第一話 兆し
元貫三年 九月十六日 秋
「暇だな。オイ」
着膨れする古い防護服のポケットからタバコを取り出し申し訳程度の効果しか無さそうなマスクを下に晒しながらタバコを咥え火を着ける。
ボロボロのベンチに座り口から煙を吐き出し空を見る。
まだ夕方になったばかりだと言うのに、そこに在るのは塗り潰したかの様な黒だった。
「味気ねぇ色してんなぁ。オイ。」
空位もうちょっとマシな色してると良いのにと思う。
直ぐ近くから走る音が聞こえる。
少し暗い赤髪のショートカットの女と大柄な体格の男が現れ
「あっ居たよ。おーい!!」
「十五。テメエまたサボりかよ。働けっての!!」
「うっせえなぁ。俺の分はもう終わってるつの。」
十五は足元にあるゴミ箱の山を蹴飛ばして、同僚に悪態をつく。
赤髪の女は少し口を尖らさせながら
「十五ちゃんは終わったかもしれないけど、まだこの区画終わって無いでしょ?少しは手伝ってよぅ。」
「面倒いなぁ。オイ。後何体あんだよ? 俺はもう7体は片し終わってんだぞ!! お前ら何体終わってんのよ?」
大柄な男が紙の束を見ながら十五に話かける。
「ヒナと俺で5体って所だな。 折坂さん達はもうノルマ終わってるってよ。 目標数まで後3体だな。」
「テツ君よう。そんだけなら二人でやんなよ。」
「早く片してご飯食べに行こぅ。」
「ヒナ。話聞けよ。オイ。」
「えー良いじゃん!!十五ちゃんって仕事早いしさぁ。 三人でやればすぐ終わるって。」
「はあぁぁーあ。わーったよ。話聞かねえし、やれば良いんだろ?」
ヒナは少し大袈裟に手振りで、十五をみて
「わあ!!ありがとぅ。だから十五ちゃんって大好きよぅ。」
「悪りぃな。十五。 折原さん達には連絡しといたから、コレ終わったらそのままギルド行って金受け取ったら帰って良いって事だからさ。 そのまま飯行こうぜ。」
「へぇへぇ。了解。んだけど血なまぐせぇから先シャワーな。」
そう言って、十五はボロベンチから立ち上がり、置いてあった荷車に箱を積み始めた。
コレが俺、白波江十五の日常。
いつも通りの仕事と、いつも通りの仲間との会話。
たわいも無い生活のたわいも無い日常。
此処は世界のハズレ場所。[非ノ元]って呼ばれる国。
んで俺が住んでる所が[無五野]そしてその中の小汚ねぇフェンスに囲まれた[甲楽町]って町。
俺の周りは誰も言わないけど、ヒデェ名前だな。
つーか皆、字とか分かん無いだっけか?
俺だけが、?してるのは、何でだろうっていつも思うけど、まぁ面倒だからいいか。
仕事はゴミ掃除。ゴミつっても死体回収。犬やら猫とかの動物から、まぁ人間まで。
この世界じゃ命ってのは一部を除いて全く価値が無い。
かと言って此処に住んでる、俺たち「定重民」にはどうでも良い事みたいだ。
俺みたいに疑問を持つ事自体が不思議ちゃんがられる素敵な場所だ、、、、、、、。
あーごめん。クソッタレな場所だな。
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ギルドの受付カウンター越しに十五は唸った。
「オオゥ。今日の金こんだけ?マジで?」
「そうね。何か不服?」
「イヤイヤ、今日日4700鉄って少な過ぎでしょ?昨日まで9200鉄だったじゃん。なんでよ?」
渡された封筒の中に今日の仕事の明細が入っていた。
そこには文字の羅列があり最後には4700鉄と書いてあり、お疲れ様でしたとも書いてある。
「悪いわね。昨日アナタ達が帰ってから、処理場の第一から第四主任が闘争熱に発症してね。処理場の労働者、近隣住人含めて五十四人が死んだわ。それで処理場はロックダウン。
今日の朝から死体の処理追っ付かなくて、自治体から回収より処理の方にお金を回せとの通達よ。
