異能戦線

Joker

三年

第1話

 三月の終わりだった。

 幼馴染の高堂舞(たかどう まい)と俺は高校の合格発表を見た後、二人で家に帰っていた。


「はぁ……マジでよかった、番号あって……」


「はいはい、何回目よそれ……でもこれで無事同じ学校にいけるわね」


「あぁ、受験勉強頑張ったかいあったよぉ~」


 受験の成功を喜びながら俺、与那城水面(よなしろ みなも)は舞と一緒に家に帰る途中だった。

 

「それにしても寒いなぁ……さっさと帰ろうぜ」


「それもそうね そう言えば知ってる? この近くの公園が氷漬けにされる事件があったって」


「なんだそれ? 氷結系の能力で凍らせたのか?」


「そうじゃない? 今の時期は多いわよね、氷結系能力者の事件」


 異能の力。

 それは40年も前に人間に突然起こった進化だったと誰かが言っていた。

 手から炎を出す者、口から雷を出す者、まだまだ解明されていることは少ないが異能の力は俺たちの直ぐ近くにある。

 そして、その力は人間に新たな喜びと恐怖をもたらした。


「異能犯罪って年々増えてるらしいな、気を付けないと俺たちも氷漬けにされそうだ」


「バカね、あんたを氷漬けにして誰に何の得があるのよ」


「まぁ、それもそうだけど……でも無差別に凍らせてたらその可能性はあるだろ? その時はお前の炎でなんとかしてくれ」


 舞は炎を操る異能を持っていた。

 昔から手から火を出してはお母さんに危ないと怒られていた。

 まぁ、でも中学に上がってからはむやみに炎を出さなくなった。

 

「お前、良いのか? 本当に清衆院じゃなくて普通の学校で」


「良いのよ、能力者を育成する学校に行って、政府の異能対策課で働くなんて御免よ」


 清衆院学園は異能者を育成する学校だ。

 普通の学校とは違い、異能者の能力の向上を目的としている。

 それというのも、異能を使ったスポーツや競技なんかが増えたというのもあるが、一番は異能を使った犯罪の抑止力になる人材を育成するためだと言われている。


「でも清衆院はかなりのエリート校だし、将来だって安泰だろ?」


「良いでしょ、もう終わったことなんだから……それに私は……」


 舞はそう言いながら俺の顔をチラチラ見る。

 

「な、なんだよ……」


「別に……なんでもないわよ」


 そうは言っていたが、俺は舞が何を言いたいのかわかっていた。

 長い付き合いで俺も流石に気が付いている。

 舞は俺と一緒に居たいとそう言いたかったのだろう。

 こいつが俺に惚れてることは中三の夏ごろから知っていた。

 そして、恐らくだが俺が舞を好きな事も舞自身知っている。


「ねぇ……そう言えばいつになったら話すのよ」


「え? あぁ……そ、そうだな」


「合格したら話があるって言ったのはあんたでしょ? なんのためにお母さん誤魔化してアンタと一緒に帰ってると思ってんのよ」


「あ、あぁ……そうだな」


 告白は受験が終わってからと決めていた。

 舞と出会ってもう十年以上……俺の舞への思いは変わらなかった。

 だから、受験に成功したら言おうと決めていた。

 そして、舞も何となく俺が何を言おうとしているのか察しているのだろう。

 顔を赤く染め、舞は俺の正面に立ち俺の言葉を待っていた。


「舞……」


「何よ……」


「俺はお前が……す……す……」


「………」


 俺が重要な部分を言おうとしていると、舞の顔はどんどん真っ赤になっていった。

 

「す、す……!!」


「え……」


 ガキン! 

 俺が好きだと言おうとした瞬間、大きな音と共に俺の足は動かなくなった。


「え……な、なんだ?」


 足を見て俺は驚いた。

 俺の足は透明な氷によって氷漬けになっていた。

 

「きゃ、きゃぁぁぁぁ!!」


「な、なんだこれ!!」


 舞が叫び、俺が驚いていると白いローブでフードを深く被った人が舞の背後に突然現れた。


「……見つけた」


「な、なんなんだアンタ!!」


「え? だ、誰!?」


「探していた……ようやく見つけた……凍れ……その日が来るまで」


「な、何を言ってるんだあんた! これもアンタの仕業か!!」


 見るからにヤバイ奴だった。

 声の感じからして男には間違いない。

 逃げなければという考えが頭を横切るが、足が凍って身動きが取れない。

 そんな時だった、舞が両手から炎を出し俺の足の氷を解かそうとし始めた。


「お願い! 早く溶けて!!」


「舞、馬鹿! お前だけでも早く逃げろ!! こいつはヤバイ!!」


「嫌よ!! まだ……まだアンタから……何も聞いてない……」


 舞は涙を流しながら炎を燃やす。

 しかし、なぜか俺の足の氷は一切溶けない。

 そんなことはあり得ないはずなのに……。

 

「なんで! なんで溶けないのよ!!」


「舞! 後ろ!!」


「え……きゃっ!!」


「舞!!」


 白いローブの男は舞を突き飛ばし、俺に向かって右手の手のひらをかざす。

 

「ただの炎では私の氷を溶かすことは出来ない」


「な!! か、体が……どんどん……凍って………」


「眠れ……その力が目覚めるまで」


「水面!!」


 氷は俺の体を包むように凍っていった。

 どんどん意識は薄くなり、最後に見たのは舞が泣いている姿だった。

 俺……このまま死ぬのかな?

 あぁ……舞に好きだって言いたかったな……。

 あいつと恋人になって、高校生活を充実させるつもりだったのに……。

 なんでこんな事になっちまったんだろ。

 俺は眠りにつくように意識を失った。



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