初夏の夜

031話ヨシ! エロガキ再来

街の夜中に、シュパン、シュパン、シュパンッと、空中を飛び回る影。



── 何だあれは!?

鳥か!?

飛行機か!?

いや、違うっ

スーパーオーラソルジャーZ・アット君だ!



(── そんな感じで、いま夜空を見上げたヤツは、超おどろくよな……っ)



俺は、思わず口元をニヤケさせる。


季節はもう夏の手前だ。


夜の就寝前に 『15番街』 を飛び回り始めて、はやくも3ヶ月。

空中移動の技術は、メキメキと上達している。


今となっては、

『壁走りとういうか、ニンジャ走りって、ちょと違うよな……』

『あんまり速度でないし……うん、微妙』

とか思ってた頃が懐かしい。


今の俺は、3階建ての屋上の高さを、ほぼ山なりのストレートに移動している。

流石に水平移動とまではいかないが、だいぶん理想に近い形だ。


壁を蹴る歩数も、2~3歩がせいぜい。

調子の良い時は、1歩だけで済んでいる。


どういう改良をしたのか、今から解説を交えて、やって見せよう。


オーラ伸縮技【鉤縄かぎなわ】で右籠手こてを斜め前へ伸ばす ──

屋上のへりつかんで、引き寄せる ──

壁を蹴って方向転換し ──



(── そしてここからが、3ヶ月の練習の成果っ)



この時にもう一度、右籠手こてを屋上のへりつかんだまま、勢いよく伸ばす!



(── これが新しいコツだっ!!)



ゴム状輝甲きこうの伸縮を、今までは 『引き寄せる』 事にしか使ってなかった。

それを、今は 『押し出す』 事にも使い始めた。


言ってしまえば、それだけの事なんだが、その効果は段違いだ。

失速しなくなった分、平均スピードが全然違う。

空中を滑るように移動できるようになった。


あの 『巨大な蛇首を持つ魔物ロングネック』 の動作を思い返した事が、改善の切っ掛けだ。


あの魔物は首を矢のように 『射出』 するように伸ばしていた。

そう、『推進力』 にしていたのだ。


俺は、それまで 『伸ばすして引っ張る』 事だけ考えていた。

それが 『縮めて押し出す』 事にも使えると気づいたんだ。


半熟輝甲は、ゴムと言うよりもバネに近い性質なのかもしれない。



(── つまりですよ。

 今の俺なら 『ゴム人間ヒーローの技ピストル・パンチ』 が出来ちゃうんだよなぁ)



今すぐ前世の世界に戻って、得意面ドヤがおブチかましたい!

Y●UTUBEとかに登録したら、すぐに動画再生1位をとれるぞ!



(魔法が使える系のユーチューバーとか新しいはず!

 そうなると、チャンネル名は 『移世界いせかいオッサン』 とかかな?)



……まあ、実際にやってみた結果、あまりに威力がなかったのでお蔵入りしているが。


薄い木板をハデにブチ破るつもりで発射したら、ゴムボールみたいに跳ね返ってきた。

いくらなんでも 『ポコンッ』 ってのは無いだろ、『ポコンッ』 って音は。

意地になって何回もやったが、それでもムリそうと気づいた時は、流石にちょっと涙目になった。


どうもオーラ自体には重さがないため、武器として使うのは不向きらしい。

例えるなら、『ピンポン球を勢いよく投げつけても、あんまり痛くない』 という事だ。


今後、オーラを飛ばす方法を見付けたとしても、『カ●ハメ波』 や 『ギャ●ック砲』 みたいな技はムリだと判明した訳だ。

正確にはムリというより、ほぼノーダメージの虚仮こけおどし技。



── 本当に、Y●UTUBEで再生回数をかせぐくらいしか、使い道がなさそうだ。



(あらためて考えると、やっぱり泣きそう。

 エネルギー波攻撃と攻撃魔法は少年の憧れなんですけどぉっ

 一体、どうなっているんですか、転生神かみさまぁ!?)



なんでこんな酷い事すんの!

マジでド●ゴン●ールな世界の可能性がゼロじゃん!

もうこれ完全にARMSアー●ズ(腕が伸びるマンガ!)の方で頑張るしかないじゃん!


これで『神剣フラなんとか』とか『ミスなんとかの槍』とか『ブリュなんとかの槍』とか、そういうカッコイイ技が全滅だったら、俺本気で泣くからな!


おい紀伊店きいてんのか、転生神かみさまぁ!?



── そんな事ばかり考えていたせいだろう。

俺は、自分に接近してくる影に、まるで気づいていなかった。





▲ ▽ ▲ ▽



何だか、急に視界が回転した。

夜の街を見ながら飛び回っていたハズなのに、一瞬夜空が視界を横切り、再び地上が迫ってくる。



(ヤバいっ 体勢が崩れたのか!?)



と内心舌打ち。

だが、俺には頼れる最強能力チートがある。



(── 【瞬瞳】しゅんどう、発動っ)



スローになった視界で、落ち着いて自分の体勢を確認。

次に、左手の【鉤縄かぎなわ】を伸ばして床面(たぶん民家の平屋根)にぶつける。

その反発で、身体の回転と、屋根に打ち付けられる勢いを軽減する。


瞬間的に体勢を整えた俺が、ひざをついてブレーキをかけた体勢で着地(着屋根?)する。


すると、いつの間にか黒い影が横に立っていた。



「はぁ……また貴男あなたですか。

 ひと騒がせな……」



なにやら、聞き覚えのある女の子の声だった。

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