第17話 愛に破れたら

Q 好きになるのはいつも同性でした。同性愛は一過性で、大人になれば治ると思っていましたが、成人して就職して、また女性を好きになりました。数年前に母を、昨年父を見送り、一人ぼっちになりました。

これまで何人か好きな人ができましたが、告白すらしたことがありません。五十を過ぎた誕生日を前に毎日欝々としています。今からでも光差すような思い出は作れるものでしょうか。


A トーマス・マンの「ベニスに死す」という小説をご存知でしょうか。主人公のアッシェンバッハは50代、初老の、功成り名遂げた大作家でした。充実した家庭生活を持ち、人生に疑問を抱いたこともありませんでした。


そんなある日、アッシェンバッハは一人の美少年に出会い、恋に落ちます。社会的に許されない恋。彼自身にも理解できない恋でした。告白することさえできず、彼は、ただ惨めに、少年をつけ回すことしかできません。


けれど、小説の最後、死に向かいながら、喜びと共に、彼は気づきます。結局は愛されなかった。けれども、誰かをこんなにも愛することができた、ということそのものが、その「光差すような思い出」こそが、自分の人生への最大の「贈り物」であったということに。

              (「誰にも相談できません」 高橋源一郎 より)


そもそも、どんなにすばらしくても愛は破れるのです。何もなくても、最愛の相手は年老い、いつかあなたを残して死んでしまう。

こんなに愛する事ができた、それこそが自分の人生最大の贈り物だと確信すること、それが愛の悩み解決の方法ではないでしょうか。

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