フウリの羽
来星馬玲
序 籠の中の妖精
夜の暗闇に沈んだ一室。開け放されたカーテンの先の窓越しに観える夜景が、そこにいる者に許された唯一の自由と呼べるかもしれない。
窓から入ってくる月明かりが、籠の中を照らした。白色のドレスを羽織り、緑色の長髪の下で露わになっている背中から、薄く滑らかな透き通った羽を生やした妖精の姿が映し出された。
妖精は、自分に光を投げかける冷たい満月を、哀し気に見上げた。碧緑の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。暫しの間、救いを求めるような眼差しで満月を見つめていたが、やがて、視線は籠の底面へと伏せられた。
「お母さん……」
妖精が小さく呟いた。その声からは滑らかで優しい肌触りの風が紡ぎだされたが、締め切られた窓に遮断され、冷たい室内に溶け込んでいった。
妖精は眠りに就こうと幾度も目を閉じたが、結局寝付けなかった。諦めた様子で、また満月を見ようと顔を上げたが、月は雲に隠れて見えなくなっている。やがて、雨の雫の音がぽたぽたと外から響いてきた。
城の周囲の外気もまた、雨によって冷やされた空気に満たされている。
妖精が閉じ込められた一室の窓を見下ろせる中空で、一つのつむじ風が巻き起こった。その風は妖精のことが名残惜しいとでも言う様に暫くの間、空中を旋回していたが、そのうちに、大粒の雨の合間を縫うようにして、遠方へと飛び去って行った。
(フウリ……待っていてね。必ず、あなたを助けるから)
聞き取る者のいない声は、深い慈しみと強い決心を宿していた。
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