者が揃ったという訳か。
さて、どんな劇が演じられるのだろう。
鬼が出るか蛇が出るか――
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