第16話 それでも死にたくなったら

辛くて辛くて死にたくてたまらないとき、この世のなごりにせめて美味しいもの食べてからにしよう。何、高価なものである必要はない。一杯の美味しいラーメンで十分だ。ビールと餃子をつけてじっくりと誰にも邪魔されずに一人で最後の食事も楽しもう。


それがすんだら帰宅する途中の道で綺麗な夕焼けを見てみたい。夕雲に照り映える夕焼けは本当に美しい。ドボルザークの「新世界」の曲が良く似合う。

ぜひともスマホで検索してYouTubeで聞きながらじっくりと最後の光景を完全に夕闇が染めるまであかずに鑑賞してほしい。


その後は自宅にもどり、たまたまやっていた懐かしい洋画を金曜ロードショーで見てみたらどうだろう。そんな時に限って「スタンドバイミー」や「ショーシャンクの空に」のような名作がかかるものです。

ぜひとも缶ビールかウィスキーで少しほろ酔いになりながらじっくりと鑑賞してほしい(下戸の方はクッキーをおともにコーヒーか紅茶で)。


感動で落涙は必死だ。ほんの少しだけ幸福感に包まれたなら、こんな気持ちのまま首吊りで排泄物を漏らして部屋を汚すのがためらわれる(首吊り自殺は確実に糞尿を垂れ流します)。

だから今日はやめにする。ベランダで干してあったお布団に入る。ほこほこふかふかと気持ちいい。久しぶりにぐっすりと何も考えずに熟睡した。


そのせいかずい分早く目が覚めた。何気なく早起きして新しいスニーカーを履いて外に出る。朝ぼらけの紫色の風景の中、朝露に湿った雑草の小路を歩く。


ふと光を感じる。山の中腹から朝日が昇ってくる。朝焼けは夕日とはまた別のみずみずしい美しさに満ち溢れている。

ここでスマホを出してカーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド」だ。これほど朝にふさわしい曲はない。


本日も過酷な一日が始まる。だが今日はやめておこう。昨日は充足し満足だった。だから今日はやめておこう。明日の事を思い悩むのは今日はやめておこう。

そして明日の事は明日また考えればいい。そうやって少しづつ先延ばししていけばいい。


ほんの少しの幸せにほんの少し生きていこうかと思い直す。その連続が人生ではないでしょうか。 


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