春
慧
春の訪れ
桜が蕾から花へと成長をとげ、美しくも儚く散っていく季節となった。
僕を含め、人々は卒業という形で別れていき入学や入社などという形で出会っていく。新たな生活に心を躍らせ緊張し、各々がなんらかの気持ちや目的、考えを持って毎日を過ごす、そんな季節。
言葉では表現できない高揚感と憂鬱感が胸の中を駆け巡り心を乱す。我ながら矛盾しているなと感じる。毎年、このよくわからない現象に悩まされていて正直困っていた。しかし、解決策のないこの現象に僕はいつしか「きっと自分はどこかおかしいからなのだろう。」そう思うようにして考えるのを放棄した。
その日もそんな矛盾した気持ちのまま学校へ行った。始業式のためだった。
僕はこの春、高校2年生になる。クラス分けの表から自分の名前を探し出し、表記されている教室へ向かう。早くに来てしまったせいか、教室に向かう途中先生しか見なかった。「僕が一番乗りなんだ。」とよくわからない嬉しさが込み上げ、上機嫌のまま教室の前に着く。先程の嬉しい気持ちや緊張、これからの生活へのワクワク感や不安などたくさんの感情を少し抑え、教室のドアに手をかる。その時、中から歌声がしてくるのが聞こえた。「誰か先に来てるのかな。」と疑問に思い、ドアを開ける。するとそこには、窓から桜を眺め心地良さそうに歌う少女がいたのだった。
春の日差しのような温かみがあり、そよ風のような心地よさを持つ少女に歌声に僕はときめいた。ここにカメラやビデオがあったらどんなに良かったか。そう思うほどに少女自身も歌声も綺麗だったのだ。その一瞬の出来事が僕には永遠の時のように感じる出来事だった。
少女は僕が教室に入ってきたことに気づくと、僕の方を見てるで何もなかったかのように優しく「おはよう」といって笑った。少し驚きはしたが、すぐに「おはよう」とぎこちない笑顔とともに返す。少女は花のように微笑むと、先程のように桜に目を向け歌い始めた。
僕に春が訪れたのを感じた。
春 慧 @Sui_1052
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