遺書(わたくしの遺書ではございません)

夜橋拳

遺書

 こんにちは。

 いかがお過ごしでしょうか、私のことを忘れてしまいましたか。

 もしも忘れているのでしたら今すぐそちらに行って私という存在をこれでもかと言うほどに叩き込んであげます。

 冗談です。ごめんなさい。

 でも私はきみのことを愛しています。

 いつも悪口しか言ってなかっかけど、私はきみのことが、きみという弟のことが大好きだったんです。

 まさか死んでしまうとは思いませんでした。

 車に轢かれてしまうとは思いませんでした。

 お盆くらいには会えるといいですね。


 お姉ちゃんより。


 *


 彼女が書き残したソレは遺書でもなんでもなかった。ただ結果として、彼女が生きていた気持ちを残したものがそれしかなかったので、それが遺書という扱いになっただけだ。

 ただ、素直になれなかった自分の気持ちを表しただけだった。

 これからは、弟の分まで辛い世の中を生き抜いていこうとそう決めていた。……のだが、彼女は八月辺りに病気で死んでしまう。

 元々彼女は病弱で、いつも寝た切りだった。限界を迎えたというだけだった。

 彼女としては非常に残念ではあるが、これでもよかったと思えた。なぜなら天国にいる弟に会えるからだ。

 彼女は無事天国へ行き、弟を探し回った。

 しかし、天国に弟はいなかった。

 なぜなら、弟の死因は自殺だからだ。

 弟は姉の看病に疲れてしまい、トラックに向かって体を投げた。

 その結果、自分を殺し、病気の姉を残して死んでしまったことが仇となり、地獄に落ちた。

 彼女はその事実に気付くことはなく、延々と天国をさまよい続ける。

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遺書(わたくしの遺書ではございません) 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824

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