旦那たちの愛を見届けろ/12

 地べたに座って、パンツまで見せて、大騒ぎしているバカな妻。潔癖症の蓮は鼻でバカにしたように笑って、冷ややかなスミレ色の瞳を降り注がせた。


「ふんっ! 美的センスのかけらもないな。お前のそのなりによく似合っている」


 月命はこめかみに人差し指を突き立て、


 十七時四分十二秒。あと、十九分三秒――。


「おや〜? 欲求不満ですか〜?」


 妻の今の原動力を口にした。颯茄がどんな言動を取ろうとも、貴増参には驚きではなく、にっこり微笑んだ。


「言葉に全て出ちゃってます。可愛い人です」


 踊り続けている颯茄の正面に、ピンヒールは瞬間移動でやってきた。


「僕たちがそんなに欲しいんですか〜?」

「はっ!」


 やっと我に返った颯茄の前には、素晴らしい眺めが広がっていた。白いチャイナドレスのスカートの丈が、頭よりかなり高い位置にあったのである。


 現実の方が、妄想よりももっと魅惑的だった。気まずそうに咳払いをし、妻は心の底から謝罪した。


「あぁ、すみません。勝手に想像して……」

「差し上げましょうか〜?」


 この狂気でサディスティックな夫ときたら、女装して、妻を誘惑するのである。今は完全に見えていた。ピンクの薄い布地をつけた、あの膨らみが。


 颯茄は目を見開き、


「本当ですかっ!?」


 スカートの中を指差して、妻はとうとうやらかしてしまった。


「じゃあ、そのレースのパンツは私が脱がしますっ!!」


 孔明が触ったのだ。妻にも触らせろ、である。


 どんな風に引っかかりながら、姿を現すのだろうかと想像すると、颯茄は口をバカみたいに開けて、ガン見してしまうのであった。


 蓮は妻にさっと近づき、煩悩だらけの女の後頭部を、スパーンと力の限り引っ叩いた。


「っ!」

「痛っ!」


 颯茄は両手で頭を押さえ、苦痛で表情を歪める。貴増参はあごに手を当て、足を軽くクロスさせて、にっこり微笑むのだった――――


    *


 ベルベットのロングブーツは足早に水色の絨毯の上を歩いていた。窓から見上げた空は夕焼け色が今消えてゆくところだった。


「もう日が暮れる。そうなると、外にはいないよね」


 ふと立ち止まり、誰もいない廊下で颯茄は一人考える。


「家の中ってことになるよね。家の中で見つけてないところ、それでもって、見つかりづらいところ……?」


 指を唇に当てて、思考のポーズを取る。外は暗くなり視界が効かなくなってゆく。そこで、妻の頭の中でピカンと電球がついた。


「家の中で暗いところって言ったら、あそこだ!」


 善は急げ。瞬間移動ですうっと消え去った。



 一瞬ブラックアウトが起き、気がつくと、両開き大きな扉の前にいた。


「よしよし、ここだ。プラネタリウム」


 星を見るために、窓がほとんどない部屋。カーテンはいつも閉まっている。ここになら隠れていそうなのだ。


 ドアの取手を握って、妻は息を潜めた。


「そっとドアを開けて……」


 明るいところから暗いところへ行ったら起きる、目が慣れずに見えないが起こると思っていたが、目の前にはチカチカとした小さな輝きが頭上に突如広がった。


「この星は……」


 颯茄は隠れんぼは一旦忘れて、感慨深くため息をついた。


「うわ、やっぱり綺麗だ。贅沢だなあ。家にプラネタリウムがあるなんて」


 地球一個分もある家となると、様々な部屋があるものだ。颯茄はドアを開けたまま目を凝らす。


「映写機が動いているってことは、誰かがいるってことだよね」


 彼女は後ろ手で扉を閉めた。


「座席がいっぱいあって見つけるの大変だけど、ひとつずつ探そう」


 頭上は微かな明かりがあるが、足元は黒い霧に煙ったように見えない。それでも、颯茄は進んで行こうとしたが、


「どこに……痛っ!」


 足を引っ掛けて、倒れそうになった。


「うわっ!」


 誰かがスッと横から飛び出してくる。


「危ないっす!」

「あぁ、ありがとうございます」


 颯茄はその人の腕の中で、嫌な汗を拭った。


「暗いから気をつけないといけないっす」


 今の声をふと思い出して、鬼の彼女は、


「っていうか、張飛さん、見つけました」


 星明かりに照らされた金の髪と人懐っこそうな天色の瞳が現れた。


「作戦だったんすか?」

 張飛は颯茄を立たせながら聞いた。妻は首を横に振る。


「違います。たまたまそうなったんす」


 通路を挟んで、妻は夫の隣に座った。


「どうしてこの場所を選んだんですか?」

「時々、家族で流星群を見るっすよ。それを見ようと思ってきたっすけど……」


 張飛は少し困ったように言葉を止めた。


「どうかしたんですか?」

我論うぃろーじゃないと、操作がわからないみたいっす」


「ふふっ」と幸せそうに颯茄は笑い、後を続けた。「そうですね。これは我論のもののようなもんですからね」


 このプラネタリウムは我論の天体観測のために作ったもので、彼は毎日ここへきては星の観測をしている。時々、友達を呼んでは、プラネタリウム鑑賞会などもしているような子だ。大人でもわからない捜査の仕方は覚えているというものだ。


 流れ星が流れ始め、光の雨が降り注ぐ。しばらく黙って見ていたが、妻はまたピンとひらめいた。


「あ、そうだ!」

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