019話ヨシ! お客様の中に兄より優れた弟さんはいらっしゃいませんか?

「なんか……

 蒸気機関車と戦車がアクマ合体したようなデザインだな……」



『特帯』と呼ばれる乗り物を最初に見た時の、俺の感想だ。


汽車SLみたいな丸い胴体の下に、3分割のキャタピラが付いている。

さらに車体後部には連結器があり、乗客車両や輸送車両が3台牽引けんいんされている。



(鉄道レールも無い世界で、よくもまあ、こんな物を作ろうと思ったな……)



キャタピラとはつまり、悪路を走破するための駆動系。

進行方向に軌条レールなんて無いし、踏み固められただけのわだちの残る未舗装道路が広がるだけ。



(いや、もしかしたら、都市内には鉄道があるのかな?

 見たことないけど。

 それにしても、蒸気機関をこうまでして走らせようという執念がすげえ……)



もうちょっとガンバって、化石燃料のエンジンとか、モーター駆動とか、誰か作らなかったのか。



(そう言えば、家の照明とか外灯とか、蝋燭か、オイル式のランタンだったけ……)



俺は思い出して、納得のため息。

まだまだ、電気の発明に至ってないのだろう。


俺は、朝日と共に出発しようと、黒煙を上げる蒸気機関の乗り物に、呆れるやら感心するやら(本日2回目)。



そして。

誰も、不吉な影の群には、まだ気づいてもなかった。





▲ ▽ ▲ ▽



遠くの山脈の尾根から、朝日が完全に顔を出した。


それに合わせてついに動き始めた、ヘンタイ合体SL戦車・特帯。

実質SLだけあって、シュポシュポいっている。


その客車の乗口から、親元から旅立つ10歳の子供達が、名残惜しげに手を振っていた。


見送る側も、それに応えるのに集中している。

涙を流して送り出す家族の一行も少なくない。


だから、誰も気づかなかった。


黒い影が、下まで滑空してくるまで。



── ヒュン、と黒い影が横切った。



「なんだ?」

「鳥か?」

「コウモリか?」



そんなざわめきの中、『先ほどの台詞』が響く。



「うぅん……

 アレって、その……ヤバくないか?」



少し、視線を上げると、黒い影がピラミッドを作るように空中を飛び回っている。

その黒い群れは、どんどん下降を始め、客車から身を乗り出した子供達に、襲いかかった。



「ひ、飛猿魔ひえんまだ!」

「早く中に入れ! 早くっ」

「なんで、こんなにトロトロしてるんだ! はやく特帯を走らせろっt」

「どうか振り切って逃げてくれっ」



見送る大人達は、絶望の表情を浮かべる。

すでに乗り物は、1km近く進んでいる。

スピードも馬車並みに上がってきている。

もう走って追いかけられる状況でもない。


大人達は、空飛ぶ魔物に気づかず無防備に身をさらす子供へ、身振り手振りで注意を促す。

だが、悪い事に、丁度、乗り物は遠く離れて声が届かず、しかも蒸気機関の騒音で大抵の声がかき消される状況だ。


そうこうしている内に、子供がひとり、空飛ぶ魔物に攫われ、宙高くへ持ち上げられた。


俺の隣で、ママが驚いたように息を呑む。



「……今の、まさかシェッタ!?」


「まあ、バルシェッタが!

 リジー、本当かいっ?」


「わからないっ

 わからないけど……今の子、男の子みたいだったのっ

 どうしよう、母さんっ!」


「あぁ……なんて事なの……っ」



震えるママを、お婆ちゃんが抱きしめた。



「……え?

 もしかして……お兄ちゃん、死んじゃう?」



俺が、現実感のない気分でつぶやく。

すると、ママとお婆ちゃんはすぐにひざまずいて祈り始めた。



「……っ!

 神様、どうか息子をお守り下さい……っ」


「ああ、神様っ

 この老いぼれから孫をうばわないでくださいっ」




俺は、それを見た瞬間、カッとなった。



(── 今そんな事をしている場合じゃねえだろ……!?)



そう、怒りに駆られ、すぐに冷静になる。

いや、そもそも祈るしかないのだ。

輝士でもなんでもない、普通の人間の、祖母や母は。


頼りになるはずの我が家のヒーロー、熟練の輝士である父は、昨夜から勤務で帰ってきていない。



(だが、俺なら……?)



オーラは、扱える。

だから、きっと輝士の才能もある。

自己流を1年くらいだが、特訓もしてきた。

つい最近、やっと輝甲だって出来るようになった。



(俺が、やるしかねえ……っ)



そうと決めたら、即行動。


それが、俺の数少ない長所だった。

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