第8話 また一つ女の方が偉く思えて来た

 この章は男と女の精神的成長の格差を物語る。

 俗に男はいつまで経っても子供と言われるが、やはり、そうであると思う。

 逆に同性である男を敢えて庇うならば、それだけ男は純粋であると思う。

 そう願いたい。

 

 この章は極端な事例ではあるが、自己中心的な女性『平山芳子』とそれに翻弄された不器用な鈍臭い男『矢澤剛志』の物語である。


 剛志は芳子から高1の時、バレンタインデーでチョコレートを貰ったが、それは、芳子の本命である『黒石敬人』の保険であった。

 

 そんなことはつゆ知らず、中学の時から好きであった芳子からチョコレートを貰った剛志は舞い上がってしまった。


 この時、剛志は冷静になって居ればよかったのだが…

 実際、日本型バレンタイン方式は女性から男性への愛の告白であるが、芳子は剛志にチョコレートを渡しただけであり、何も告白はしていなかった。さらに、愛の告白を内容とした手紙等も何も付けていなかった。

 剛志は意中の人からチョコを貰ったことで舞い上がってしまっており、それ自体に何も意味がないことに全く気付いてなかったのだ。


 一方、芳子の本名は敬人であり、誰から見てもお似合いであった。また、2人は同級生であり、日頃から十分なコミニケーションが取れており、芳子は毎日、敬人の部活の練習を見に行くなど、カップルになるのは側から見ても時間の問題と思えていた。


 ただ、敬人は非常に女子から人気があり、また、実直で簡単な遊びの付き合いを嫌っていたため、芳子にとって必ずしも安全牌ではなかった。


 その当時、やはり、この点は現代と同じで、高校生の女子にとって彼氏が居ないことはトレンドから外れることであり、好きだから、愛情があるから付き合うのではなく、取り敢えず、付き合ってみて、相性が良ければ、それを継続するといったものであった。勿論、意中の人に告白してそれが叶えば最高の結果であることは相違ないが…


 芳子が剛志に保険を掛けたことは非情なことではなかった。

 なぜならば、告白はしておらず、手紙も入れてなかった。

 それを勘違いした剛志も、よく言えば純粋、悪く言えば、鈍臭いということになる。


 ただ、知らぬが仏、馬の耳に念仏、青天の霹靂、剛志にとって結果は重く心にのし掛かった。


 バレンタインの次の日、意気揚々と学校に行き、クラスで芳子からバレンタインを貰ったと皆に自慢していた剛志であったが、現実的には「義理チョコ」であり、敬人は芳子の愛の告白を受け入れ、相思相愛のカップルが既に誕生していたのだ。


 あまりに無下に感じた剛志の友人が、それは義理チョコで本名は敬人であると説明するが、男はこの点、女に比べて子供であり、痛い目に遭うまで気付こうとしない。

 剛志も薄々、そうであると思いながらも、事実、手渡しで貰ったことから深く考えることはなかった。

 その当時は、今に比べて、義理チョコの意味が明確ではなかったことも起因している。


 惨めであった。矢澤剛志は、余りも惨めであった。

 喜び勇んだその日、敬人と芳子はクラス全員の前でカップルになったことを宣言し、手も繋いで仲良く下校するのであった。


 剛志の友達は、未だに芳子と恋人になったと勘違いしている剛志に対して、掛ける言葉も見つからなかった。


 剛志がやっと気づいたのは、その1週間後の体育の時間であった。

 剛志のクラスが柔道の授業を受けている時であった。


 体育館の2階の隅でイチャイチャしている敬人と芳子の姿が見えた。

 2人はクラブ活動の時間で写真撮影を行っていた。

 敬人の腕は芳子の腰を抱き寄せ、芳子もニコニコ笑いながら、汗臭い芋どもの柔道の風景を写真に収めていた。


 剛志は敢えて見て見ないふりをしたが、その足はブルブルと震えており、周りの友達も流石に上から見下ろすような2人に対して、ゴメンのポーズをして、この風景は撮らないよう下から頼んでくれた。


 勝組と負け犬である。

 見下ろす者と見下される者である。


 判官贔屓に書き綴ったが、敬人も芳子はそんなに悪い事はしていない。

 ただ、芳子は何らかの方法で剛志に敬人と付き合うことになった旨を報告する方がベターではあったが、義理を本気にした男に、わざわざ、説明する奇特な女性は今も昔も居ないのが常識である。


 この物語は極端な事例ではあるが、どうしても、男より女の方が偉く、賢いのは否めない。

 それはアダムとイブでお分かりのはずである。

 人の良いのはアダム、男なのである。


 神の創造である。


 仕方のない事である。

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