第713話あゆからの取調

「昨日どこ行って──────」


「その前にっ!俺にも言いたいことが──────」


「もう一度聞きますよ?」


 あゆは威圧するように詰問してきたかと思うと、俺のことをベランダの手すり壁に圧迫してきた。


「ちょっ・・・」


 壁で隔たりがあるとは言え一歩間違えればいつでも落ちてしまえる場所だ。


「何するんだ、危な──────」


「昨日4人で揃いも揃って一晩中もどこに行ってたんですか?」


 あゆは答えなければ落とすとでも言いたげな態度を取った。


「お、落ち着い──────」


「あっ、うっかり手が滑っちゃいまし──────」


「ちょっと待った!!」


 俺はあゆが確実に良からぬことをしようとしていることを察知したため、それを全力で止める。


「待ってるのは私ですよ〜?早く答えてくださいってばぁ〜」


「な、なんでそんなに気になるんだよ?別にちょっと出かけてきただけだろ?」


「ちょっと?男女の高校生が一晩も出かけて置いてちょっとなんて、先輩も肝が座ったもんですね〜、もしかして、昨日何かあったんじゃないですかぁ?」


「っ・・・」


 あゆの探るような視線が痛い。

 俺はここ最近非日常に慣れたつもりでいたけど、まだこういう探るような視線に対抗するだけの精神力を持ち合わせていないらしい。


「・・・次が最後ですよ、どこに行ってたんですか?」


「・・・一晩泊まってたんだ」


「どこに」


 俺は取調室にでもいるのかと思うほど鬼気迫る声で大事なところを言うようにと諭されてしまう。


「・・・家に」


「家・・・?」


 あゆの予想外の回答だったのか、少し驚いたような顔をしている。


「あ、あぁ、家に一晩泊まってたんだ」


 嘘はついてない。

 誰の家かを言わなければ何も問題はないはずだ。


「誰の家に、ですか?」


 だがあゆがそんなのを見逃してくれるわけもなかった。

 ・・・ここで本当のことを言ったら色々と面倒なことになるのはわかりきってるけどここで嘘をついてその嘘がバレた後は面倒なんてレベルでは済まないような気がするので、ここは素直に言っておくことが懸命だ。


「俺の・・・実家に」


「実家・・・!?」


 とうとう完璧に予想の範疇を越えたのか、あゆが感情を剥き出しにした。


「実家って・・・!?もしかしてもう子供を作っていてその挨拶に先輩のご両親に会いに行ったってことですか!?子供を作ったってことは私とするはずだった初めても──────」


「違う違う!飛躍しすぎだ!普通に母さんと初音が約束してて・・・」


「約束?どうしてもう白雪先輩と先輩のお母さんが連絡なんて取れる関係になってるんですか?」


「そ、それはたまたまで・・・」


「・・・まぁ、事情は大体わかりました」


「そ、そうか!」


「でも、先輩の分際で生意気にも昨日私からの電話を無理やり切ったことについては許してあげてないです」


 これが俺より年下だなんて言うんだから本当に世界は広いものだ。

 ・・・待て、そうだ。

 あゆに先輩としての威厳を伝えるという目的を忘れるな、俺!

 言うんだ。


「別にあゆに許されなくたって俺には何も関係無い、あゆこそもうちょっと先輩である俺のことを敬えとまでは言わないまでもせめて対等な目線で話した方が良い」


「っ・・・へぇ〜♪」

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