策士の喜び

  夫たち十人。


 蓮、光命、夕霧命、焉貴、月命、孔明、明引呼、貴増参、独健、張飛――は廊下にいつの間にか、それぞれの格好で佇み、子供たちの頼もしい背中を、一人一人の父性で優しく見送っていた。


 ――父として、子供の気持ちに応えた、隠れんぼだった。


 小さな人たちが全員いなくなったところで、月命は振り返り、紺の長い髪と冷静な水色の瞳を持つ夫に、ニコニコの笑みを向けた。


「それでは、今日は光をみんなで囲みましょうか〜?」


 今夜は九対一。


 光命の神経質な指先は、悪戯っぽく紺の髪を巻きつけては、離してスルスルと落とす弄びをする。


「なぜ、そちらになるのですか?」

「おや〜? とぼけても無駄ですよ〜」


 全員の視線が集中する。


 何の見返りもいらない。ただ、他の人が幸せになってほしかった。ただそれだけ。


 こうなることはわかっていた。言えば、少なからず情報は漏洩する。自分が仕向けたのだと、気づかれる可能性が非常に高い。


 だがそれよりも、みんなが幸せな気持ちになることが優先順位が高かった。夫たちだけではなく、妻も子供も、みんな。


 父として、夫として、男として。今ここに、こうやっていれることが、自分には何よりの幸せだ。


 どこまでも中途半端で、自身の家庭など持てないと、一年前までは思っていた。だがそれは、こんなにも大きな幸福となって、返ってくる前触れだったのだ。過ぎ去ってみれば。


 今も鮮やかに、あの悩み苦しんだ日々が脳裏に浮かび上がって、目の前にある幸せが傷跡に強くしみて、遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声は、少し震え気味になり、


「……ありがとうございます」


 神経質な頬に一筋の涙がこぼれ落ちていった――――

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