第47話 激闘開幕!ラグニャロク!5

 イカ人間獣医セピアのイカスミが、天使の兵隊にぶちまけられた。


「くっ、天使の純白の羽が真っ黒にされるなんて……屈辱ぅ〜〜」


 天使は目を回して落下した。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」


 セピアは壁に手をついた。天使の軍勢は途切れない。彼女の横で、招き猫カムカムはジャムをくらい、グルグル回転していた。


 大天使マイクは、変わらず空から見下ろしていた。


「いい加減、やめませんかねー? こっちは上から言われてやってるだけっすしー、兵隊はいっくらでもいますしー、戦いなんてしたくないんすよ」


「私だって!!」


 セピアは泣きながら叫んだ。


「戦いたいわけないじゃないですか!! 私は獣医なんです!! 命を守る仕事なんです!! なんで戦わなきゃいけないんですか!! なんで、なんで猫ちゃんが傷つかなくちゃいけないんですかッ……!!」


 泣き崩れながら、それでも戦う構えをやめないセピアを、大天使マイクは見下ろし続けた。


「心中お察しします。同情します。それだけっす。

 こっちはただ、やることをやるだけなんで」


 マイクは号令した。天使兵が、一斉に突撃した。セピアは絶望的に見上げ、呪われた触手に力をこめた。


 風が、吹いた。


 マイクは目を見開いた。天使兵のそのすべてが、なでられ、くすぐられ、笑いもだえて気絶し、地面に落ちた。


 セピアは、ぼう然と見上げた。その背中が、優しく叩かれた。


「頑張ったなァ……」


 それから、男はセピアの前に出た。


 セピアは、その背中を見た。ひょろりとした背中。その手に持つ、ねこじゃらし。


 大天使マイクが問いかけた。


「……何者っすか、あなた」


「ただの人間さァ……」


 男は。ねこじゃらしマスター・エノコローは、空の天使にねこじゃらしを突きつけた。


「じゃれついてきなァ天使どもォ……オレが気が済むまで、遊んでやるよォ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る