第613話そーくん(ちゃん)は私の

 私はそーちゃんの脱がせた服を着させてあげてから、自分も下着をちゃんとつけてその上に制服も着た。


「はぁ・・・」


「先輩の着せ替えなんて羨ましいですよ〜結愛先輩〜!」


「そーちゃんのことを私がしてあげるのは当たり前のこ─────っ!」


 私は暗闇ながらもすぐに殺気を感じて、顔を横に逸らした。

 その直後・・・


「ここで私のそーくんに何してたの!?」


 暗闇でもわかるほど激昂している虫の声だった。

 本当ならここで「虫のじゃなくて私の」って言いたいところだったけど、私はあえて冷静に対処する。

 この虫の不安を煽るために。


「別に?ちょっとそーちゃんとそういうことしてただけだけど?」


「そうそう〜、ちょっとアレなことしてただけで、白雪先輩には関係ないですよ〜❤︎」


 一応はこの子も今は協力してくれるみたい。

 でもそれもこの虫がそーちゃんと恋人でいる気になってる時まで、それが終わったら今度はどっちがそーちゃんの恋人になるかでこの子とも争うことになる。

 だからあくまでもこれは一時的な共闘。


「・・・そっか、死にたいんだね」


 虫は呆れたように言う。

 この虫はいつもいつも極端。

 恋愛ごとの話なのにいつも死ぬか生きるかの話をしてくる、まぁ私もそーちゃんが見知らない女に無理やり襲われたなんてなったらそうなるからわからなくもないけどね。


「・・・今すぐにでも殺したいけど、まずはそーくんを返してもらうから」


 そう言うとこの虫は図々しくもそーちゃんに触ろうとした。

 それを見た瞬間、私はこの虫の手を抑える。


「返してもらうって何?そーちゃんは私のだから今のままで正常だよ」


「は?何度も言ってるけどそーくんは私のなの、私のこと虫呼ばわりしながらそっちは春にそーくんにフラれたことも忘れたの?記憶力微生物未満なの?」


「あれは私がフラれたんじゃなくて虫がフラせたんでしょ?」


「あれはそーくんの本心だよ」


 私はこんな虫とこれ以上話しても仕方がないと思い、とりあえずそーちゃんに触ろうとするこの虫の手を押さえることに専念することにし───────


「ぃたっ!」


 私は何かで手首を切られそうになったからすぐに手を引っ込めた。

 ・・・ちょっと掠れたところから血が垂れている。


「・・・刃物?」


「暗闇でも刺すぐらいはできるよ、まぁ学校で殺したりしたら私が捕まってそーくんと離れ離れになっちゃうから殺したりはしないけどね」


「今私のこと切ったんだから、これだけでも私としては訴えれるよ?」


「この包丁は指紋も付かないし水分も弾く特別性なの、だから証拠にはならないよ」


 そう言って虫はそーちゃんのことを抱え上げた。


「あっ!そーちゃ──────」


「じゃあね」


 虫はそーちゃんのことを抱え上げたまま、お化け屋敷の出口に逆走していった。


「待って!」


 私もすぐにそれを追いかけるようにしてお化け屋敷を逆走する。

 なぜかあの子はそれには着いてこなかった。

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