第633話初音の妨害

「ん〜!!そーくんのお母様!!ものすごく美味しいです!!」


 初音は一口カレーを食べるなり即座にその言葉を口にした。

 満面の笑みで。


「本当〜?嬉しい〜!でも結愛ちゃんも一緒に作ったから、お礼なら結愛ちゃんにも言ってあげて!」


「え、あ・・・」


 初音は不自然な沈黙を作り・・・


「も、桃雫さん、あ、ありがとう、お、美味しいよ・・・」


 初音は徐々に小さくなっていくような声音で言った。

 ・・・最後の方なんてほとんど聞き取れなかったな。


「う、ううん、わ、私の方こそ、お、美味しいと思ってもらえて、う、嬉しい、よ・・・」


「2人とも仲良しだね〜!」


 これが本音ならこの世界はどれだけ生きやすく、そして素晴らしい世界だったのだろうか。

 でも現実はそう甘くは無いんだ・・・

 そして俺たちはそのまま4人で一緒にカレーを食べ終えた。


「はぁ〜美味しかった〜、みんなは?美味しかった?」


「はい!美味しかったです!!」


「美味しかったです!足を引っ張ることなく料理を終えられて良かったです!!」


「あ、お、美味しかった・・・」


「そう!良かった〜♪」


 正直に言うともうこれも慣れっこだが、俺からすると空気が重すぎて甘いはずのカレーの味を感じることができなかった。


「あっ、そういえばちっちゃい時は結愛ちゃんも明くんと結婚したいって言ってたんだよ〜?ふふっ、覚えてるかな〜?」


「お、覚えてます!い、今でもそーちゃんと────────」


「あっ!そーくん!お米粒ほっぺについてるよ?」


 初音はわざとらしくそう言うと、俺のほっぺに手を伸ばした。


「え、こ、米粒なんてついてたか・・・?」


「うんっ♪」


「そ、そうか・・・あ、ありがとう」


 ほっぺに何かついてて気づかないなんて現実であるんだな・・・


「あ、明くん今日はどうするの〜?」


「・・・ん、どうするっていうのは・・・?」


「今日お泊まりして行くって話に決まってるじゃない!」


「・・・は!?」


 お、お泊まり?俺たちが今日ここに・・・?

 冗談じゃない!

 まだ1時間ぐらいしか経ってなくてここまで厄介そうなことになってるのに初音と俺、しかも結愛まで泊まって行くとなると本当に何が起こるかわからない。


「い、いや、泊まるって言っても、俺着替えなんて持ってきてないから無理だ!」


「何言ってるの明くん、ここは明くんのお家でもあるんだから、明くんの着替えぐらいあるに決まってるでしょ〜?」


 た、確かに・・・!


「初音ちゃんと結愛ちゃんはどうす────────」


 まぁ初音と結愛は着替えなんて持ってきてないだろうし、きっとこれは断るはず───────


「「泊まらせていただきます!!」」


 まさかの即断かよ!!

 こうして、少なくとも俺に良いことは一つも起きないであろう夢と絶望のお泊まり会が始まった。

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