なんなら十五君達、処理場の方に回す?」
「えぇ、私、処理場は嫌よぅ。」
「俺もパスだな。」
「でしょうね。十五君は? どうする。」
「今の相場いくらよ?」
「1日2巻4000鉄って所ね。」
「パスで。」
「そうよね。それぽっちで死ぬ確率上げるのは、私もどうかと思うわ。」
十五は観念した風に話かける。
「はぁ。しゃーないか。バエナさん、それでいいわ。なんか他にマシな仕事有ったら斡旋してくれよ。」
「了解よ。まぁ十五君達もそうだし、折坂さんのグループの人達は割とマトモだからね。何か有ったら教えるわ。
それに連絡も無しでお金減らされるのも可哀想だし、少しだけ色付けといてあげるわ。」
三人は手渡しで少し汚れた封筒を渡され、中を確認する。
そこには紙が入っており、給金2000鉄と書いてあった。
「マジで?流石バエナさん!!美人だけじゃなくて話が判る。」
俺はカウンターの越しにバエナさんの頬にキスをする。
「ちょっ!!ちょっと十五くん? やめなさい。他の人も見てるし、、、、、。」
「イヤイヤ、本当感謝してる!!今度の休みに飯でもどう?」
「えっ? そうね、、、、、。いいわ「むぅ!!十五ちゃん、もう行こう。 バエナさんありがとぅ。じゃね。」
いきなりヒナが俺の足を踏んでから俺を引きずり始める。
「痛ぇ。っとオイ!!ちょっと待てって引っ張んなよ。まだバエナさんと話終わってねぇって。」
十五が引きずって行かれるのを見てテツは、はぁと溜息を漏らし、バエナに話かける。
「じゃあバエナさん俺達はシャワー浴びて失礼します。給金の件ありがとうございました。それでは。」
「あっテツ君。最近この周辺区画でも、闘争熱に発症する人が増えてるみたい。少しおかしいと思うから気を付けて。」
「はぁ。そうですか。おかしいって言うのは?」
「そうね。月に三、四十人位の発症だったのが、今月はもう二百人を超えてるそうよ。希穣民の方々も調べに入られるようよ。」
「えっ本当ですか?そんな話は折坂さんからも聞いて無いですね。」
「ええ。まだ労働者迄は降りて来て無い話みたいよ。なんでも、、、、」
「おーい。テツ君まだぁ?早くぅ。」
「あっと。すみません。もう行きます。また明日の朝でも詳しく教えて下さい。それでは。」
テツは小走りで二人を追いかけて行く。
それを確認したバエナが「本当に何事も無ければ良いけど。」と呟きながら、机の上の紙に視線を落とし仕事に戻っていく。
ギルドでシャワーを浴び終え着替えた三人はガヤガヤと賑わいを見せる市場に向かって歩いている。
「ねぇねぇ、何処いくのぉ?」
「あ?いつもの[案楽亭]でいいだろ? テツもそれで良いだろ?」
「金が無さ過ぎてソコしか選択肢ねーよ。」
三人は話ながら通路を歩いて行く。この先に抜ければ薄汚れてはいても、人の活気が在る商店が並ぶ区画に着くはずだった。
「なぁ。なんかおかしくないか? さっきから今までで誰一人にも会って無いし、全く人の気配がしないんだが、、、」
テツは立ち止まり辺りを見回しながら二人に確認する。
「そう言われてみたら、ここまで来て誰にも会わないってちょっとおかしくかなぁ?」
「さっきバエナさんから聞いた騒動でどいつもこいつも、寝ぐらに篭ってんだろ? とりあえず行こうぜ? オイ。」
十五はさして気にした様子も無く歩いていく。
しかしその先にある建物や灯りが全く見えてこない事に多少の不安を覚えていた。
そして歩く事、5分程して三人は気付いた。
「なんだ、、、。おかしいだろ?何だよコレ?」
そこには地形ごと抉り取られた様な空間が広がっていた。
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